39話──聖人少女、アイリ
「何しやがるんだっ、てめえは?!」
「あんなセクハラを見て黙っていられる女の子は居ません!」
せっかくの女騎士スッポンポンッショーを邪魔してくれやがって。何が天使だ。この悪魔め。
「うごお……俺のウィークポイントを狙いやがって……」
変身時に最も負担のかかる内臓への攻撃。天使にしては凶悪過ぎるぜ。
「あ~あ。見ろよ、ラットの尻尾がこんなんだ」
なん本かは切られちまった。提出時に影響ないか心配だぜ。
「くそ。あの女騎士といい、さっきの小麦粉少女といい、今日は厄日だぜ」
「……」
「ん? どうしたハトエル」
「いえ。先ほどの騎士さんや、転んでしまった少女から、何か不思議な感覚を感じたものですから」
「なんだ、またエンジェルシックスセンスか?」
確かに印象に残るような奴らではあったな。
「んな事より。ほら、さっさとギルド行くぞ」
「はい」
これ以上何もトラブルは起こらないでくれよ……。
「5本ほどは損傷が大きいため、不正でかさ増しした物なのか判断がつきかねるので、残りの18本を証拠品として扱います」
「マジかよ……」
ギルド受付にて美人嬢からの残酷な決定。
あんなに苦労したのに、あの馬鹿騎士のせいで100リルクも減った。
「ガックリポ~ン……」
「申し訳ありません。ギルドの規定ですので……。しかし、証拠品の紛失や損傷は駆け出し冒険者ならよくある話ですので、あまり気を落とし過ぎないよう……」
「通り魔もどきの女騎士に斬りつけられるのもよくある話か?」
「それは……あまり聞きませんね……」
同情するように俯く受付嬢に礼を言ってから、ハトエルの待つテーブルへ戻った。
「見ろよハトエル。100リルクも減った報酬金だ。喜びやがれ」
「私に八つ当たりしないで下さいよ~……」
ツイてねえ。粉まみれにされるわ、馬鹿天使にボディブローされるわ、ラットの大群には噛られるわ、アホ天使がカメラを水ん中に落とすわ、女騎士には殺されかけるわ、ポンコツ天使にボディブロー入れられるわ、報酬金は減るわ。
「望さん。これから良いことありますって。ほら、300リルク以上は手に入ったんですし、何か美味しい物食べましょう? ね?」
「そうだな……。覆水盆に返らず、こぼれたミルクは戻らない、残ったミルクを大切にしろ。先人達はそうやって前向きになるよう言葉を残していった」
けど、俺らの財政じゃ散財して憂さ晴らしって訳にもいかない。
「水でも飲むか……」
「ノゾムさん? ハトエルちゃん?」
「「!!」」
この天女のように可憐な声はっ……!
「二人とも……どうしたんですか? 服が白っぽいし、ボロボロだし……」
「ア、アイリ~!」
「アイリさん~!」
「な、何ですか?!」
そう、悲嘆に暮れる俺らの元に現れたのはアイリ。
突如登場した天使のごとき姿に俺とハトエルは涙を流して拝んだ。
「ヒールしてくれ~!」
「一欠片のパンをお恵みください~!」
「??? な、何があったんだろう?」
アイリのヒールにより傷も治り、おまけに熱々な昼飯が運ばれてくる天国のようなテーブル。
「う、うめえ! このグラタンみてえな料理クソうめえ!」
「あちゅっ、熱々だ~!」
「ふ、二人とも、落ち着いて食べて。大丈夫、逃げたりしないから……」
この世界で唯一まともな人間が、まさかアイリという駆け出し冒険者少女だったとは。
つうか、こいつこそ魔法少女に相応しい人格の持ち主じゃねえか?
「ふぃー。食った、食った~……」
「幸せ~……」
やっと人心地ついた俺とハトエル。
そんな俺らをアイリは実に慈悲深き目で見ていた。
「大変でしたね。そんなに立て続けに災難があったなんて」
「ああ。まったく、神様はこんな善人に酷い仕打ちをしてくれるぜ」
「半分くらいはパパの自業自得でしょう?!」
「んな事ねえよ。五割があの馬鹿ども。んで、残りの五割がお前のせいだ」
「なんでっ?!」
「ま、まあまあ。とりあえず無事に帰ってこれたんだから、良かったじゃないですか」
アイリは、俺らの事情を聞いた後、クエスト初勝利という事で祝いに奢ってくれたのだ。
「でも、まさかこんなに早くここで二人に会えるとは思っていませんでした。ノゾムさん、昨日はありがとうございました」
「おう、苦しゅうない」
「もう、そうじゃないでしょ。アイリさん、お礼を言いたいのはこちらです。何度も何度も本当にありがとうございます」
「ううん。いいの。助け合いって大事なことだし、ノゾムさんもハトエルちゃんも良い人だから」
人を見る目が壊滅的なのはちょいとアレだが、間違いなく良い奴だ。
「ところでよ。ギルドに来たってことは何かクエストでもやるのか?」
そう尋ねると、アイリはコクっと頷いた。
「はい。ここから東に行った所にモーニング市場という場所があるのですが、そこに現れるモンスターの討伐をしようかと」
そう言って懐から依頼書を出すアイリ。
「モーニング市場周辺モンスター討伐。適性ランクはDからAです」
「適性範囲が広いな?」
「こちらの依頼書には目撃された複数種のモンスターの名前が記載されていまして、該当するモンスターを討伐した場合、それに応じた報酬金が貰えるんです」
「ふーん。どれ」
なるほど、初めて見る依頼リストだ。
倒したモンスターの種類と数によって報酬金が定められているようだ。
例えば、スライムなら一体20リルク。あのクソナメクジなら30リルク。他にも見た事ないモンスターの名前が並び、その下に50、60、100と続いている。
「ちなみに、湖に現れたキングガーニンってやつはどんくらいなんだ?」
「このリストにはありませんが、キングガーニンなら一体で5000リルクから8000リルクと言ったところでしょうか」
あいつそんなに高級モンスターだったのか。
「なら、ドラゴンは?」
「最強クラスですので、依頼内容にもよりますが、8万から10万ほどかと」
一体倒せば4、5ヶ月暮らしていけるくらいか。
高いと考えるか、命懸ける割には少ないと考えるべきか。
「待てよ?」
そのレートで計算するなら、この世界に来てから俺はドラゴン一体、ナメクジ100体くらい、キングガーニン十体くらい撃破してんだから、めっちゃ稼いでるじゃねえか。他にも森の中で色んなモンスター倒してたし。
優に一年間暮らしてけるだけの撃破してるんじゃ?
「くそ~……。だが、あの姿になるのは生理的に受け付けられん……しかも変身時の負担は洒落にならんくらい大きいし……」
「何の話ですか?」
「いや、なんでもない。しかし、なかなか旨そうなクエストだな。俺も受けたいな」
「あ、でしたら……」
アイリが少し上目遣いにこちらを見た。
「良かったら一緒に受けませんか?」
「一緒に?」
「はい。この依頼書と、ノゾムさんのメンバーズカードを持って受付に行けば“パーティー認定”されて、共同クエストと言う事になりますが」
「ほう、詳しく教えてくれ」
アイリの説明はこうだ。
一つの依頼書で同じクエストを複数人で受ける場合、参加者は“パーティー”と認定され、臨時リーダーを設定したチームで事務処理される。個人で受ける時と報酬形態が変わるそう。
特徴としては、報酬金自体は基本的に平等に人数分に等分されるのだが、クエスト達成の功績ポイントは、そのまま全員に付与されるということ。
つまり、報酬金100リルクで功績ポイント10のクエストを二人で受けた場合、金は50リルクずつになるが、ポイントは10ずつ貰える。
「デメリットとしては、実力に差があると報酬に不平や不満が出るってとこか?」
「そうですね。そういうトラブルも多くあります。あと、違約金が発生するクエストの場合は、リーダーが多めに負担する事にもなります」
その代わり、割り切れない報酬の一部はリーダーの物になるそうだ。
例えば1000リルクを三人で分ける場合は、普通の二人が330リルクで、リーダーが340とかになるそう。
その割合はクエストによって異なる。なお、事前に話し合ってギルドに申請する事で報酬金の割合はある程度決められるそうだ。
他にも色々とあるようだ。メンバー死亡時の報酬金とか、それに伴うペナルティとか。
まあ、いずれにせよだ。
真っ当にやるならパーティーを組むのは決して悪い話じゃない。特に後方支援系とアタッカー系が組めば有利に戦える。
「アイリ、俺のパーティーに入らないか?」
クールにドヤ顔で誘ってみると、アイリは小さく笑って頷いた。
「はい。よろしくお願いしますね、ノゾムさん」
オジサンを勘違いさせるような笑顔で応えるアイリなのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




