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115話──別視点⑯〈新たな脅威〉

 






 王都東南にある四天王達のアジト。

 その室内に驚きの声が沸き起こった。



『新しい魔法少女だと?!』

「ええ。間違いないわ。本人もそう言ってたし」


 テーブルの上に置かれた通信アミュレット。それを取り囲むサフィラ、オニックス、ジェイド。


 アミュレットから発せられたガルネットの驚愕の声にすかさずオニックスとジェイドも続く。


「それは本当か? 二人目の魔法少女が現れたという事か?」

「マジかよ? 魔法少女って一人じゃねえのか?」

『……サフィラ。詳しく話してくれ』

「ええ。分かったわ」


 サフィラは、先ほどモーニング市場で起こった事を話し始めた。





 サフィラがモーニング市場に出向いたのは、例の新型レイド・ストーンのテストのためだ。


 作成者のコリエの説明では、新型のレイド・ストーンから生成されるイクリプスは、オリジナルのレイド・ストーンから産まれるイクリプスよりもパワーが落ちてしまうという欠点があるが、もう一つ懸念材料があった。


「使用者によってはそれなりに強大なイクリプスは生成出来るとは思います。四天王の皆さんなら性能限界のイクリプスを。でも、問題なのは水晶が皆さんの込める魔力に耐えられるか少し不安で……」


 並外れた魔力の持ち主である四天王ならば、新型のレイド・ストーンの性能を最大限に引き出したイクリプスを生成出来るだろう。しかし、逆にレイド・ストーン自体が彼らの魔力に耐えきれるか分からなかったのだ。


 そこで、サフィラ達四天王は、各人一度イクリプス召喚を試す事にした。


 昨日のオニックスは問題なくイクリプスの召喚に成功した。


「だが、やはり以前のよりパワーが落ちる。ティアラ・ホープの前ではほとんど意味を成さないだろう。もっとも、オリジナルとやらのイクリプスでさえホープの前では脅威にならなかったのだがな」


 これがオニックスによる報告であった。



 そして今日。今度はサフィラが性能テストを試みる事にしたのだ。



「市場に居た守備隊は軽く蹴散らせたわ。操作性も悪くなかったし、何よりも召喚時の負担は以前のよりも減ってて使いやすい印象ね」

『そうか。流石はコリエだな。よくやった』

『い、いえ……えへへ……』



 そして少しの間好きに暴れさせていたのだが、ティアラ・ホープは現れなかった。


「途中で民間人が楯突いたてきたりしたから、モンスターを召集したわ。そっちの機能も問題なかった。ホープも来なかったし、テストは順調。そのまま市場を制圧しようかと思ったのよ」


 モーニング市場は、東側地域との主要道路を交えた交通の要所でもある。そこを押さえれば王国軍の物資ルートなどに影響を与えられるのだ。


「けど、途中で大きな魔力を感じたの。あまり感じた事のない不思議な波動のね」


 サフィラがその魔力の元へ赴いてみると、モンスターの大群はほぼ全滅しており、そこに見知らぬ魔法少女が立っていたという訳であった。


「ホープに負けずにかわい……じゃなくて、一目で魔法少女って分かる姿だったわ。でも、別人ね。あたしから問い掛けたら本人も別人だって言ってたし」

『名前は分かるか?』

「レイ・アライズ。そう名乗ってたわ」

『レイ・アライズ……』


 ガルネットは少しの沈黙の後にこう言った。


『確かに、かつての魔法少女は“ティアライズ”と呼ばれていたが、それはあくまで称号のようなもの。名前自体はホープと同じく“ティアラ”から始まっていたが……』

「よくわかんねえけど、そんな名前なんてどうでもいいだろ」


 ジェイドが口を挟み、狂暴な笑みを浮かべる。


「問題なのはそいつが敵であるかどうかだ。で、その後どうなったんだよ」

「戦闘になったわ。残念ながら敵だったわね」


 サフィラがタメ息を吐く。


「まあ、イクリプスのテストにはちょうど良かったし、私も相手したわ」

「で、殺ったのか?」

「残念ながら」


 首を横に振るサフィラ。


「けど、ホープに比べればそこまで大した事もないわね。レイは不思議な魔法をいくつも持っていたけど、あの程度ならあたし達でも十分に対処出来るわ」

「ほーん? 弱えのか?」

「弱くはないわ。十分強いわよ。けど、ホープみたいな化け物じみた強さではないわ」

「ふん……」


 隣でオニックスが表情を苦々しく歪める。まだ昨日の傷が疼いていた。


「けど、ホープは使ってこない魔法を巧みに使ってたし、最後に見せた大魔法だけは要注意ね」

『大魔法?』

「なんだそりゃ?」

「浄化魔法よ。間違いないわ。あんたらも魔法少女伝説で聞いた事くらいはあるでしょ? 魔法少女には魔力を浄化する不思議な力があるって」

「ふむ。そう言えば聞いた事もあるな……」



 かつて、この世界に顕現した魔法少女はその浄化の力によって邪悪なる者を滅したと伝えられている。


 それは普通の魔法ではなく、魔法少女だけに備わる聖なる力だと伝承にはある。


『魔力その物を消滅させる。そんな魔法は本来なら存在しない。しかし、魔法少女にはそれが出来る。似たような力は法国の聖女達も出来ると聞くが、それとも根本的に異なる力だそうだ』

「あの力だけは厄介ね。イクリプスはパワーではレイを押していたけど、あの魔法を食らうと無力化されてしまうわ」

『ふむ……。新しい魔法少女、そして浄化魔法か……。また厄介な敵が増えたな』

「けどよ、そのレイとかいう奴はホープの仲間なのか?」

「さあ。でも、あたし達の敵なんだからホープの味方なんじゃない?」

「敵の敵は味方とも言うしな」


 幹部達は少しの間沈黙した。



「以上が事の成り行きよ」

『ふむ……』

「それでサフィラ。その魔法少女はその後どうした?」

「分からないわ。あたしが直接相手しようとしたら王国軍の援軍が来たから。正直、あの子の実力も分からない内は纏めて相手するのは危ないと思ったから」

「おいおい、弱気じゃねえか。焼きが回ったんじゃねえかあ?」

「はあっ?! 的確な判断しただけよっ! あんたみたいな考えなしの馬鹿と一緒にしないで!」

「んだとコラあっ!」

『だから、ケンカするなって……』


 アミュレットからは疲れたようなタメ息が伝わった。


『ともかく、その新たな魔法少女には要注意だ。実力が未知数の間は直接的な戦闘は避けるべきだろう』


 オニックスとジェイドは不服そうに口をへの字に曲げたが、反論はしなかった。二人とも、ティアラ・ホープとの戦闘で痛い目を見ているため、魔法少女を強く警戒している。




 その後、また今後の作戦の細かい打ち合わせをした四人は会議を終え、それぞれの仕事に戻る事にした。



 唯一、変装しなくても問題の無いサフィラがアジトの外へ出る。日用品の買い出しに行くのだ。


(魔法少女……。あの新しい魔法少女ならあたしでもどうにか出来そうね。問題は、やっぱりホープね……彼女に勝てるビジョンが全く浮かばない)


 想像以上に厳しくなりそうな戦いに、サフィラも思わずタメ息を漏らした。



「あれ?」


「ん?」


 そんな彼女の足下に、一つの影が落ちて止まった。


 サフィラが顔を上げると、そこには見覚えのある少女が立っていた。


「あ、アイリ?」

「サラさん、こんにちは」


 にこやかに挨拶をしてきたのは、ここに来てから知り合った数少ない人物アイリ。


(この子、たしか……)


 サフィラはさっきの記憶を思い起こしていた。

 市場を襲った時、アイリはイクリプスに憤然と立ち向かった。

 普段の彼女は、とても争い事などと無縁のように感じられるだけあって、サフィラも内心意外に思っていた。


(そう言えば、あの後見かけなかったわね。無事だったようね)


 無茶をしてモンスターにやられた訳ではなかった事に、サフィラはいくらかホッとした。


「こんにちは。今日もクエスト?」

「はい。さっきモーニング市場でノゾムさん達と採集クエストをしてて……」

「ああ、あいつと……」


 望はサフィラにとっては苦手なタイプの人間であったが、何かと縁があるのかよく出会う事に内心で苦笑いした。


「あんたも物好きねえ。あんなのと付き合ってるなんて」

「あはは……。確かに、ちょっと変わってる人ではあるけど……でも、良い人ですよ」

「どうかしらねえ」


 と、アイリはそこでふと気がついたようにアジトを見上げた。


「あれ? サラさん、今ここから出てきました?」

「ええ、そうだけど……」

「ここ、近い内にオープンする魔法具店ですよね? えっ、もしかしてサラさんのお店なんですか?」


 驚きと好奇心の混じった瞳を輝かせるアイリの様子に、サフィラは胸を撫で下ろした。


(カモフラージュは上手く浸透してるようね)


「あたしと知り合いの奴で共同経営するつもり。でも、開店の話を知ってるって事は、あんたこの辺に住んでるの?」

「はい。近所ですよ」

「あら、そう」


 演技ではなく、自然に頬がほころぶサフィラ。


「良かったら一度覗いてみなさいよ。それなりの物を揃えている自信があるわ」

「はいっ。ぜひ。何時開きますか?」

「そうねえ……」


 アイリとサフィラの二人は、しばらくたわいもない話に花を咲かせた。


 緩い夕暮れが、町をほんのりと染め始めていた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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