2話──魔法少女とか嘘だよな?
「落ち着いて私の話を聞いて下さい。信じられないかもしれません。実は……貴方は間違って職業〈魔法少女〉を選択してしまいました! 原因、私のくしゃみ! 残念!」
「な、なんだってー!? そんな馬鹿なー! …………って言うと思ったかオラァッ!!」
──ガシッ、メキメキメキメキ……──
「んがあぁっ!? 頭潰れちゃいますー!」
「あん時にチラッて見えたわボケええ!!」
やはり見間違いじゃなかったらしい。とても残念な事に。魔法少女にタッチしたのは事実のようだ。
んなもんチェンジだ、チェンジ。
「お前のミスなんだから、当然どうにかしてくれるんだよな?」
「はい。私もそう思って天界の各部署に問い合わせて来ました。そのせいで迎えに来るのが遅くなってしまって。すみませんでした」
「気にすんなよ。ミスなんて誰にでもあるさ」
寛大な俺は天使の頭をポンポンと撫でてやった。
「さ。じゃあ今度こそ俺に選ばせてくれ」
「それがですね」
天使はペロっと小さく舌を出した。
「問い合わせたら『もう一度決めちゃったからやり直し出来ない。ムリ~』って言われちゃいました! 残念! 許してペロリンコっ」
嘘だろ……俺の一世一代の大ボーナス。一生に一回のみのビッグチャンス。それがパアだと?
「オワッタ……もう夢も希望も無い……」
ガクリと膝から崩れ落ちる俺の体。あ、思ったよりこたえてやがる。
「あ、あのっ。本当にごめんなさいっ! 私のせいで大変な事になっちゃって。で、でもっ! その代わりと言ってはなんですけど、私がこれから守護天使としてお付きする事になりましたから!」
「守護天使?」
気になるワードに顔を上げてみると、天使がむんっと誇らしげに胸を張っていた。
「はいっ! こうなってしまったのも私の責任。故に、貴方を導くように女神様から神命を受けています。だから、一緒に頑張りましょう! あっ、申し遅れました。私、貴方の担当守護天使になりましたハトエルと言います。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「よく分かんねえけど……そうか」
俺は気を取り直して確認する事にした。
「んで? ハトエル。俺の選んだ職業なんだが……」
「魔法少女ですよね!」
「マジで魔法少女なの?」
「はい、神殿で確認してきました。間違いありません。貴方──あ、お名前は日吉望さんでしたっけ?」
「知ってんのか」
「天使は死者の名簿を持ってますから」
「死神じゃん」
まあ自己紹介の手間が省けて良かった。
「それで、望さん。貴方は魔法少女を選択してしまいました。それは良いのですが、少し問題があります」
「良くはねえ……」
俺の恨み呟やきは無視され、ハトエルによる異世界の簡単な現状が説明された。
「今現在この世界、と言うよりこの国なのですが、魔王からの突然の攻撃により、滅亡の危機に陥っています。沢山の冒険者やナイト、勇者等が必死にモンスターと戦っていますが、戦況は悪化の一途を辿っています」
「マジかあ」
まあ、治安の悪さは事前に言ってたし仕方ないか。
「じゃあ、チートハーレム無双も、それはそれで大変ではあったのか」
「はい。ただ、少なくとも自由に好きなまま生活して頂いて大丈夫な予定だったんですがね」
「そうか。ん? 予定“だった”?」
なんだか引っ掛かる言い方だ。
「しかし、魔法少女を選択してしまったのでは仕方ありません。心機一転、気分刷新。充実した人生になると思いましょう!」
「ちょいと待て」
「はい、なんですか?」
「なんかその言い方だと俺は自由に生活しちゃ駄目な感じなんだが?」
「え? はい」
そうですけど? と言うように首を傾げるハトエル。
「だって、魔法少女ですよ? そりゃあ、魔王を倒すために戦ってもらわないと」
「は?」
おい、ちょっと待て。
「なんで?」
「魔法少女ですから」
「オーケー。天使は脳ミソが発酵して本物の味噌になってんのは良く分かった。丁寧に聞こう。なんで魔法少女が魔王と戦わなきゃなんねーんだ? 普通、魔王と戦うのは勇者と相場が決まってるだろ?」
「いやー、勇者だけでは厳しいかと」
勇者の存在意義よ。
「魔法少女なんて子供っぽいお子ちゃまジョブが出る幕なんてねーだろ!」
「何を仰いますか! 魔法少女は全職業の中でも特別! 断然トップの最上級、完全上位互換のスーパー最強職業ですよ?!」
「嘘つけーっ!」
「ほんとですって! ほら、これ見て下さい!」
どこから取り出したのか、妙な紙を鼻先に突き付けてくるハトエル。紙にはピラミッド形の図が描かれており、食物連鎖図みたいになっている。
「これは天界より預かってきたこの世界における人間社会のヒエラルキー表です。基本的には戦闘力もしくは社会的地位によって振り分けられています。さあ、一番下から見ていって下さい」
〈最下層〉・奴隷、罪人、老人、ニート、弱者男性。
「おい。どこのどいつが作った表かは知らんが、後半二つは明らかな炎上案件だぞ。すぐに書き換えるように言っておけ。何より、俺に効く」
「あ、そうですか? では、上層に飛ばして……」
〈第三位層〉・格闘王、マスターテイマー、ホーリーナイト。
〈第二位層〉・伯爵以上の貴族、聖女、剣聖、賢者。
〈第一位層〉・勇者、王族、法王。
❬最上位層❭・天使、魔法少女。
「ね? ほらあ」
「ほらー。じゃねえよ! 嘘だろっ?! こんなふざけたティアー表があるのか?!」
この馬鹿天使がハイティアーなのも納得いかんが、魔法少女が一位はおかしいだろ。
「こんな改竄データで俺を騙せると思うなー!」
「でっち上げじゃないです! それに、魔法少女というのは天界と盟約を結んだ王家のために戦う戦士なんですからっ! 魔法少女なのに王国を護るために戦わなかったら契約不履行になっちゃいます!」
「知るかよそんな契約! 俺は結んだ覚えねえぞっ! 料金プランセットのリボ払いよりも悪質だな!」
「そんな事言わずにお願いしますよ~」
「やらねえよ! 常識的に考えろ! 百歩譲ってそのインチキ臭い表が事実だったとしよう。魔法少女が王国だかのために戦うのが義務だっととしよう。だが、俺がフリフリのスカート履いて、ピンクのキラキラを纏って、手でハートマーク作っちゃったりしたらキモいだろ?」
「ウォエーッ! 変な事言わないで下さいっ! 想像しちゃったじゃないですか!」
腹パンしてもっと吐かせてやろうか。
「だがそれで分かったろ。魔法少女なんかやらない方が世のため人のためだ。第一、俺だってんなコスプレしたくねえ」
「あ、いえ。でも変身すればそこは──」
「うるせっ! 黙れっ! とにかくやらん!」
想像しただけでも身の毛がよだつ。実力うんぬんじゃない。そんな職業まっぴらだ。
だが、ハトエルの奴はしつこくおねだりしてきた。
「そんな頑固にならないで~。魔法少女って最強ですよ~?」
「俺はカッケエ職業やりたかったのっ。銃ぶっぱなして、モンスターどもを蜂の巣にして、硝煙にキスしながらガンアクションして『剣? 魔法? 俺なら銃声一発で全て終わらせるね』とかキメ台詞言ったりしたかったの!」
「一発じゃ蜂の巣に出来ませんよ?」
「細けえ事はいいんだよ!」
もう問答なんてうんざりだ。こんな馬鹿天使ほっといてどっか行こう。
「とにかくやらんもんはやらん。この世界の事なんて知った事か。じゃあな」
ハトエルに背を向けて歩き出す。
「……なんでですか?」
「ああ?」
それまでと違う声音が発せられたので振り向くと、ハトエルが怒ったように睨んできていた。
「魔王に襲われてこの世界は危機に瀕しているのですよ? それなのに、どうしてそんな冷たく見捨てられるんですか?」
「はあ?」
「そりゃあ、私も悪かったし、望さんが嫌がる気持ちも分からなくはないです。でもっ、困ってる人が沢山居る状況だって分かっておきながら、『やりたくない』の一言は冷たくないですか?」
「……それじゃあ何か? お前は俺にこう言って欲しいのか。『そうか、可哀相に。なら僕がどうにかしてあげよう。自分のこれからだってどうなるか分からないし不安だけど、この世界に居る1ミリも知らない人達のために自分の人生をフイにして助けてあげなくちゃ』って言えばいいのかよ」
「私は別にそこまで……」
「うるせえ!!」
思わず怒鳴った。
「お前は天国とかで善人の相手しかしてないから分からねえんだよ。人間はそんな底抜けの馬鹿ばっかりじゃねえ。会った事も話した事もない、しかも全然知らねえ世界の人間を助けようとか言い出す奴は漫画やアニメの観すぎか、ゲームのやり過ぎだ。バカバカしい」
涙目になったハトエルから目を逸らし、今度こそ背を向ける。
「悪かったな。お前が求めるような人間じゃなくて。……俺はそんな真っ当な善人なんかじゃねえんだよ」
それだけ言ってから、俺は行く当てもない森の中を進みだした。
お疲れ様です。次話に続きます。




