プロローグ
「───という事で、あなたは死んでしまいました。残念! お悔やみ申しあげます!」
「……マジ?」
と言うしかない。だって意味分からん。
気が付いたら白一色の意味不明な空間に居て、しかも小学三年生くらいのロリにそんな事言われてんだから。
ふんわりとした薄い桃色の髪に、透き通るように輝く円らな瞳。ニコニコとえくぼを絶やさない、パッと見は可愛らしい女の子。
が、しかし。ただの子供でないと自然に理解した。
真っ白なワンピースのような服に、背中から生えた純白の翼。そして頭の上にはほんのりと光を帯びた金の輪っか。
うん。天使だ。それ以外の予想が霞むくらいに。
「あの~。もう一回確認していいか?」
「はいっ、どうぞ」
「俺は死んでて、この変な所で変な君に変な事を言われてる。その認識でおけ?」
「少し違います! ここは死間という天国でも地獄でもない特別な空間で、私はそこの案内役の天使! そして、貴方は人生半ばにして無念の事故死を遂げて哀れポックリポーン! でもっ、チャラララ~ッ! ラッキーですっ! 貴女は転生転移するために、特別にここへ召喚されました! パンパカパーンッ!」
人の臨終をふざけた風味にしやがって。分からせてやろうかクソガキ。
「えーっと。お兄さんちょーっとよく分かんなかったんだー。懇切丁寧にもう一回教えてくれるかな?」
「え? 貴方の人生の終わり方をですか?」
「てめえも人生の終わり方を知りたくなかったら転生転移の話とやらを教えろ。羽むしり取って炙るぞ白鳥ガキが」
「こ、恐いです! もう一回説明するから苛めないで下さいっ……」
ちょいと凄んでやると、天使らしきロリちゃんは怯えたように頭を抱えた。
まあ、なんというか。要は俺は死んだ。
そして、この不思議空間で天使っぽい女の子にアニメみたいな話を聞かされている。
そう。すなわちこれ転生。
正しくは転移らしい。
「えっとー。貴方は不慮の事故死を迎えてしまいましたが、神のお導きにより、新しい世界で肉体を再構築して人生を再スタート出来るのでして──」
何でかは知らんが、本来なら天国か地獄に行くところを、俺は異世界へ転移させられる事になったそうだ。
「マジかよ。本物の異世界転移かよ」
「はい! ただ、残念な事に行き先はあまり良くない世界なんです。これまで貴方が住んでいた世界に比べたら文明レベルは低いし、危険がいっぱいで……」
「マジかぁ。どんな世界なんだ?」
「魔法や冒険に満ち溢れていて、モンスターが居て、王家や勇者があって、ダンジョンで狩りをして、冒険者ギルドがあって──」
「クッソ最高じゃねえか」
つまり、まんまファンタジー世界な訳か。
「いや~、憧れていたんだよねそういうの」
「え? そうなんですか?」
「ああ、人生やり直しのチート無双してハーレム生活送れるんだろ? 最高だぜ」
「なんだか分からないけど、前向きなので安心しました! では、転移の儀を始めましょう!」
天使ちゃんはでかい本のような物をどこからともなく取り出した。
「こちらが転移特典のカタログになります。転移する前に職業を選んで下さい」
「職業? ジョブってやつか。だが、俺はそれよりもチート能力を先に貰いたいんだが」
「えっとー……チート能力はありません。ていうか、この職業カタログがそれに該当する代物です」
「んあ? どゆこと?」
「つまりですね──」
天使ちゃんが説明してくれる。
「普通、職業というのは本人の持つ才能や適性によって選んでいくものですよね? 例えば、身体能力が優れた人間なら、アスリートなどのスポーツ系の道に進んだり、音楽の才能に溢れていれば楽器をやったり作曲したり」
「そうだな」
「つまり、本人の素質や能力を基準に進むべき職業を選ぶ。これが通常ですよね?」
「だな」
「この職業カタログ特典はその逆なのです」
すりすりと背表紙を撫でる天使ちゃん。
「このカタログで選んだ職業によって、転移した貴方の能力値に素質が加算されるのです」
「分かりやすくゲームっぽい言い方すれば、ボーナスポイントがステータスに付与されるって事か」
「多分そんな感じですっ。例えば、スポーツ選手を選べば運動能力が高くなり、学者ならすんごく頭良くなったり」
「なるほど」
選んだ職業に対応したステータスが大幅上昇ってわけか。
「で、カタログにはどんな職業があるんだ?」
「えっとー、例えば……これとか」
「“剣聖”。ファンタジーお決まりの職業の一つだな」
「この職業を選べば最高クラスの身体能力、超人的な動体視力の授与、神がかりな反射神経に直感力などが貴方に付与されます」
「おお、なるほど。こっちの“大賢者”は?」
「魔法の全属性に対する適性が全て最大値で、成長速度は常人の数十倍。保有魔力も十倍以上になります」
なるほど、なるほど。話が飲み込めた。
「人生イージーモードって訳か」
「はいっ」
「よーし。なら選ばせてもらおう」
「あ、念のため言っておきますが、選べる職業は一つだけです。それと、最終決定時に記載されている職業名に触れた瞬間、そのままやり直し無しで決定してしまうので気をつけて下さい」
おっと。そこら辺はシビアだな。ならば慎重に選ばせてもらおう。この選択が将来を文字通り決定する訳だからな。
「私がめくっていきますので、ゆっくり選んで下さいね」
「おう、あんがとな」
カタログにはファンタジーお馴染みの職業名がズラリと並んでいる。剣士だとか戦士だとか、魔法使いとか、アーチャーとか。
さっきの剣聖みたいに、聖女とか格闘王とかユニークな職業もある。
「なあ、この職業は──」
「はい、こちらは──」
天使ちゃんは俺の質問に一つ一つ丁寧に答えていってくれた。
馴染みのある物から聞き慣れない物。それらがズラリとあるのでなかなか決まらない。
選べるのは良いが、一つだけしか選べないので、なかなか決めかねる。
「う~ん」
「どうされました?」
「いやぁ、こんだけあると逆に選ぶのが難しくてな。どれが良いのか判断しかねるんだ」
「そうですか。あっ、なら」
パチンと手を叩く天使ちゃん。
「私が完全上位互換の職業だけリストアップしましょうか? 剣聖があるのに剣士は選びませんもんね」
「おお、それはありがたい。やってくれ」
「はいっ。むむ~……ほいっ!」
ポンっと音がして、ページの見開き半分程に職業名が纏まった。
「各職種の最高クラスの職業、唯一無二の個性的なユニークジョブだけを集めました。ここから選べば間違いないかと」
「ナイス」
ざっと見ても50くらいだ。これなら選べる。
剣聖、大賢者、ウォーロード、武神、マスターサモナー、エルダーナイト、etc……。
中にはパッと見では分からないが、ゲームや何かで聞いた事のあるような名前も多いから、なんとなく想像はつくし、詳細を尋ねると天使ちゃんが概要を教えてくれるから勘違いは発生しない。
「ふ~む。どれも捨てがたいチート職業だが……お?」
そんな中。一際変わった名前の職業が目についた。
「なあ、この魔法照準士ってのは何だ?」
「それは魔法のガンスリンガーの事ですね。貴方の記憶にある銃器を呼び出して、魔法の弾を射ち放題といった職業です」
「おお、なんだそれ! 詳しく!」
「えーっと。本人の知りうる限りの銃器を好きな時に生成して好きなだけ撃てるそうです。フィクションに出てくる物でも大丈夫ですし、照準は自動的に補正してくれるそうです。撃ちたい目標に銃口を向けると、体が本能的に細かい補正をしてくれるとのことです」
「エイムアシストかよ! 俺の記憶にありさえすれば、ゲームとかの銃も使えるのか?!」
「はい。明らかなオーバーテクノロジーな武器を使えるし、それに合わせて高い身体能力等も付与されるそうです」
俺のはまってるゲーム、『アイマックス・レジェンダリー』歴五年の技術をいかんなく発揮出来る職業だ。
強いのも大事だが、面白そうなのも大事だ。何より、剣や魔法の世界で銃を使った無双とかロマンじゃねえか。他にも悪くない職業はあるが、総合的に見てこれが良さそうだし気に入った。
よし。決断の時だ。
「よしっ! この職業にするぜ!」
「分かりました! では、最終決定に移りますね!」
天使ちゃんがカタログをすりすりと触ると、ぼんやりとした光が淡く滲んだ。
「準備完了です。それでは、希望の職業名をタッチして下さい」
天使ちゃんが開いたままのカタログを立ててくれる。
さあ、いよいよ転移だ。二度目の人生はイージーモード、チート、エイムボットの無双ハーレムだ。最高だぜえ。
「いくぞ! 歴史的瞬間だ!」
慎重に、魔法照準士に指を伸ばす。
「……はっ……ハッ……」
「ん?」
おや? 天使ちゃんが鼻をムズムズさせているようだが──
「ハックション!!」
「うおっ?!」
──ピトン──
「あ」
「あっ」
天使ちゃんのくしゃみにより、カタログが大きく前進。
自ら押される形で俺の指先にくっついてる。
「……だあああああああああーっ?!!」
押しちまった。職業名。
しかも狙ってた魔法照準士じゃない。その下の職業だ。
「お、おいいいいいっ!! ふざけんなあっ! て、ていうか、何を押しちまった──」
──ピロロン──
『職業選択を確認しました。転移を開始します』
「あっ、ちょっ、まっ──」
美しい女性のアナウンス的な声が聞こえたと思ったら、グニャリとした光の渦みたいなのがその場に生まれ、身体が吸い寄せられた。
「だあああああーーっ?!」
渦に飲み込まれてく。抗えない。
いや、そんな事より。
見間違いだよな?
俺の押してた職業名。すごーく見覚えのある物だった気がするんだが。
〈魔法少女〉
は、ははは…………。
まさか、な?
み、見間違いだよな?
お疲れ様です。次話に続きます。




