117話──俺は魔法少女マネージャー
十分くらい後。
「──て事でな」
「……なるほど。まさかそんな事があったなんて」
俺は昨日あった事を端的に説明した。
モーニング市場に現れた四天王とイクリプス。そして、突如アイリから溢れた光。リンク・クリスタル。変身。レイ・アライズ。浄化魔法。
それらの一連をなるべく詳しく話した。
話を聞き終えたアルメはカップを静かに置いて難しい顔をしていたが、カチコチに緊張しているアイリに気づいてか、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「アイリさん、でしたか? そんなに緊張なさらないで」
「は、はいっ。い、いえっ、あのっ……」
まあ、緊張するなっつう方が無理はありそうだが、アルメは実に朗らかにアイリへ声を掛けていった。
「冒険者をされているそうですね。その若さで大変でしょう」
「は、はいっ。あの、まだ駆け出しみたいなもので……ほとんど薬草集めなどのクエストでしたし」
「いえいえ。帝国との戦いによってどこも医薬品が不足しがちですから、冒険者の皆様が集めてくださる薬草には本当に助けられています。どうもありがとう」
「こ、光栄です……!」
流石にお姫様なだけあって、上品な態度は相手の心をほぐす効果があるようだ。アイリから徐々に硬い力が抜けていく。
「アイリさんはどのような経緯で二人とお知り合いに?」
「え、えっと。サンセットレイクで出会って……」
アルメが小さな質問を重ねていき、それにアイリが思いだしながら答えていく。
和やかに相づちを入れ、小さく驚き、優しく微笑む。そんなアルメの気さくで優しい反応に、アイリもだいぶリラックスしたようだった。
「まあ、それで……」
「はい。それで、昨日もノゾムさん達とクエストをしていたらイクリプスが現れて……気がついたら私の手の中にリンク・クリスタルがあって……後はノゾムさんの話した通りです」
「なるほど。よかったら、見せて頂いてもよろしいですか?」
「はいっ」
アイリが懐からクリスタルを出して手に乗せる。改めて見ると、単に赤いだけではなく、その中の屈折した光がロウソクの炎のように自ら揺らいでいるのが分かる。
「ほおー。ちゃんと見るとただの宝石じゃねえんだな」
「ええ。本当に美しい。まさに魔法少女の魂を具現化したような美しさです」
キラキラした目で覗き込んでいたアルメが姿勢を正す。
「アイリさんの魔法少女への変身過程はよく分かりました。これで私達にはティアラ・ホープも合わせて二人の魔法少女がついていてくれてる訳ですね。こんなに頼もしい事はありません」
「あっ、あのっ! その件なのですが……」
と、ここで。アイリが腰を浮かしてアルメに問いかけた。
「姫様は既にティアラ・ホープに会っておられるのですよね?」
「え? ええ、まあ……」
「それなら、その正体もご存知ですか?」
「え、えっと、それは……」
アルメがチラリと俺に目線を向けてきた。
「その……」
「ちょっと待った!」
「えっ?」
「アイリ、すまん。ちょっとここで待ってろ」
すかさず俺はアイリを手で制してから、ハトエルの手を引っ張り、次いでアルメも連れて一旦、部屋の外へ出た。
「どうしたんですか? 望さん」
「どうもこうも、二人に打ち合わせをしとかないと思ってな」
「「打ち合わせ?」」
声をハモらせ、首を傾げるハトエルとアルメ。
「いいか? 俺がホープだという事は絶対に秘密だ」
「えっ? 言わないんですか?」
びっくりするアホ天使の頭をポコンっとやる。
「当たり前だ。例え同じ魔法少女だろうと、俺があんな格好でキラキラ戦ってるなんて死んでも言いたくねえ。しかもこれまでに散々恥ずかしい演技を見せてきたんだ。絶対に嫌だね」
「でも、良い事してきたんだから恥ずかしい事なんてないのに……」
「そういう問題じゃねえんだよ。それに、俺がホープの正体だなんて知ったらアイリが寝込むかもしれんぞ」
「う……それは、そうかも……」
ちょっとムカつくが、ハトエルは納得したようだった。
「どう思います? 王女様」
「そうですね……。私も、恥ずべき事はないと思いますが、こればかりはノゾムさんの気持ちを尊重した方がよろしいかと」
「そうですね。分かりました。それなら、この事は秘密にしておきましょう」
「となると、ノゾムさんが何故ここに居るのかという立場の設定を考えねばなりませんね」
「おう、流石に俺らの偽造身分証をくれただけの事はあるな。抜かりない」
「それは褒められているのでしょうか?」
俺らは短いやりとりを交わしてから、部屋に戻った。
「よ、待たせたなアイリ」
「あ、いえ……何をしてたんです?」
「ん? ちょっと借金の話をな。アルメからは金を借りててな」
「ええっ?」
適当にはぐらかしつつ、俺らは元の席に着いた。
「さて、アイリ。さっきの話の続きなんだがな。実はティアラ・ホープの正体は誰にも分からない。もちろんアルメも何度か会ってはいるが、それは変身後の姿。変身前の姿は誰も知らない」
「え? そう、なんですか?」
アルメとハトエルも合わせて頷く。
「だが、安心しな。少なくともホープは王国の味方である事だけは確かだ。俺やハトエルは何度か会って話したりもしているからな」
「そ、そうだったんですか?!」
今日は驚いてばっかりのアイリちゃん。
「ノゾムさんがホープと知り合いだったなんて……。て言うか、ホープと何度も話してるなんて、ノゾムさん貴方は一体……?」
「えっと、そこからは私が説明します」
打ち合わせ通りにハトエルが話に割り込む。
「望さんは異世界からの転移者です」
「い、いせかい?」
「はい。えっと、簡単に説明すると……」
ハトエルがあれこれと説明し、アイリは俺が異世界人だという事を知った。ハトエルが天界から来る際に、人間の従者が欲しかったから連れてきたという話になっている。
そして、俺らは裏でホープのサポートをしているという事にもしてある。
「──で、私一人では心細かったので、望さんにも一緒にこの世界で手伝ってもらう事にしたんです」
「な、なるほど……。やっぱりノゾムさんとハトエルちゃんは親子ではなかったんですね」
「当たり前だ。こんなポンコツが俺の子な訳ないだろ」
「ふーんだっ! こっちだって嫌ですよーだ!」
「そして、ノゾムさんはハトエルちゃんと一緒にホープのサポートをしていると?」
「その通りだ。俺は魔法少女マネージャーなんだ」
「まねーじゃー? よ、よくは分かりませんが、凄いですね」
どうにか納得したらしいアイリ。
「異世界。転移者。天界。魔法少女。マネージャー……。な、なんだか頭がこんがらがってきて……」
「まあ、無理もないがそんなに難しく考えるなって。要はだな、この世界を救うために魔法少女が居て、そいつを手助けするためにあっちこちから助っ人が来てるってだけの話だ」
「規模は壮大ですけど……そういう事ですね」
アイリが思考を整理するように、ゆっくりとお茶を飲む。
「正直、まだちょっと混乱してますが……一つ分かった事は、やっぱりハトエルちゃんは天使様だったんですね」
「おう、こんなポンコツだけどな」
隣のハトエルのほっぺをムニムニと引っ張ると、小さな手にペシッと叩かれた。
「もうっ! 天使のほっぺで遊ぶなんて不敬極まりないんですからね!」
「……」
アイリがじっと見つめてるのにハトエルが気づく。
「アイリさん、今まで黙っていてごめんなさい。私が普通に暮らしてるのがバレると、誰かに狙われるかもしれないから言えなかったんです」
「ううん。気にしないで。それより、私の方こそごめんなさい。天使様だと知らずに……これからは態度を改めますね。本物の天使様なら、あんまり軽々しく口を利く訳にはいきませんし……」
急にうやうやしくなるアイリにハトエルが慌てたように手を伸ばす。
「そんなっ! いいんですよっ、アイリさん!」
「でも……」
「お願いです。今まで通りお友達でいてください。私、その方が嬉しいんですっ!」
「……本当にいいの?」
「はいっ! だから、改めてよろしくお願いいたします、アイリさん!」
ハトエルが手を差し出す。
「これからは魔法少女を導く天使として……そして、これまで通りお友達として! よろしくお願いしますっ!」
「……! うんっ!」
固く結ばれる握手を、アルメが微笑ましそうに眺めていた。
「さて、んじゃ……。積もる話もあらかた片付いた訳だし、本題に戻るか」
と、俺が話を引き戻してやろうとしたら、ハトエルが首を傾げた。
「本題?」
「おいおい、忘れたのか? アイリは天使たるお前が知らない謎の魔法少女なんだぞ? 今日はその謎を解きに来たんだろうが」
「あっ! 忘れてました!」
忘れんなポンコツ。と、言いたいとこだが、まあ他にも色々と話があって情報量も多かったから仕方ないと言えば仕方ない。
「で、だ。俺とハトエルだけじゃ埒が明かないんで、魔法少女に詳しそうなアルメに相談しに来たって訳なんだ。どうだアルメ?」
「そうですね……」
アルメは少し考えるように目を瞑ったが、すぐに小さな笑みを見せた。
「現時点ではハッキリした事は言えませんが、心当たりが無い事もありません」
「お、マジで? やるな。どこぞのポンコツ天使よりも優秀だぜ」
「む~っ。プイっだ!」
わざわざ来た甲斐があったってもんだ。
「それじゃあ、その心当たりとかいうのを話してくれ」
「その前に……。アイリさんにぜひお願いしたい事があるのですが」
「え? 私、ですか?」
と、虚を突かれたアイリ。
「何でしょう。私に出来る事なんて大した事はありませんが……」
「いえ。これはアイリさんにしか出来ない事です」
「そ、それは?」
何やら真剣なアルメの表情に、俺らはみんなゴクリと唾を飲んだ。
「…………私、アイリさんの魔法少女姿が見たいです」
「…………はい?」
気の抜けたような空気が部屋をポカンっと打った。
お疲れ様です。次話に続きます。




