113話──発動、キメ技!
「レイっ?!」
「くっ!」
空中でクルンっと身を翻し、地面を削りながら踏み止まるレイ。
『オオオオオオッ』
そこへイクリプスがさらに追撃を仕掛ける。
──ブウウンッ──
普通の樹木一本分くらいありそうな枝を腕のように振り回すイクリプス。それをレイが迎え撃つ。
「プリズム・レイ!」
さっきの光のシャワーを放つレイ。モンスター達をいっぺんにノックダウンした攻撃魔法だ。
──ズドドドドッ──
『ゴオオオオオオッ』
光の豪雨が容赦なくイクリプスの触腕を打つが、勢いは殺しきれなかった。
──バシイッ──
「あううっ!」
レイの小さな身体が打たれ、宙に飛ぶ。
「レイっ!」
「くっ……!」
体勢を立て直して無事に着地するが、その表情は険しい。
「つ、強いっ……!」
『オオオオオオォ……』
「あら? 大した事ないわね?」
イクリプスの枝にスタっと降り立ち、余裕そうに腰かけるサフィラ。
「不思議な魔法を使うようだけど、そこまで圧倒的って訳でもなさそうね。それとも手を抜いてるのかしら?」
ニヤっと不敵な笑みを浮かべる。
「まあいいわ。この新型イクリプスが思ったよりも強いって事かもしれないしね。やりなさいっ、イクリプス!」
サフィラを乗せたまま唸りを上げて頭を振り上げるイクリプス。アフロヘアーのような枝葉から木の破片が矢のように飛び出す。
「っ! マジカル・リフレクター!」
それを防ぐレイ。光の膜に枯れ枝アローがガンガンと当たっていく。
「お、おい、押されてねえか?」
「頑張れーっ! レイ~!」
ポンコツ天使は映画館の女児みたいな声援を飛ばしていた。
「おいっ、そんな応援じゃなくて、どうにか出来ねえのか?! あのイクリプスめっちゃ強いみたいだぞ!?」
「え、えっと……でも、感じる魔力反応は昨日ホープが倒したイクリプスと大差ない程ですが……」
「なに?」
「きゃあっ!?」
「?!」
ドシーンっと地響きを立てて地面にヘドバンするイクリプス。レイがポーンっと弾き飛ばされ、離れた場所に落ちる。
「あっ! おいっ!」
「あっ、待って!」
イクリプスの横を通り抜けてレイに駆け寄る。
「大丈夫か?!」
「うっ、く……は、はいっ! 大丈夫です!」
土にまみれてるものの、特に外傷もなく立ち上がるレイに少しホッとした。
しかし、なぜこんなに苦戦するのか。昨日の奴と大差ないレベルなら、魔法少女の相手ではないはずだ。
待てよ……。そういやあ、レイは物理攻撃をしていないな。
「分かったぞレイ! あいつはきっと魔法攻撃に強いんだ! だから魔法じゃなくて殴れ!」
「えっ! 殴るんですか?」
「ああ! ホープだって何時も拳と蹴りでイクリプスどもを蹴散らしてきただろ? それでいけるはずだ!」
「こらっ! あんた邪魔よ! 一般人は引っ込んでなさい!」
サフィラの怒鳴り声と共に例の魔弾が飛んできて俺の足下で爆発した。
「どうぇっ?!」
「ノゾムさんっ!?」
すげえ威力……。直撃じゃねえのに体にズシンっときやがるぜ。
視界がぐるんっと天地をひっくり返した後、俺はまた土の味を堪能する事となった。
「うごご、うべっ、ぺっ!」
「パ、パパ! 大丈夫ですか?!」
「ノゾムさんっ、ハトエルちゃんと下がってて下さい! 私っ、やってみます!」
そう言い放って大地を蹴るレイ。全身をバネにして拳を振り上げ、イクリプスに突撃していく。
「たあああーっ!」
よしっ、タイミングもバッチリだ。相手の動きは早くない。当たる!
──ドゴオッ──
まさに木に金槌か何かを叩きつけたような音が辺りに響き渡る。
『オオオオオオ……』
イクリプスの突進が止まり、グラっと揺れた巨体の頭の葉がガサガサと音を立てた。
が──
「──いったあああいっ!?」
「へ?」
大木に拳をめり込ませていたレイが悲鳴のような声を上げて、兎みたいに飛び退いた。
半泣きになり、痛そうに拳をさすっている。
「いったたた……! フーッ、フーッ……!」
手を大事そうにフーフーするレイ。
『オオオオォ……』
「あっはは! 何? もしかして自爆かしら?」
サフィラの嘲笑がカラカラと降る。
「イクリプスの突進を止めたのは流石だけど、力不足ね。やりなさいっ!」
『オオオオオオオォッ』
──ベシイッ──
「あうっ!」
振り上げられた枝に打ち付けられ、吹き飛ぶレイ。砂煙を上げながら地面に叩きつけられる。
「うっ……くっ!」
「あ、あれ? なんで?」
「もーうっ! パパー! 全然ダメじゃないですか!! なんてアドバイスしてるんですかー!」
「い、いやっ、だってよ!?」
だって何時もなら普通に今ので相手が吹っ飛んで倒れるんだ。俺が間違ってんじゃねえ、あのイクリプスがおかしいんだ。
「いや、けど昨日の奴と大差無いんなら……」
「パパっ、そんな事より! レイがピンチです!」
『オオオオオオオォッ』
「きゃあっ!」
──ドドーンッ──
豪快に降りしきる枝の剛撃に、防戦一方となって押されている。
再び吹っ飛ばされて、地面に跪くレイ。
外傷こそ無いものの、その顔には疲労が滲んでいるのが見てとれる。
「くそっ! 物理にも魔法にも強いんじゃどうにもならねえぞ! いや、待てよ?」
リンク・クリスタルで変身したのなら、きっと俺と同じ魔法少女のはずだ。
ならば、アレもあるはずだ。
俺は恥ずかしくて使わないけど、魔法少女に備わっているという、アレが。
「レイっ! 必殺技だ! 必殺技を使え!」
「!!」
追い詰められていたレイの目が俺に向く。その瞳の光はまだ消えていない。
「願うんだ! 心の中で! 敵を倒したい、みんなを守りたい! なんでもいいっ! とにかくこの状況をどうにかしたいって願え!」
「はー。アホらしいわね。願ったくらいで勝てるなら苦労は無いわ。イクリプス、やりなさい」
『オオオオオッ』
全身を震わせてとどめに移るイクリプス。地面が揺れる。
「頑張れっ、レイ! お前の強い想いは本物だって教えてやれ!!」
「!!」
弾かれるように立ち上がるレイ。そして、敵を前にしてギュッと目を瞑って祈り始めた。
「観念したのかしらっ? とどめよ!」
『オオオオオオッ』
「──っ! はああああああああ!!」
「「「!!?」」」
イクリプスの勝ちが決定される。まさにその瞬間であった。
レイの叫びに辺りが震えだし、森がざわめいた。
彼女の全身から深紅のオーラが噴き出し、美しく揺らめく。
まるで、レイを中心に赤いオーロラのカーテンが生まれたかのようだ。辺り一帯がほんのりと赤くなっている。
「わあっ! 凄い魔力です!」
ハトエルが弾んだ声を出す。俺も思わずその神秘的な光の揺らめきに目を奪われた。
「──聖なる愛の光っ! 悪を打ち払いっ、魔を浄化せよ!」
ふわっと花が舞うように飛び上がって手を真っ直ぐにイクリプスへ向けるレイ。
「『アライズ・シャインバースト』!!」
──バシュウウウウウウッッ──
「うおおっ!?」
「わあっ?!」
「なっ……!!?」
『オオオオオオッ……』
辺りを眩ませるほどの光が溢れ出す。変身時のあの光に似た煌めき。
その光の激流はさらに輝きを増し、イクリプスに当たってほとばしった。
「きゃあっ!?」
サフィラがイクリプスから弾き飛ばされる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオォォ……』
光はイクリプスを全て飲み込み、その恐ろしい影をうっすらと掻き消していった。
輝きが弱まっていくと、そこにはもうイクリプスの巨体は無く、後には変な木のようなモンスターと例の妖しい光を帯びた紫水晶が地面に残されていた。
あれ程の凄まじい魔法が放たれたと言うのに、地面も、木も、何も傷ついていなかった。
──シュウウゥ……──
紫水晶に宿っていた妖しい光が消える。
先ほどまでの激闘なんて夢だったかのように、辺りは静まり返り、穏やかな日の光が微睡んでいた。
「お、おお……おおおおおっ?!」
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
激しく息をつくレイ。その姿は優雅とは程遠かったが、可憐で美しかった。
「やったぜーーー!」
「レーーイッ!!」
思わずハトエルと共に駆け出して、レイに飛び付いた。
──ガバッ──
「わっ、わわっ!」
「やったじゃねえか! 凄かったぞっ、今のとんでも魔法!」
「あれこそっ! 魔法少女に宿りし聖なる浄化魔法ですっ! 凄いですっ!」
「ちょ、ちょっと、二人とも……!」
ハトエルはレイの懐にスリスリと顔を埋め、俺はふんわりサラサラな髪を撫でくり回した。
「ちくしょうっ、可愛いしカッケエじゃねえか! 魔法少女なんて良いモンじゃねえと思ってたが、最高だぜっ!」
「ノ、ノゾムさん~……」
恥ずかしそうに首をすくめる姿も凶悪にキュートだぜ。ああ、魔法少女……イイじゃん!
「いったたた……」
と、そこで。喜びも束の間。近くから唸るような声がして、俺らは思わず振り返った。
「く……。何よ今の魔法っ……! あんなバカ魔力の技があるなんて……」
そう忌々しげに言いながら立ち上がったサフィラ。どうやら弾き飛ばされただけで、消し飛んだりはしなかったらしい。
「油断したわ……。弱いかと思ってたらイクリプスを倒す技を持っていたなんて……」
そう言って地面に落ちていた水晶を拾い上げた。
「魔力が消えてる……。やっぱり、これはガルネットの言っていた浄化の力……」
「サフィラ!」
バっと前に出るレイ。
「イクリプスはもう居ません! 大人しく降参しなさいっ!」
う~ん。
これだよ、これ。俺が演技でやったのに、なーんか板につかなかった感じ。だが、なんと自然で馴染んだ姿か。これぞ正義のヒロインだよ。
「降参? あたしが?」
と、これまた悪役が板についてるエロサキュバスがゆらりと殺気を放ってくる。
「馬鹿にしないでくれる? あんたら王国なんかに誰が降参などするものですか」
「……!」
「けど、ま……」
──ワアァー、ワアァー、ワアァー……──
遠くから大勢の人間の雄叫びが轟いてきていた。
どうやら報せを受けた王国軍が到着したらしい。
「今日のところは引き上げた方が良さそうね」
「あっ?! 待ちなさいっ!」
くるりと踵を返したサフィラの姿は、黒い霧に包まれてそのまま消えてしまった。
「「「…………」」」
俺らはしばらく黙って顔を見合わせていたが、兵士達の声がいよいよ近くなってきたので、とりあえず近くの茂みの裏へ入る事にした。
お疲れ様です。次話に続きます。




