33話──VSオニックス
「ぐうぅっ? ぬおお、や、やるな……」
パラパラと木くずを落としながら立ち上がるオニックス。俺が殴った辺りを痛そうにさすっていた。
「くっ……侮っていたわ……まさかこれ程のパワーを秘めているとは……」
「……」
マジかよ。
今の俺はアイリと変わらないくらいの体格。むしろ彼女よりもややちっこい。
オニックスなんて目の前にしたら倍近くの背の差があるし、多分俺の胴体よりも二の腕が太い。
だが、そんな大男が俺のパンチ一発でワンダウンだ。
「くっ、だが! 今度は手加減せぬぞ!」
しかし、流石は四天王といったところだろう。
今のパンチは他のモンスターなら即死していたであろうに、耐えやがった。
それどころか、まだやる気まんまんの闘気オーラが周囲をビリビリ震えさせてる。
「ゆくぞ! ぬおおお!!」
先程よりもキレがあり、重量のありそうなパンチが飛んでくる。
「うっ!」
また慌てて躱す。身体が軽くて柔らかい。自分の身体なのか分からんくらい柔軟に動ける。
だが、今度は相手も本気のようだ。ラッシュするように重撃を放ってくる。
「そらそらそらそらあっ!!」
──ドドドドド──
拳圧だけで木を薙ぎ倒しそうな連続パンチ。そして丸太を振り回すような蹴り。
「わっ、おっ、ほっ!」
身体の大きさが攻撃のリーチと範囲に直結しており、こちらも大きく飛び退いたりして躱す。
躱す度に髪とかスカートが風に揺らされて落ち着かない。
「ええいっ、ちょこまかと!」
「っ!?」
オニックスの右手が光った。
なんというのか、妖気というか魔力というか、とにかくそういう言葉を連想させるような妖しい光を手に漲らせている。
「食らえ!」
──バヒュンッ──
「!?」
その光が塊のようになって飛んでくる。
突然の予想外な攻撃に判断が追いつかなかった。
「くっ!」
避けきれず、手をクロスしてガード。
──ドオンッ──
「わあっ!?」
光弾が爆発し、重い衝撃と共に身体が軽々と飛ばされる。
──ベキッ──
「あい痛っ……!」
背中にドンッと来た痛み。そして頭上でメキメキいって折れる木。
吹っ飛ばされて木に当たったらしい。しかも、立派な幹がへし折れるくらい勢い良く。
「あいたたた……」
正直ちょっと痛かった。
「貰ったぞ!」
「え?!」
立ち上がろうとした瞬間、すぐ目の前にオニックスの狂暴な笑みと、唸りを上げた拳が迫ってきた。
「しまっ……!」
咄嗟にガード体勢に入る。同時に、俺の頭くらいもありそうなオニックスの拳が到達した。
──ズドオオンッ──
「うっわあ!?」
──ヒューンッ──
また激しい衝撃と共に身体がボールのように飛ぶ。
──バッキィッ──
木に当たる。へし折れる。
──ドシャアッ──
「いったっ……?!」
地面にめり込むような勢いで叩きつけられる。
「あ、いててて……野郎、女相手でも容赦ねえな」
どうやら完全な男女平等世界に来ちまったらしい。実に先進的なとこだ。
まあ、俺は中身が男だが。
とりあえず土を払って立ち上がる。
「たくっ。人をボールみてえに飛ばしてくれやがって」
けど、本来なら死んでもおかしくない目にあってるはずなのに、痛かったくらいで何ともない。
改めて自分の防御力も驚異的だと呆れていると、目の前にオニックスがドスンっと着地した。
「ほう。なんとか凌いだか。だが、息も絶え絶えといったとこか」
「……」
いや。
そんなに。
「ふん。今楽にしてやるぞ!」
猛然と突進してくる巨体。再び辺りを震わせる魔力の波動、金槌のような鉄拳。
「……やってやる」
俺も拳を握りしめる。
防いでばかりじゃ終わらねえ。
このままやられっぱなしじゃ身がもたないかもしれん。
いっちょやってやる。
「ふんっ!」
「おりゃあ!」
──ズッドオオンッ──
互いの拳が空中でぶつかり合う。
「ぐっ?! ぬうっ!?」
オニックスの表情が苦痛に歪む。
「くっ……」
かと思うと、手を押さえながら後ずさった。
「お、おのれえ!」
「はあっ!」
今度は俺のターンだ。
俺から一気に間合いを詰め、こちらの蹴りの射程距離に相手を収める。
──ザシャアッ──
左足を地面に突き刺すようにして踏み込み、右足でフルスイングの回し蹴りを繰り出す。
「せいやああ!」
「ぬっ!?」
それを、ガチムチ筋肉を亀のように構えてガードするオニックス。
──ズドオオオッッ──
「ぐおおおっ!!?」
肉を激しく打つ感触と共に、オニックスの巨体が宙に舞う。
「ぐああっ……う、腕が……!?」
「はっ!」
地面を蹴って跳躍し、オニックスを追う。
「!? くっ! 消えろ!!」
──バチバチバチッ──
オニックスから魔力の漲りのような気配を感じると同時に、その手が激しく発光する。
「ふぬおお!!」
──バシュンッ──
さっきの魔力弾の強化バージョンみたいなヤバい技が放たれる。
「いいっ?!」
駄目だ。避けようがねえ。
かと言ってガードしてもさっきみたいに吹っ飛ばされるだけだし。
こうなりゃ──
「はああっ! せいやあっ!!」
殴る!!
バチバチ雷を纏ったようなその光弾をぶん殴ると、手にお湯がかかったような熱い痛みがビリッと走った。
──ズガアアッ──
「わあっ!?」
「ぬぐわあっ!?」
空中で大爆発が起こり、俺もオニックスも爆風に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
──ドッ──
「いって?!」
──ドシーンッ──
「ぐはあっ?!」
爆発の余波が周囲の木々を激しく破壊する。
「いっつつ……」
とんでもねえ破壊力だ。
だが、驚くべき事に。
直撃したはずの俺の手は少し掠り傷があるくらいで、なんともない。
まだちょっと痺れているが、問題なく動かせる。
「ぐ、ぐおおぉ、お、おのれ……ま、まさか、これ程までの力を持っているとは……」
少し離れた所でオニックスがヨロヨロと立ち上がる。俺も慌てて立ち、構える。
「くっ、小娘だと思って油断したわ……やはり、伝説の魔法少女……」
「えーっと……」
明らかにこっちが優勢だ。こういう場合、どうすりゃいいんだ?
相手は敵軍のお偉いさんだし、俺は一応そいつらと戦うために居る訳だし。
倒せばいいのか?
けどなあ。流石に人間は殺せねえよなあ。まあ、人間つうより魔族らしいが。
だが、人間と大差ない姿してて言葉も話せる奴を殺すなんざ金貰ってもやりたくない。
かと言って、こいつは敵だしなあ。
よし。
魔法少女らしく、演技もりもりで諭そう。
「降参しなさい。命まで取ろうとは思わない。このまま大人しく私と一緒に来て、王国に投降しなさい。貴方には危害を加えないと約束するから」
よーし。なかなかいいじゃないか。
こんな聖女ムーブすりゃあ相手も心をなだめて降参してくれるだろう。
「ぬおお!! こ、小娘め! 俺を愚弄する気か!!」
逆効果だった。
疲れた戦意を取り戻すように、オニックスが鬼のような形相になる。
「このオニックス、死んでも貴様ら愚劣なる王国になど降参せんわ!」
「あー、えーっと……じゃあ、降参してください、お願いします。肩でも揉みますので……」
「ふざけるなあああ!!」
怒り心頭で、真っ赤なオーラを吹き出すオニックス。
駄目だ。俺には説得の才能は皆無らしい。
「叩き潰してやるぞ、魔法少女!」
「マジかぁ……」
結局第二ラウンドかよ。
と、げんなりしたその時。
『おい、オニックス』
「ぬっ?!」
「?」
オニックスの方から、奴のではない誰かの声が発せられた。
「なんだ、ガルネット! 俺は今忙しい! 用件なら後にしろ!」
『先程お前の部下達から連絡があった。お前が行方不明になっていると。一体今どこだ?』
オニックスが懐から八卦のような妙な道具を掴み出して、そこへ怒鳴る。
「王都近郊の森だ! 文句あるか!?」
『耳元で叫ぶなっ……とにかく、勝手な真似はするな。早く持ち場に戻れ』
「貴様に命令される筋合いはない!」
『頼むから、面倒事は止めてくれ……。お前に何かあったら始末書どころじゃないんだ』
「一々うるさい奴だ──」
『クイーン・ディアマンテがお怒りになるぞ』
「ぬぐっ……」
拒絶のやり取りをしていたオニックスだったが、何かに引っ掛かったのか、悔しそうに歯を食い縛って頷いた。
「分かった。戻る事にする」
『迎えは必要か?』
「要らん!」
オニックスはその妙な道具を懐に仕舞うと、こちらに激しいガンを飛ばしながら雷のような怒声を浴びせてきた。
「覚えておれっ、魔法少女! 貴様の名前を教えろ!!」
「あ、はい。ティアラ・ホープです」
つい真面目に答えちまった。
「ホープか……」
オニックスの怒りの瞳が光る。
「次に会った時は容赦せぬぞ!」
と、捨て台詞と共にオニックスの体が黒い闇に包まれ、その姿は消えた。
辺りにはめちゃくちゃな戦闘後の森と、静けさだけが残されていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




