37話──地下水路ダンジョンへ
「うわあぁ~ん!!」
「このクソガキ~!」
恒例のハトエルお仕置きグリグリタイム。特に今回のはキツめだぜ。
「てめえはどっちの味方だ~! もう少しで1000リルク貰えて、しかもあんな事やこんな事をしてもらえたのによ~!」
「そんなユスリのようなやり方でお金なんか貰っちゃ駄目ですよ~っ!」
「さっきのはあいつが悪かったんだから当然の権利だろ! 見ろ、俺もお前も真っ白だぞ!」
ちくしょう、一体なんの粉だ。なんか微妙に良い匂いだな。あ、小麦粉か。
ハトエルの奴もおしろい白髪天使になっている。
「くそ。小麦粉まみれになるし、クリーニング代と慰謝料は取り損ねるし、お前は天使ってより疫病神だな」
「何を仰るっ! 私は人々に幸福もたらす天使ですよ!」
「なら俺にも幸福よこせ」
「私は善人の味方ですっ!」
もう一度捕まえてグリグリ攻撃を食らわせた。
さっきの少女はぬけぬけと逃げおおせたらしい。小麦粉爆発現場と空の袋を残して姿は消えている。
「たくよ。お前も粉だらけじゃねえか」
「あ、今から行く所は貯水場なんですよね? だったらそこで洗い落としましょうよ! 私って頭良くないですか?」
「良くない」
「なんで?!」
しかしハトエルの言う通り、ここでウダウダやっていても仕方ないのでさっさと行く事にするか。
すれ違う人間達がギョッとしてじろじろ見てくる。
「ちくしょう。あの小麦粉少女め~。今度見かけたら1万リルク請求してやる」
「まあまあ。誰にでもミスはありますよ。そんなに怒らないで」
「ああ、誰にでもミスはある。それはそうだ。だからこそ、ミスした者には裁きが必要なのだ。そうだろ? 天使様」
「そんなケチな根性してる天使や神様は居ません!」
「俺のどこがケチだってんだよ」
やはり腹パンだ。いつか絶対にしてやる。泣いても命乞いしても連続腹パンしてやる。
貯水場はどう見ても倉庫って感じの場所であったが、入り口らしき場所に兵士が立っていた。
兵士は真っ白な俺らを見て、不審そうに槍を構えた。
「止まれ。ここは東貯水場だ。一般人の立ち入りは禁止している。と言うか、お前らは何者だ? 明らかに怪しいが」
「ちょっとそこで事故にあってな。こんなナリだが、怪しいもんじゃない。ギルドの討伐で来た冒険者だ」
「おお、そうか」
腕章と依頼書を見せると兵士は態度を軟化させた。
「いやー、今日はまだ来ないから心配してたんだ。君ら冒険者の協力には感謝してるよ。しかし、どうしたんだその格好は?」
「ヒキニゲコムギコムスメっていう凶悪なモンスターに襲われてな。善戦虚しくこのザマだ」
「よ、よくは分からないが大変だったな。まあ、よろしく頼むよ」
リアクションに困っている兵士はそのまま俺らを通してくれた。
扉を開けて入ると、中は薄暗くて外観通り倉庫のような空間になっていた。レンガや木材などの資材が置かれている。
中央に小さな小屋みたいなのがあり、その近くにテーブルが置かれ、数人の兵士らがトランプをやったりして休んでいた。
「ん? お、冒険者か?」
俺らに気づいて兵士らがギョッとする。
「な、なんだあ? その姿はどうした?」
「ハコビヤヤクチュウトオリマムスメっていう凶暴なモンスターに襲われてな。奮闘虚しく粉まみれにされたんだ」
「よ、よくは分からないが、それは災難だったな。これで拭くといい」
気を利かせた兵士の一人が布を貸してくれた。
「この中に地下水路への入り口がある。魔石のランプとかの道具があるから自由に使ってくれ」
「サンキュー」
小屋のドアを開けると、そこは資材置場みたいになっており、工具やら何やらがゴチャゴチャと置かれていた。
その部屋の端に、地下へ続いてるらしい階段の入り口があった。
側にはテーブルがあり、ナイフや水筒、松明にランプ、ロープにツルハシなど色んな道具が置かれていた。
「地下迷宮への入り口か。こりゃいかにもダンジョン攻略って感じだな」
「暗そうですね。う~、怖いなあ」
「なんだ、天使のクセにお化けとか苦手か?」
「天界に来る死者は平気なんですが、現世に留まる死者はあんまし……」
ランプを持ってガラス部分を捻ると、ポウッと強い灯りが点った。電気とは少し違うような明かりだ。これは勘だが、魔法の石だか何だかの光だろう。
「おお、こいつはいい。行くぞハトエル」
「はい」
左手にランプ、腰には剣、右手には引っ付くハトエル。
「おい、いざって時に剣が抜けねえだろ。離れろ」
「うぅ~、ジメジメしてて怖いんです」
確かに、古い用水路って不気味だな。
湿った空気、ずっと日の光に触れなかった地下水道の臭いとはこういうものなのか。
床は石畳のようだが、所々に小さな水溜まりが出来ている。
水の流れる音だろう。オオオオっと地の底から這い出てくるような音が聞こえる。
たまにピチッと水が滴ってきて、その度にハトエルがビクッと体を揺らした。
「お、これが、水路か?」
水の流れる音に向かっていくと、足場より低い位置に揺らめくランプの光。
水が流れていた。
「ふーん。あれかな。東側に川か泉があって、そこから町の地下に水を引いてんのかね」
どのくらいの文明レベルでやったかは知らんが、苦労しただろう。
「ちょうどいいや。おいハトエル。ここの水を少し失敬して粉を落とそうぜ」
「冷たそう」
キンキンに冷えた水で顔や頭を洗う。
服は帰ってから洗うしかないな。
「う~、冷て~。くそ、これもみんなあのヤクの売人少女のせいだ」
「ちびたいっ」
さっき兵士に貰った布で濡れた顔と頭を拭いていく。
と、そんな風に汚れを落としていた時だ。
──トトトトトトトッ──
何かが動き回る音がした。
「ん?」
ランプを高く上げて辺りを照らすと、前方の床がモコモコと蠢いていた。生き物だ。
『チチチチッ、チッ』
「鼠、にしては大きいな」
なるほど。これがおそらくベンラットって奴だろう。
見た目は鼠っぽいが、顔つきは可愛げがない。猛獣のように鋭い眼光だ。
大きさも、猫くらいか少し大きいくらいある。
そんなのが二、三匹蠢いて、俺らを睨みつけるようにして距離を縮めている。
「こいつらが討伐対象か。向こうからお出ましとはな」
「気をつけて下さいっ、敵意を感じます」
敵意があろうかなかろうか、討伐しなくちゃなんねえんだ。やったる。
腰から剣をスラリと抜くと、それを合図にするかのように、三匹が大きく動いた。
『ヂヂヂヂッ』
一匹が突進してくる。
「らあっ!」
そこへ剣を振り下ろすが、素早い動きに躱される。
「ちっ、鼠のようにすばしっこい奴!」
『ヂヂヂヂッ』
残りの二匹もかかってくる。
「そりゃあっ!」
──ズバッ──
『ヂヂッ……』
横に薙ぎ払うと、一匹には躱されたが、もう一匹は首の辺りにクリーンヒットして倒せた。
「悪く思うなよ!」
再度かかってくる奴にも同じようにすると意外に倒せた。
『チチチチチッ』
──ガスッ──
「いって?!」
最後の一匹によるタックルが脛に当たって思わず膝がガクッと折れた。いてえ。
『チヂッ』
──ガリッ──
「いってええ?!」
太ももに噛みつかれた。ピリッと感電するような痛みが走る。
「こんのっ!」
剣で上から突き刺すと、最後のラットも死んだ。
「あいてててっ……た、倒せたか」
最下級モンスター三匹を倒した。
確かに今まで戦ったモンスターの中では間違いなく最弱だ。
が、しかし。それでも足が痛えよお。
「大丈夫ですか?」
「ヒールしてくれ~」
「はいはい。痛いの痛いのとんでけ~」
ハトエルのおかげで痛みがスッと引いた。
破れた生地の下にあった傷口が綺麗な肌へと元通りになった。
「ふぅ~。なんだかんだ言っても戦闘勝利だな」
「凄いじゃないですか望さん! 魔法少女の力を使わずに連勝ですよ!」
そう言われればそうだ。魔法少女の力ではなく、己の力だけで初の連勝だ。
「おお、記念すべき瞬間だったんだな。ハトエル、記念撮影だ!」
「はーいっ」
ハトエルが少し離れてカメラを向ける。
「もう少し顔を上げて~。はい、そうですよー」
「どうだ、カッコ良く撮れそうか?」
「ん~。ちょっと後ろの影が目立ちますねー。もう少しランプを下げてー」
「こうか?」
「あれー? なんか影がますます大きくなってる、よう、な……?」
「ん? どうしたハトエル」
なぜかその場で固まるハトエル。
俺の後ろを見てるようだ。
「なんだ、どうかしたのか──」
『チチチチッ、ヂヂッ、チチヂヂッ、ヂヂヂヂッ』
──モコモコモコモコ──
俺の影が巨人のように蠢いている。
と、思いきや、それは影ではなく、100体以上は居そうなラットの大群であった。
「ノオオオオオオオオ?!」
「わああああーーー?!」
俺らの悲鳴は、水響と共に地下を駆け抜けていった。
お疲れ様です。次話に続きます。




