116話──王城にヒューンのパッパラパー
穏やかな朝。絶好のニート日和だぜ。
「今日はどうしますか?」
しかし、それをポンコツ天使が働かせようとしてきやがる。
「引きこもる」
「ブッブー! その選択肢は封印されましたっ! ピンポーンっ、望さんの選択肢は『調査に行く』『アイリさんに会いに行く』の二つのみです!」
強制イベント用意してるなら予定を訊くんじゃねえこのポンコツ天使が。
「いーじゃねえかよ。昨日けっこう稼いだんだから今日はダラダラしようぜ」
「駄目ですっ! 魔法少女に休んでる暇はありません! 年中無休です!」
「これだから労働基準法を知らねえ天使は嫌なんだ」
たまにはゆっくりさせろ。
「でも、お金をアイリさんには渡した方が良くないですか?」
「そうだな。じゃ、お使い頼む。これをアイリへ渡してこい」
800リルクほど入った小袋をハトエルに投げると、そのまま顔面にベシッと返ってきた。
「いってえ!?」
「ちゃんと自分でアイリさんに渡さないと駄目ですっ! それで、昨日の事を改めて話すんです!」
「こ、このクソガキ~!」
「わああっ?!」
今日は朝からたっぷりお仕置きだ。
じたばた暴れるハトエルを押さえつけ、こめかみに拳を突き立てればスタンバイOKだ。
──コンコンコンッ──
と、これからという時にノックの音がした。
『すみません。アイリです。ノゾムさん、ハトエルちゃん。いらっしゃいますか?』
「お?」
「あっ!」
件の人物、アイリの訪問。
ドアを開けると、元気そうなアイリの姿があった。
「おはようございます、ノゾムさん。ハトエルちゃんも」
「アイリさ~んっ!」
ポフっとアイリの腰にしがみつくハトエル。
「今ちょうどアイリさんを探しに行こうって話してたんです!」
「うん。私も二人と話したいと思ってたから」
ハトポッポの頭を撫でながらコロンっと柔和な笑みを傾けてくるアイリ。
「何だか話す事が多そうですから」
「そうだな」
いや、ほんとに。
昨夜にハトエルとも話したんだが、俺らにも不明な点が多いのだ。
魔法少女は俺一人だと思っていたんだが、まさかもう一人居るとは思わなかった。しかも肝心のハトエルが知らないなんて言うんだから、実質誰にもよく分からない出来事だったのだ。
「それにしても何から話せばいいやら……」
「望さん、望さん」
考えあぐねいていると、ハトエルがくいっくいっと俺の裾を引っ張った。
「私、思うんですけど、まずはこの事を王女様にも知らせるべきじゃないでしょうか」
「アルメに?」
「王女様に?」
俺とアイリは顔を見合わせた。
ハトエルが続ける。
「はい。魔法少女の顕現ですから、王女様にもお知らせしないと。それで、その場で色々お話するのはどうですか?」
「ふーん。要は報告と情報交換しようって訳か」
確かに、俺は魔法少女の事なんか詳しくねえが、アルメは魔法少女マニアだし、没落貴族とは言え国家機密にアクセス出来る最高権力者だ。
そんなアルメを交えて話せば『なぜ二人目の魔法少女が現れたのか?』という疑問も解消されるかもしれない。
「お前にしては悪くないアイディアだ」
「むう。一言余計なんだから」
「だが、どうやって王城に行くんだ? 俺らは極秘VIPだから表からは入れんぞ」
いつもは向こう方から迎えに来てくれるが、俺らから出向いた事はない。というか、一部の人間以外は俺らがVIPだという事を知らないから、門前払いになるだろう。
「むふふ~。忘れましたか? 私は王城に直接ワープ出来ることを」
「あ、そういやそうだったな。お前にも役に立つ機能があったんだ」
「むーっ!」
「あ、あの。二人とも何の話をしているの?」
事情を知らず、困惑気味なアイリの肩を叩く。
「詳しくは後で話してやる。とりあえずは一緒に貧乏王女アルメに謁見だ」
「えっ……ええ?! い、今から?! 王女様に?!」
「そんじゃ行くか。ハトエル、今度はちゃんとしたフライトしろよ」
「はいっ。それでは~……」
「えっ、あのっ、私フォーマルな服じゃないしっ……」
テンパるアイリはひとまず放置して、メモ帳を取り出すハトエル。あの意味分からん呪文を唱える。
「ヒョイヒョイヒョ~ッのパッパラパーッ! キラキラピュ~ンっと一直線っ! 私達を乗せてポイ~ンっ、とレッツラゴ~!!」
──ブウゥン……──
「わっ?!」
俺達の足下に魔法陣が現れ、その後に辺りの景色がグニャリと歪む。
そして、変身時と同じような光の中へと吸い込まれる。
──ヒュイーーンッ……──
「わ、わわっ!?」
初体験のアイリが小さな悲鳴を上げた。
無重力感の後に、身体を圧迫する負荷。身体が物凄い速さで移動しているという感覚。
「着きますよ~!」
前回よりも断然早い到着アナウンス。
──ドサッ──
「いてっ!」
「あいたっ!」
──ドスッ──
「ぐえっ?!」
「わっぷ!」
──ボスッ──
「ぐへえっ!?」
到着し、例の石造りの部屋にヘッドスライディングしたと思ったら、背中に重しが二回落ちてきた。
「ぐ、ぐごごご……」
「いたた……あっ! ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですかノゾムさん?」
「あわわっ、ごめんなさい!」
俺の上に不時着したアイリとハトエルが降りる。
「いっつつ……相変わらずお前のフライトには泣けてくるぜ」
「むう~。しょうがないじゃないですか~。結構難しいんですよう」
「こ、ここは?」
薄暗い室内をキョロキョロ見回すアイリ。
「どこかの牢屋、ですか?」
「そう見えるが、祭壇だとよ。ん?」
相変わらず暗くて陰気な祭壇だが、以前来た時と違って綺麗に掃除されてるのか、埃っぽくない。それに、よく見るとお供え物なのか花瓶に差された花もある。
「前に来た時よりもちゃんとしてるな?」
「あっ! このお花は天界原産のお花です! 昔、この世界に天使が降臨した時にもたらした花からずっと種を受け継いできたのでしょう! これは言わば王家と天界の友好の証ですっ!」
「へえー」
アルメが自分でやったのか。そういう気配りとかは出来るタイプなんだよな。
「さて、と。とにかく無事に来れたな」
薄闇の中を、窓からの微かな明かりを頼りに進み、ドアへと到達する。
廊下へ出るが、誰も居ない。
「ちっ。またお出迎え無しか」
懐かしいな。最初この世界に来た時も、こうやって歓迎無しの城からスタートしたものだ。
「一度なら許してやる。だが二回目ともなると、この無礼は見逃せんな!」
「わざとではないですよっ。そんなに怒らないで」
「いやっ、俺は我慢ならないね! 誰ぞ、誰ぞ居らぬかあっ!」
なんて言っていたら、今回はたまたま廊下の角から人が現れた。王城付きメイドさんが二名。
「お、グッドタイミング。おーい」
と、こちらから手を振って参上を報せてやると、メイド達は目を丸くし──
「キャアアアアッ!」
「侵入者よおーっ!」
──ドタドタドタドタッ──
「居たぞーっ!」
「こっちだー!」
悲鳴による警報の後、すぐに駆けつけた兵士らによって俺らはあっという間に縛り上げられた。
「わ~んっ! 私ですよー! ハトエルですよ~!」
「わ、私は、あのっ、通りすがりの町娘でっ!」
「おいっ、てめえら! 性懲りもなくこんな無礼を働きやがって! 全員ケツ踊りさせてやるからな!」
と、まあ……。
そんなアホな茶番が繰り広げられかけたが、俺らの事を知る兵士も現れて、今回はすぐに釈放された。
そして、迎えに現れたオーネットによって、俺らはアルメの元へと案内される事となった。
「くそ~。あのクソ野郎どもめ~。おいっ、執事長さんよっ! あの脳筋野郎どもにキチンとした義務教育しろ! 『お客様は無礼なきようもてなせ』ってな!」
「かしこまりました。今回の非礼、申し開きようもなく、ただ恐縮するばかりでございます」
「おう、分かってんなら次から気をつけてくれや。とりま慰謝料で5000リルクだ」
「もうっ! 過ぎた事でネチネチ言わないのっ!」
怒りが収まらないままアルメの部屋に到着した。この残った怒りは最高責任者のあいつにぶつけてやる。
「アルメ様。ノゾム様と天使様。それにもう一人新しいお客様がお見えになっております」
『入ってください』
扉が開かれる。隣でアイリがゴクっと唾を飲む音がした。
「ようこそ、天使様。ノゾムさん。それと……貴女は?」
扉を潜ると、ほとんど何も物が無い殺風景な部屋の真ん中で、アルメが立って迎えにきた。
そのアルメの目がアイリに向けられている。
「お友達、ですか?」
「あ、ああ、あのの、あのっ、わ、私はっ……」
いきなりガチガッチに緊張し始めてどもりだすアイリ。まあ、自分の国の王女様といきなりご対面ともなれば仕方ない。
「?」
「あー。まあ話すと長くなる。だから先に結論だけ言っておこう」
よく状況が理解出来ていないアルメのために俺から告げてやった。
「こいつは昨日デビューしたばかりの新人ほやほやの魔法少女だ」
「えっ?」
「ど、どうもっ……! あ、あのっ、私はアイリ・ライトマインと言いましてっ、冒険者をしていてっ……」
「あー。まあ、色々あってな。とにかく説明するから茶でもくれ」
「は、はい」
目をまん丸にして呆けたようなアルメに俺は手短に事の次第を説明する事にした。
お疲れ様です。次話に続きます。




