107話──一応の勝利
「……。ふーむ……」
勝利後。
俺はなんとなくモヤモヤした気持ちになっていた。
勝ったは勝ったし、その内容だってハッキリ言って圧勝だった訳なんだが、なんかスッキリしない。
「……」
砂粒のように散った水晶。美しい紫色水晶だ。
やはり今回のイクリプスもあまり手応えがなかった。
以前に奴が産み出した化け蟻のイクリプスは攻撃力、再生力、コアの耐久力どれをとっても強力だった。
ましてや、祭りに現れたイクリプスなんて比べ物にならないくらい手強かった。
しかし、ここにきてまさかのパワーダウン。
普通、逆だよな?大体こういのって回を増すごとに敵が強くなるよな?魔法少女的には。
謎だ。
しかも、あいつらの目的がいまいちピンとこない。最初に王都周辺を襲い、王都への攻撃。そしてまた周辺。
重要拠点を落としたいのか、それとも王国そのものに嫌がらせしたいのか、よく分からない。
これではせっかく勝っても空回りっつうか、果たしてこの勝利に意味があるのか分からなくなるな。
「……。ま、いっか。勝ったし」
うん。細けえ事考えてもわかんねえや。
さっさと変身解いて帰るべ。
「あ、そうだ」
せっかく変身して馬鹿力が出るんだ。
あれ直しとこう。
俺はさっきのエンカウント場所、リンの屋台があった場所に戻ってみた。
「あらら、こりゃひでえな」
リヤカーが横にぶっ倒れ、カットされた野菜や、小麦粉とソースが地面にぶちまけられている。残念ながら、食材の方はもう使い物にならないだろう。
「……よいしょ」
──ヒョイッ──
屋台を掴んで持ち上げる。やはり軽々と重さを感じない。
持ち上げて、傾けたりして全体を見てみるが、どうやらそれほど大きな損傷は無いようだ。
地面にゆっくり下ろし、外れてしまった車輪を持つ。
「えっと、これを……こうか」
──グイッ、コン、コン、コン──
素手をトンカチ代わりにして軸に嵌め込んでいく。
思ったより上手くいき、屋台が直った。
「よし、いい感じじゃんか」
他にも細かい傷などは残ってるようだが、特に支障も無さそうだし、これでまたリンの奴も粉ものを振る舞えるだろう。
これで俺の仕事は終わりだ。
さっさとお着替えでもするかね。
「ホ~~~プ~~~!」
「ん?」
適当な試着室を探そうとしたところで、ハトエルの元気な声が遠くから響いてきた。
「無事ですか~~?!」
チビッ子天使と、アイリ、リンの三人がこちらに走って来ていた。
「ホープっ!」
ハトエルを追い抜かして、真っ先にアイリが飛び付いてきた。
「見てました! また凄い活躍でっ……! しかも可愛くて、強くて可愛いだなんて……!」
「あ、あはは。ありがとー」
くそ、こいつに捕まると称賛地獄でむず痒くなるから早く逃げてえんだよな。
後ろからリンも出てきて高揚した感じで手を握ってきた。
「ほんと凄いでやんす! やはりホープさんは伝説に語り継がれし最強の戦士やんす!」
「い、いやー、あははー。照れちゃうなー」
つくづく。つくづく……。こんな姿じゃなきゃ、正にチートハーレム主人公なのによ。
「やりましたねホープ! またまた撃破です!」
最後にハトエルがニコニコっと笑顔をピョコピョコ弾ませて握手してくる。
「もはや無敵っ! 四天王すら相手ではありませんね!」
「ま、まあね。ありがとハトエルちゃん」
「あり? ホープさんはハトやんの名前をご存知だったでやんすか?」
リンが意外そうに言う。
「それに、なんだかハトやんもホープさんとは旧知の仲のように親しいようですが……」
しまった。この貧乏花魁なかなか鋭いぞ。
「あっ、え、えっと! あれなのっ。私達、この間のお祭りで一緒にわたあめ巡りした仲なのっ! ねーっ、ハトエルちゃーん?」
「そ、そうなんです! わたあめ同好会の仲間なんです!」
咄嗟のでたらめであったが、リンは納得したようにコクコクと頷いていた。
「そうでやしたか。流石ハトやん。まさか伝説の戦士とお友達になっていたなんて」
「え、えへへーっ! いやー、それほどでも……って、アイリさん?! なぜ泣いてるんですか?」
「う、羨ましいっ……! ハトエルちゃん、ホープとわたあめ仲間になっていたなんて……!」
割りと本気で悔しそうに泣くアイリ。どうもこの子はホープが絡むと情緒というかキャラというかIQというか、性格が壊れるようだ。
「あ、そうだ。リン」
「は、はいっ。なんでやすか?」
「あれ、どうかな?」
「あれ? あっ!?」
リンが驚きの声を上げて、近くに佇む屋台へと飛び付く。
「わ、わっちのお店!」
「少し直してみたんだけど、どうかな? 素人大工だから自信は無いんだけど……」
あっちこっちをペタペタと触っていたリンであったが、すぐにうるっと涙ぐんだ。
「よ、良かった! これなら大丈夫でやんす! まだ商売をやってける! お、お陰さまでわっちはまだっ……!」
感極まってポロポロと泣き始めるリンに、アイリがそっと寄り添った。
「良かったね、リンさん」
「あい、あいっ……。ホープさんには本当に何とお礼を言えばいいのか……。一度ならず二度までもお世話になっちやいやして……」
「ううん、気にしないで」
さて、さっさと帰るか。
「それじゃあ私はこれで」
俺は三人に手を振っておいた。
「それじゃあね。リン、これからも頑張ってね」
「は、はいっ! 本当にありがとざんす!!」
「ホープっ、また!」
何度も頭を下げるリンと、パチっとウィンクするハトエル。
しかし、その横でアイリだけは何故か少し沈んだ顔をしていた。
「? アイリ、どうかしたの?」
「えっ? あ、いえっ……。ホープっ、また会えますか?」
「うん。きっと」
「……」
「それじゃあ」
「あ……」
飛び立ったと同時にアイリの短い声がした。
空中で振り返ってみると、リンとハトエルの二人は大きく手を振っていたが、アイリはこちらをただ見つめているだけであった。
「?」
三回ほど跳躍したら、すぐに道の駅から離れたので手近な林へと入った。
──ヒュイイィーン……バキッ、ベキキッ……──
──ドサッ──
「う、ウオエエエエェッ……ウエッ、ゲエッ……」
段々とゲロの味に慣れてきたかもしれん。その日のゲロの味で何を食ってるか分かるようになれば立派なゲロソムリエだぜ。
「クソが……」
少し息を整えてから林を出て、道の駅に戻ると砦から駆けつけたのか兵士達が殺到していた。
「敵は逃げたそうだ!」
「帝国軍の四天王だと言うっ、油断するな!」
「一角のある大男だ!」
馬をドカドカと走らせ、槍を空に突き刺しながら走っていく兵士達。
「魔法少女も現れたそうだ!」
「マジかよっ、俺も見てみたかった!」
「くっそかわいいらしいぞ!」
「俺、会ったら握手するんだ!」
「俺はサイン貰う!」
俺のファンもすれ違って走ってゆく。
「やれやれ……」
吐き気止めの差し入れならいつでも歓迎だぞ。
道の駅に居た市民も戻り始め、兵士達から事情聴取を受けているようだった。
俺も度々呼び止められては「魔族を見なかったか?」とか「怪しい大男を見なかったか?」など質問されたが、めんどっちかったので全部「見てない」の一言だけで済ませていった。
慌ただしい騒ぎの中を通り抜けてハトエル達の所へ戻ると、香ばしい匂いが煙となって漂ってきた。
「あっ、ノゾムさん!」
気づいたアイリがパッと明るい顔をした。
「良かった、無事だったんですね?」
「おーう。ちょっとクソしててな」
「もーう、下品ですよパパ」
「ノゾムさん、ちょうど良いとこへ。今焼きそばが上がったとこでやんす。どうぞ」
早くも営業再開したリンが大盛りの皿を差し出してくる。
「おう、大盛りだな」
「はいっ! 今日は良いことありやしたんで」
「へー、屋台が壊されたのにか?」
「それをホープが直してくれたんでやす! ほんとわっち感動しちまって……」
「へえ、また現れたんか。魔法少女って暇人なのか?」
「そんな事ないでやんす!」
横ではハトエルがニコニコとご機嫌に笑っていた。
「なんだよニヤニヤしやがって」
「えへへ。今日もティアラ・ホープは凄くすごく、カッコ良かったです!!」
「そうかい」
と、ここでアイリがすかさず割り込んでくるかと思ったら、当の本人は何やら神妙に考え事をしているように俯いていた。
「おん? どうしたアイリちゃんよ。ホープの話なのに食い付き悪いじゃねえか」
「あ、いえ。はい、ハトエルちゃんの言う通り今日もホープは凄かったです」
そう言って笑うアイリ。しかし、やはりどこか上の空のように見えた。
「ふーん……」
何か考え事があるようだが……。
ま、いっか。
その後、腹も膨れた俺はリンの屋台の横で昼寝して過ごし、夕方になる前にみんなで王都へと戻った。
「それじゃあ、みなさん。また」
「おーう、じゃなー」
「それじゃあ、私もこれで」
「おう」
「アイリさん、またーっ」
別れ際、やはりアイリの表情のどこかに何か憂いのようなものを感じた。
お疲れ様です。次話に続きます。




