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1話──異世界は無理ゲーの始まり

 






 う、う~ん……。





「ぅ……」



 ──チチッ、チチチッ──


 鳥のさえずりがする。そよ風が頬を撫でている。

 土と草の匂いがめっちゃする。


「う、うぅ~……」


 目は動かせるようだ。薄くぼんやりとした視界が見え始めた。


「こ、ここは?」


 目が覚めた場所。そこは草っ原の上だった。

 起き上がって辺りを見回してみる。

 木、木、木。木ばっかりだ。


 どうやら森の中らしい。


「てっててて……」


 頭がガンガンする。気持ちも悪い。少しばかり軽めの二日酔いみたいだ。


 だが、意識はハッキリしてきた。段々と周りの様子が分かってきたぞ。


 ここは見知らぬ森の中。

 周りは木ばっかり。

 俺はさっきの不思議空間での格好のまんま。

 多分、死んだ時の格好。無地のシャツにズボン。安物のスニーカー。


 以上。


「…………うおいっ! どういう状況だよ!」


 これは転移とやらが成功したのか? 確かに、さっきの不思議空間ではなくなって、俗世と言うか自然の中と言うか、あの世とは違う既視感のある空間にはなっているが……。


 だが、どちらにせよ。


「ここどこだよ……」


 おそらく、異世界なんだろうが、ただの森の中じゃイマイチ分からん。木も草花も特に変な物じゃないし。特徴が無い。


 立ってみると、これまた立ちくらみ。なんかよう分からんが、気分は最悪だ。


「いっつつつ……あのクソガキ天使め。俺は客だぞ。こんな粗末な転移なんかしやがって」


 客かは分からんが、迷える魂をこんなヒデエ目に合わせやがって。今度あったらあのロリ天使に大人の恐ろしさという物を分からせてやる。



 それはともかくとしてだ。


「ここ、どこだ?」


 多分、異世界の森ん中なんだろうが……。

 というか、俺の装備。


 ・服

 ・靴


 以上。


 ひでえ。初期装備すらねえ。皮の防具とか銅の剣すら無い。丸腰のまんま森の中かよ。死んで下さいって言われてるようなもんだぞ。


「あ、待てよ?」


 そうだ。さっき職業を選択したじゃないか。確か、魔法照準士とかいうチートユニークジョブ。


 あの天使の話じゃ欲しい武器をその場で生成出来る能力だという事だった。

 ならば、初期装備なんぞ無くたって問題ない。


「早速チートスキルの出番だ! 出でよ武器!」


 …………。


 ──チチチチッ……チュンチュンッ……──


 小鳥の声が聴こえる。


「詠唱が違ったか。なら、武器生成! カモンッ、マイフェイバリットウエポン! ストレートライン! ライフキーパー! バードマン!」


 ──ピロロロ……ヒュイーッ……──


 空をゆく鳥の声がする。


 ふーむ。ゲームの銃じゃ駄目か。


「デザートイーグル! M1ガーランド! M16! AK-47! 三八式歩兵銃! ブローニングM2重機関銃!」


 ミリオタじゃねえから銃の名前なんてほとんど知らないが、これなら!


 ──サワサワサワ……──


 木々の葉が擦れ合う音しかしなかった。



「出ねえじゃんっ!! 銃っ!」



 ちくしょう、とんだインチキ天使め。銃どころか弾の一発すら出てこねえぞ。


「駄目だああー! 死んだあああっ! こんなどこかも分かんねえ樹海の中で手持ち無しとか死刑宣告じゃねえかあああ!」


 いや。自暴自棄になるのは早い。きっと何か理由があるんだ。

 詠唱方法が違うのだろう。それか、ある程度レベルが上がんないと出せる武器が限られるとか。


 だが、いずれにせよ今すぐ能力が使えなきゃ意味がない。こんないきなりピンチの状況で即使用出来ない能力など、無いのと同じだ。

 もし、ここがちゃんと行き先の異世界だとして、ファンタジーな所だとしたら、モンスターが居る。丸腰で勝てるわけもないだろう。遭遇したらジ・エンド。転移した瞬間また死亡だ。


「くそ、何か無いのか。説明書とか、能力発動の方法を教えてくれる精霊のお守りとかっ……」


 ダメ元でポケットに手を突っ込む。


「おっ?!」


 指先に何か触れた。


 何かある。入ってるぞ。


 藁にもすがる思いで、急いで取り出してみた。


 しかし、手の上にあったのは──


「……何だこれ?」


 出てきたのは、なんと表現すればいいのか。

 ハート……としか言いようがない。

 ピンク色をしたハート型の綺麗な宝石。それを金の羽が包むような格好で装飾している。


 掌に収まるサイズ。ゴルフボールくらいのサイズか。


 もちろん、こんな物は知らない。生前も、さっきの不思議空間で手に入れた覚えもない。



 すると、これは一体?


 なんかこーいうデザインの道具っつうか、アイテムっつうか、どっかで見たような……。


「んん?」


 待てよ。アレだ。ニチアサ系の女児向けアニメでよくある感じのアイテム。


 そうそう、ちょうどそんな感じだ。可愛らしくて、綺麗で、ロリのハートをくすぐるようなデザイン。

 こういうのを持って、『へんしーん、シャイニングパワー!』とか『プリティトランスモード!』的な感じに叫ぶと、キラキラなお姫様みたいなドレスアップするやつ。


「んんん?」


 いや。

 なんでそんなのが俺のポケットに?

 オモチャ屋で女児を押し退けて買った覚えなんてないが。


「んんんん?!」


 待て……。


 そう言えば……。


 さっきの転移の儀とかいうやつ。

 あのドジ天使がくしゃみしたせいで狙ってた職業の真下を押しちまったようなー……。




『魔法少女』




「は、ははは……ははははは。う、嘘だろ?」



 ま、まさかな。

 だってそうじゃないか。



 俺は日吉望(ひよしのぞむ)32歳。独身。男。フリーター、彼女無し、友人は地元から全て去って疎遠。しかもここ3ヶ月は何のバイトもしてないで一人家に引きこもり。社会との接点ほぼ無し。


 そう、男。アラサーの。しかもニートに等しい。


 それがだ。



『魔法少女』



「いやいやいいやいやいやっ!」


 無い。ある訳ない。ナシ寄りのナシどころか、物理法則的にも社会的常識でもあり得ない。



 きっとアレは見間違いだ。本当はちゃんと魔法照準士とやらにタッチ出来ていたはず。


 いきなりこんな所に放り出されたんだ。気が動転してるんだろう。ふぅ、困ったもんだ。やれやれ、俺は別に焦ってなんかいないんだけどな。



『あっ、見つけた! お~いっ!』


 そうやって心を鎮めていた所へだ。


 聞き覚えのある声が聞こえた。その声を聞いた瞬間、俺の体の奥底から殺意が湧いた。


 振り返ると、こちらに満面の笑みでトタトタ走ってくるくしゃみ天使ちゃん。


「捜しましたよー! 無事で何よりですー!」

「わーい、天使ちゃーん!」


 こちらからも駆け寄り、感動の対面。



「オラァッ!」


 ──ガシッ──


「わまままーっ?!」

「おう、ガキンチョ~。よくもこんな訳分かんねえ所に放り出してくれたなあ」


 出会い頭に天使の頭を鷲掴みにする。あ、なーんか無性に握力測定したい気分だ~。


「痛いっ、痛いっ、メリメリいってます! 手離して下さいっ、頭潰れちゃう~!」


 怒りを堪えて解放してやると、天使は頭を押さえながら軽くうめいた。


「うぅ、天使に暴力なんて、最近の人間は信仰心が落ち過ぎですっ……」

「んな事より。色々聞かせて欲しい事がある。ここはどこだ?」

「ここは転移先の世界。大陸最大の国家『サンライズ王国』の東に位置する大森林です」


 天使は恨めしそうに顔を上げて答えた。


「先ほどお話した転移先の異世界です」

「ほーう。ちゃんと異世界ではあるんだな」


 まあ、そこは順当だ。森ん中だけど。


「あ、あと。実は貴方に言っておかなければならない事がありまして」

「おう、なんだ?」

「実は転移の儀は失敗してしまいました! 残念! お悔やみ申し上げますっ!」


 再び繰り出したフィンガープレスホールドによって天使ちゃんはバタバタと悶え


「ギブっ、ギブっ!」


 と叫んだ。



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