106話──VSオニックス、2
──ドッシャアアアンッ……──
「よっと」
土砂を巻き上げて落ちたイクリプス。俺も近くに着地する。
「なっ……! き、貴様はっ……!」
すぐ近くに立っていたオニックスが俺の姿を確認し、驚愕の声を上げる。
「ティアラ・ホープ!?」
どうも、まいど。薄給の変身ヒロイン、異世界魔法少女(♂)だ。
「オニックス、悪い事はやめなさい!」
とりあえず、ありきたりで古典的なキメ台詞を筋肉ダルマ君に吐きつけてやる。
オニックスはと言うと、すぐにワナワナと体を震わせ、怒り心頭と言った感じで怒鳴った。
「おのれえっ、毎度まいど俺の邪魔をしおって! ええいっ、なんと忌々しい!」
さっき向けられたのとは比べ物にならない闘気がぶつけられた。奴の怒りや闘争心が野獣のごとく剥き出しにされている。
「今日こそ決着をつけてやるぞ! 魔法少女!」
「……。和解の道は?」
「無いわああっ!!」
砲弾のように飛び出し、唸りを上げて突進してくるオニックス。その迫力は10トントラックが猛スピードで突っ込んでくるかのようだ。
「ぬおおっ!!」
そして解体作業の鉄球みてえに飛んでくる拳。多分、本当にコンクリートの壁ですら粉々にしてしまうだろう。
「せやあっ!」
こちらも正面から正拳突きで迎え撃つ。鉄球にテニスボールを向かわせるようなサイズ差。
──バッギイィッッ──
「ぐぅ?! ぐ、ぐおおっ……!」
「ふぬぬっ……!」
ぶつかり合った俺らの拳は、刀のつばぜり合いのように宙でギリギリと押し合った。
「ぐ、ぐっ、ぬおおぉ……!」
拮抗が崩れ、オニックスが押されてよろめく。
「くっ、お、おのれえっ!!」
「せいや!」
その隙は見逃さず、すかさず次のパンチを繰り出す。
「ぬっ!?」
──バチィンッ──
俺の左ストレートをキャッチャーミットのような奴の掌が受け止めた。
「ぐうっ……!」
受け止められたが、ダメージは入ってる。オニックスは明らかに嫌がって手を引っ込めた。
「はあっ!」
スピードではこちらが上だ。ここは威力を落としても連撃を出す。
──ズドッ、ドカッ、バキッ──
ストレート、フック、アッパーのコンビネーションを繰り出してオニックスに浴びせる。休みなく叩き込む。
それらを奴は的確にガードしたが……。
──バシッ、ドカッ、ズドオッ──
「ぐ、ぐおおっ!? く、くそ!」
堪らずといったように後ろへ飛び退くオニックス。その腕や手が赤くなっている。
ガードの上からでもダメージは伝わってるようだ。我ながらすんげえハードパンチ。
「くらえっ!」
オニックスが例の魔弾を放ってくる。バチバチと火花を散らせる光の弾。
「せいっ!」
それを手刀で叩き切る。弾は妖しい光を散りばめながら弾け、地面をズタズタにしていった。
「ぬうっ!」
「せいやあっ!」
気合いと共に躍りかかってくる巨体へ、俺からも向かい打ち、間合いに入ったところで回し蹴りの先制攻撃をお見舞いする。
──ベキイィッ──
「ぐおおぉ!?」
蹴りはガチムチ筋肉にガードされたが、相手の骨がミシミシと軋むのが足に伝わった。
「ぐっ、ぬうぅっ!」
「はあっ!」
怯むオニックスへ追加の蹴りを叩き込む。
それもガードはされたが、巨体が軽々と浮いて後方へと吹っ飛んでいった。
「ぐっ、ぐぬおっ……!」
不恰好ながらも何とか踏みとどまって体勢を立て直すオニックス。苦しげな唸り声を、食い縛った歯の間から漏らしている。
「お、おのれ……前よりも更に力を増したか……!」
「え、そうなの?」
それは初耳だな。
「だが、まだ勝負は始まったばかりだ! つけあがるなよ!」
俺の方がかなり押してるはずだが、オニックスの闘志は衰える気配が無い。どうやらバトルジャンキーのようだ。
俺も構えて相手の出方を伺う。
ジリジリとした緊張が辺りの空気を張り詰めさせていく。
「あっ!? あれは!?」
「ホープさんでやす!」
「「!?」」
そんな緊張感の間に突如として飛び込んできた二つの声。
オニックスも俺も思わず振り向くと、アイリとリン、そしてハトエルが近くに居た。
「バっ、なんでお前ら……なんで貴女達が?!」
「ご、ごめんなさいっ、ホープ! そのっ……」
「ホープ!!」
アイリが泣き出しそうな顔で叫んだ。
「こっちに男性が来ませんでしたか?! 30歳くらいの、黒髪の人でっ……」
「えっ?」
それって俺の事か?
「こっちに行ったっきり帰って来ないんです! 見かけませんでしたか?!」
「こ、こっちに居るはずやんす!」
「……」
俺の事探しに来てくれたのか?
「ええいっ! なんだ貴様らは!! まだ彷徨いていたのか!」
と、対面のオニックスが怒声を浴びせる。
「イクリプス! そいつらを蹴散らせ!」
『ビュイイイイイイイイイッ』
──ドオオォンッ──
さっきまで地面に埋もれてのびていたイクリプスが途端に再起動し、土砂をはね除けて飛翔した。
「あっ!? みんな逃げて!」
『ビュイイイイイッ』
翼を広げて急降下を始めるイクリプス。
駄目だ。また吹き飛ばすだけなのか、今度は容赦なく殺そうとしてるのか分からない。
「っ! せいっ!」
足下に落ちていたバスケットボールくらいの岩を咄嗟に拾い、イクリプス目掛けて思いっきり投げた。
岩はブオンッと唸って高速で飛んでいった。
──ビュオオオンッ、ズドオッ──
『ビュオオオオオオオッ……』
岩はイクリプスの片翼を貫通していった。巨大な怪鳥がグラリと傾いて落ち始める。
「!! しまった!」
落ち行く先にはアイリ達が。
──ダンッ──
ほぼ反射的に地面を蹴る。自分でも信じられない加速度で、落下中のイクリプスへと追い付く。
「せいっやあ!!」
跳躍の加速を乗せたドロップキックを巨体にお見舞いすると、イクリプスは驚くほどの勢いで飛んでいき、けたたましい鳴き声が砂煙を上げて地面に突っ込んだ。
──シュルル、スタッ──
「ふうっ……」
危うく押し潰されそうになっていたアイリ達の側に着地。
危なかった。
「ホープー!」
──ガバッ──
「わっ?」
着地した途端、アイリが抱きついてきた。
「ア、アイリ?」
「ありがとうございます! また助けてもらっちゃって……!」
「あ、う、うん。気にしないで」
無防備に体を密着させやがって。この小悪魔ちゃんめ。しかし悲しいかな、女体化の影響か全く何も感じねえ。
「ぬうっ、イクリプスっ! 立てっ!」
『ビュイイイィ……』
「!! アイリ、リン、離れてて!」
「あっ、はい! で、でもっ、私たちは……」
「ノゾムさんを……」
「え、えっと、その人なら保護して向こうに隠れてもらってるの!」
「本当ですか?!」
俺はハトエルにアイコンタクトを送った。
『早く離れろ!』
『はいっ!』
コクっと頷いたハトエルが二人の手を引く。
「さあっ、ここは魔法少女に任せましょう!」
三人が走って離れるのを見届けてから、俺は再びイクリプスへと向き直った。
『ビイイイイイイッ』
「やれっ、イクリプス!」
イクリプスが一声叫び、翼を広げて飛翔する。
血のような羽で空を汚し、觜を尖らせて向かってくる。
「はあっ!」
その凶悪な槍に向かってこちらから突進する。
『ビイイイイイイイイッ』
「せいっやああ!!」
──バッギイィッ──
バク転するほどの勢いで足を思いっきり振ってイクリプスの頭を蹴り上げる。
『ビュイイイィッ……』
「っ! そこっ!」
頭が跳ね上がった事により、コアのある胸元ががら空きとなる。
その隙は逃さない。
片足を上げたバレリーナのような格好のまま、軸足を回転させ、遠心力の乗った手刀をコアに叩き込む。
──バキャッ、ビシッ……──
『ビィアアアアアッ』
「はあっ!」
ヒビの入ったコアへ止めのストレートをぶちこむ。
──バキイッ、バリイィンッ──
『ビィアァァ……』
コアが呆気なく砕け、イクリプスの巨体がゆっくりと後ろに倒れながら靄ように薄れてゆく。
──サラサラ……カシャンッ……──
最後にはあのコアの元である水晶が砕けて落ちていた。
「ふぅ……」
この間のサンセットレイクのキングガーニンよりは手強かったが、やはり大した事ない相手だったな。
「うん?」
と、水晶を見てみると以前とは色が変わっていた。紫色のアメジストのようだ。
「これは……」
「くそっ! やはりパワー不足かっ……!」
と、離れて命令していたオニックスが悔しそうに言った。
「これではティアラ・ホープを倒すのは……」
「……。ねえ」
こいつに聞きたい事がある。
「貴方達の目的は何? なんでこの間はお祭りを襲ったの? 狙ってるのは王女一人? それとも王国の人達みんな?」
「……」
オニックスの奴は苦々しい表情を浮かべるだけで、質問には答えなかった。
「貴様に教えてやる義理などないわ」
「……」
「……今日のところは引き上げさせてもらおう」
あれほどの荒々しい闘志を漲らせていたオニックスであったが、その剥き出しの敵意が静まる。
そして、おもむろに手を上げると、そこから魔弾を撃ってきた。
「!」
思わぬ攻撃に俺も咄嗟に避けたが、狙っていたのは俺ではなく、地面に落ちていた水晶だった。
魔弾が直撃した水晶は呆気なく粉々に砕け散った。
「だが覚えておけ。貴様とはいずれ決着をつけてやる」
オニックスの姿が黒い霧に包まれて消え、辺りには静けさだけが残された。
お疲れ様です。次話に続きます。




