34話──森からの帰還
「か、勝ったのか……?」
オニックスの姿はない。気配もしない。
どうやら逃げたらしい。
「ふぅー。なんとかなったー……」
ボス級の相手を撃退。まさかこんなに簡単にやってのけるとは。
ぶっちゃけほぼノーダメなんだが。
「……この姿ってチート級なんだな」
「やりましたね! ホープ!」
既に回復して傷の消えた自分の手を眺めていたら、近くの茂みからハトエルが飛び出してきた。
「す、凄いですよ! いや、凄すぎですよ! 四天王の一人を魔法を一切使わずに撃退してしまうなんて!」
「おい、何でここに居るんだ。アイリを連れて逃げろって言ったろ?」
「あ、ごめんなさい。吹き飛ばされる望さんを見たら心配になっちゃって……」
「そうか」
なんだ。ちょっと可愛げあるじゃんか。
周囲の荒れようを見回してからハトエルが小さく震える。
「うう、こんな破壊力を持ってるなんて。四天王、凄い力ですね」
「そうだな。実際、手強かったぞ」
「では、アイリさんを迎えに行きましょう」
「おう」
放置プレイだしな。
「戻るか。変身解除して、と」
茂みの裏に回り、近くに誰も居ないのを確認してから変身解除する。
──ベキボキッバキッ──
──ドサッ──
「な、なんで四天王の攻撃よりも、こっちで大ダメージ受けるんだよ……ウオエエエェッ」
食っても食ってもゲロになるんじゃ、俺は栄養失調で死ぬかもしれんな。
「望さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?」
「いえ……あ、ハンカチをどうぞ」
ハトエルから貰ったハンカチで口回りを拭き、さっきアイリが居た地点へと向かう。
道中、俺が吹き飛ばされた時に折れたらしい木なども見受けられ、激しい戦闘の痕が生々しく残されていた。
「こんな目にあわされたのに、俺よく生きてんな」
「生身ではどうなってたか分かりませんね……」
まあ、間違いなくぶち殺されていたろうな。原型をとどめないくらいに。
「ん? 誰か倒れてるぞ」
「あ、アイリさんです! どうしたのかな、大丈夫かな……」
「どこか怪我してるのか?」
歩いていたら、遠くに木の根の上を這いつくばるアイリの姿を発見した。
「なにやってんだあいつ」
「もしかして、流れ弾に当たったとか?!」
急いで二人で駆け寄ると、アイリが顔を上げた。
「あ、二人とも無事だったんですね!」
喜びにパアッと顔を明るくするアイリ。
「よかったー! ノゾムさん、大丈夫でしたか? かなり酷くやられたようでしたが」
「ああ、まあな。そこらの奴と鍛え方がちげえのよ」
見栄を張ると、アイリが感心したように目を輝かせた。
「凄いですね! 私なんかあの人に腕を掴まれただけでももう体が動かなくなっちゃって……」
「もしかして、倒れてるのはどこか怪我したのか?」
そう尋ねてみると、アイリは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「い、いえ。……実は腰が抜けちゃって……」
「なんだ、そうだったのか」
まあ、あんなヤバい奴に殴られそうになっていたんだ。しゃーないな。
「とにかく、さっきのデカブツがまた現れるといけないからな。さっさとずらかるぞ」
「そ、そう言えばあの人は?」
「分からんが、魔法少女と戦いながらどっか行っちまった。ともかく早く逃げるぞ」
「は、はいっ……あ、あの~」
「ん? なんだ?」
「その……」
何か言いたげに這いつくばったままのアイリ。捨てられた子犬のような目を向けてきている。
ハトエルが俺の肘をくいっと引っ張った。
「もうっ! こんな時、男性ならやることは決まっているでしょう!」
「なんだよ」
「おんぶですよ! おんぶ!」
「えー……」
さっきの戦闘の疲れとか、変身解除後の体の重さとかあんのによ。
「はぁー。まあ、お前には世話になったしな。ほれ、乗りな」
背中を向けると
「すみません」
というアイリの申し訳なさそうな声と共に、遠慮がちな腕が回ってきた。
少しモゾモゾしつつも、アイリは俺の背中におぶさった。
「重くないですか?」
「平気だ」
実はちょっと重い。
だが、それよりも。
なんて温かいんだ!
柔らかい!
気持ちいい!
イイ匂いする!
「ふふ、ふふふふふ……」
「あ、あの……どうされました?」
「いや、俺は実は人助けが大好きでな。世のため人のために役立ってると思うと思わず笑ってしまうんだ」
「そ、そうだったんですか? それはとても立派な事ですね」
「どの口がっ! どの口が言うんですか!」
ハトエルの奴が野次を飛ばしてくるが、俺は今女体の素晴らしさを体感──もとい、人助けをしている。そう、この未熟な若々しい乙女の温もりをたっぷり堪能──もとい、歩けない哀れな少女を運んでいるのだ。
「あっ! のぞ、パパの鼻の下が伸びきってる! きっとエッチな事を考えてます!」
「え、ええっ?!」
「ふ。そんな野蛮な事考えてる訳ないだろ。俺はいたいけな少女の健康を確かめるため、背中を使って検温しているだけだ」
「へ、変な事言わないでください!」
アイリは恥じらいで上ずった声を出した。
「恥ずかしがる事はないぞ。甘いパフュームが俺の疲れた心を癒してくれている」
「~! きょ、今日はたまたま香水を強めに振っただけで……」
おいおい、なんだなんだ、その消え入りそうな恥ずかしがりボイスは。
おじさんの中の劣情をイライラつついてくるぜ。
だが、乙女を辱しめ続けるのは紳士道に反するな。フォローしておこう。
「アイリ。お前には世話になった。クエストの件、宿代の件。感謝している」
「へ? あ、は、はい。どういたしまして……」
「だが、何よりも礼を言いたいのは今だ。俺は今、最高に幸福な膨らみを背中で体感してるぞ」
「~~!! もうっ! 止めてください!」
ポコポコと頭を叩かれた。
「あのアイリさんを怒らせるとは……望さ──パパ、恐るべし!」
ヘソ曲げて口を利いてくれなくなったアイリを背負って歩くこと10分かそんくらい。
俺らは無事に森から出た。
「はあ、はあ。出れたな。アイリ、一旦降ろすぞ」
──プイッ──
アイリはツンっとしてそっぽ向いた。
ちっ。おっぱいの感想伝えただけで怒りやがって。今度は事故にみせかけて両手で堪能してやる。
「よっこらしょと……」
ゆっくり降ろしてやると、アイリは拗ねたように俺を軽く睨んでいた。
「おい、運んでやったのに支払いはガンつけか? あぁん?」
「パパっ! ちゃんと謝って下さい! アイリさんが怒るのは当たり前ですよ!」
「うるせえなあ。分かったよ」
まあ、実際セクハラだったしな。
「悪かった。変な事言って」
「……」
「だが、これだけは言っておく。最高のご褒美だったのは本当だ。助けた甲斐あったぜ」
「もーうっ! パパはどうしようもないおバカさんです!」
またもやポカポカ殴ってくるハトエル。そしてガードする俺。
「……ぷっ」
「お?」
そんな俺らの様子を見ていたアイリが、しかめっ面をホロリと崩して小さく笑った。
「もう……ノゾムさんっておかしな人」
「お。笑ったな。そっちの方が可愛いぞ」
「お世辞言っても何も出ませんよ」
少し呆れていて。少し怒っていて。
でも、少し打ち解けたように嬉しそうで。
そんな少女の素顔を一瞬見たような気がした。
「パパ、仲直り出来て良かったですね」
「当たり前だ。俺らは冒険者仲間だ。なあ、アイリ」
「ええ、そうですね」
そう、これから俺がギルドで稼ぐためにもアイリは友好関係を築いておくべき人間──
………………。
「………………あーー!!?」
「!!?」
「ど、どうしたんですか? パパ」
「飛び出してきたからギルドで報酬貰ってねえ!」
「あっ!」
馬車便はぶっ壊れてるし、そもそもここからじゃ王都に帰った方が早いだろうし。
「ぐかーーっ!! アイリいぃ!」
「ひいっ?!」
「なんでタイミングの悪い時に拐われるんだよ、お前はよおおお!」
「ええっ!? わ、私のせいっ?!」
「パパっ! 落ち着いてー!!」
あのままギルドで無事を祈ってりゃ良かった……。
その後。なんかんやあって俺らは駆け付けてきた兵士や馬車便によって救助された。
襲撃現場で待機していた他の怪我人達も運ばれ、手当てを受けた。死人が一人も出なかったのは幸いだ。
アイリはそのまま兵士らと王都へ向かい、俺らは金を受け取りにサンセットレイクに戻った。
金は無事に300リルクほど貰え、また折り返して王都に戻った時には夕方になっていた。
「望さん。今日の望さん、かっこ良かったですよ!」
ハトエルに少し多めに菓子を買って家路に着いたのだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




