103話──道の駅
アイリのナビの元、リンちゃんの借金リヤカーは二十分かそこらで目的地に着いた。
「あれが道の駅か」
「はい」
草原と点在する林に囲まれた街道。その先に小さな集落のような場所が見えてきた。
「ほーん。普通の村みたいだな?」
「今はそんなようなものなんです。でも、北の街道と南の街道を直接結ぶ道の途中に位置してるので、旅人もよく訪れる場所なんですよ。近隣の村などから出店してる人が多いんです」
ちょっとしたゲートがあり、中へと入ってみる。確かに、宿や露店のような物は多いが、一般の民家は少なさそうだ。村というより、ここは近隣の住人の仕事場なのだろう。
「それなら美味い特産物とかを見て回るのもアリだな」
「ええ。ところで、ノゾムさん達は何の用でここへ? またクエストですか?」
「ああ、まあ似たようなもんだ」
屋台が並ぶ広場の隅に止まり、屋台を展開し始めるリン。
ハトエルとアイリもその手伝いをする。俺はその場で座って待機だ。
「パパも手伝って下さいよ~」
「俺は長旅で疲れた。若い衆で頑張るのじゃ」
「老けちゃいますよっ! あ、もう若くはないか~」
ハトエルを追いかけ回してる内に、リンとアイリが手早く用意を整えた。
「ふいー。ありがとうございやす、アイリさん」
「いえいえ、どういたしまして」
「おう、終わったか」
小さいが、鉄板ものをやるには十分な屋台だ。
「それじゃあリン。味見してやるから、俺のために焼きそばを作るがよい」
「へい。あ、あの~……」
「ん? なんだ?」
「一食50リルクになりやすが……」
「あぁ?」
「ひっ! で、でも、ノゾムさんは特別価格で40リルクで……」
「……。しばくぞ」
「なんで?!」
おいおい。まさか俺から金を取ろうとはな。
「リンちゃんよお。君は祭りの時に僕へ裏切りに近いお駄賃しか渡さなかったのを覚えていないのかな~?」
「そ、その件に関しては申し訳なく思っておりやす……。いずれ必ず何らかの形でお詫びいたしやすんで、それまではどうか……」
「ノゾムさん」
アイリのやんわりとした声がかけられた。
「今日のところは私がお金を払いますから、そんな意地悪しないで。ね?」
「……。しょうがねえな」
財布からなけなしの金をリンに払う。
「ほれ、しっかり50リルクだ」
「へ、へいっ。まいどありっ……。払ってくれるんですね」
「アイリにはそれなりに世話になってるからな。今回は俺から金を出しといてやる」
「へ、へえ……」
「けど、これはお前への貸しだからな。トイチで増えるからよろしく」
「強制借金?! しかも何故かわっちが借りた事になってる?!」
「パパ!」
リンへのやっかみはほどほどにしておき、焼きそばが出来上がるのを待つ事にした。
「仕込みなども今からやりますんで、出来上がりは一時間ほど後ほどになりやす」
「なんだ、すぐ食えねえのか」
「すいやせん」
「まあいい。お前の焼きそばは中々のレベルだしな。そこら辺ブラブラして待つわ」
「リンさん、手伝うよ」
「ありがてえですアイリさん」
「私もお手伝いします!」
屋台に入ろうとしたクソボケ天使の頭を鷲掴みにして止める。
「な、何するんですかパパ!」
「おい、ハトエル。俺らには用事があるの忘れたのか?」
その小玉スイカみたいな頭をクリクリしてやると、ハッと思い出したように目を丸くした。
「そ、そうでした! あ、ご、ごめんなさいリンさん。実はパパと少し買い物しなくちゃいけなくて……」
「あい、あい。大丈夫ざんすよ。行ってらっしゃい」
「ハトエルちゃん、また後でね」
仕込みを始める少女二人から離れ、俺とハトエルは屋台通りを歩く事にした。
「たくっ。俺らはボランティアしに来たんじゃねえぞ」
「ごめんなさい。つい、うっかり。それにしても、調査なんて何をすればいいんですかね?」
「知らん」
「ええ?! 無責任な……」
「責任なんて無いからな」
が、確かに。アルメには様子を見てきてくれとは言われたが、何をどうするかなんて具体的な事は何も言われていない。
「よーし。ここはチートを使おう。お前が初めて役に立つぞハトエル」
「今までだって役に立ってましたよね?!」
「え……」
「えっ?!」
とりあえず、まずはハトエルの天使の力によって、周囲の魔力などに異常が無いか調べてみる事にした。
少し拗ねながらも、エンジェルセンスによって周囲に神経を張り巡らせるハトエル。
「ふーんだ。望さんは天使いじめの意地悪ひねくれアラサーです……」
「無駄口叩いてねえで集中しろ」
ぶつくさ文句を言いながらも、むむむと唸って何やら集中するハトエル。
「む~……。特にこれといった異常は無いようですね」
「そうか」
しかし、他に調べようがないし、このまま辺りをうろつきながら続けるしかないな。
その後も曖昧ながらも調査を進めていったが、特にこれといった異常は発見出来なかった。
流石にそんなトントン拍子で見つかるもんじゃないのか、それともここには何も異常は無いのか。正解がどっちかすら分からないのは悶々とするところだ。
「アルメのやろう、嘘ついて俺の貴重な時間を無駄にしやがったな。罰金3万リルクだ」
「望さんじゃあるまいし、王女様はそんな意地悪な事なんかしませんよ」
「一言余計だ、型落ちカーナビ」
「単語の意味は分かりませんが、悪口ですね?」
仕方ない。そろそろリンの屋台も準備が整う頃だろう。
戻るか。
「しっかし、イクリプスの同時発生か。タイミングや位置の関係からして四天王のあの三人だけじゃどうにも出来ない芸当だな」
「それじゃあ、あの召喚獣は四天王だけの秘技という訳ではなかったのでしょうか?」
「かもな。あるいは四天王とかいうのと同等の力を持った奴らが他にも居るのか。三人衆とかファイブカードとか六柱とか、訳のわかんねえ奴らが居たりしてな」
「もしそうなら、ますます厳しい戦いになりそうですね……」
「かもな」
あるいはその逆。イクリプス召喚の魔法だか術式だかの技術が安定して量産化に成功して誰でも召喚し放題。なんて事もかんがえられる。そのパターンが一番最悪ではあるが。
「ま。まだよくは分かんねえけど、地道に調査してくしかねえな」
「ですね。それにしても……望さんもたまには真面目にお仕事するんですね!」
「何時もだろうが」
「え~、何時もは人の邪魔ばっかするじゃないですか」
「お前が言うな! このポンコツ無能天使が!」
「ひどいっ! いーっだ! 甲斐性なしへそまがりオジサン!」
──ピキッ──
「誰がオジサンだー!!」
「わまま~!?」
必殺お仕置きグリグリを躱してピューッと走り出して逃げるハトエル。こっちに顔を向けてペロっと舌を出してやがる。
「待てっ、このハトガキ~!」
「やーですよ~だ!」
「あっ、前見ろ!」
「そんな手には引っ掛かりません……ぶぉふぁ!」
俺の注意も間に合わず、ハトエルは近くを歩いていた通行人のケツにボホンッとぶつかった。
その拍子に尻餅ついて転ぶ。
「いたっ。うう~」
「ほれ、天罰てきめんだ」
「私に下る訳ないでしょっ!」
「む?」
当のタックルされた相手がこちらに振り向く。
「うん? 貴様らは……」
「ん?」
そいつは大男だった。
筋肉質で、厳ついガタイの良い中年男。俺よりも頭二つ分くらい背もあるし、腕なんか俺の太ももくらいありそうだ。
顔も厳つく、縄張り争いを制し続ける熊かライオンといった独特の感じだ。
しかし、どっかで見た事あるような。
「あ、思い出したぜ。前にサラやチャラ男と一緒にリンの焼きそば屋に来たオッサンだな」
「なに?」
相手も何か思い出したのか、ああと呟くように言った。
「そう言えばあの時ジェイ……エドと何やら言い争ってた……」
男は何か考え込むように俺とハトエルを見ていたが、キャッチャーミットみてえな手をハトエルに差し出した。
「ほれ、立てるか?」
「あ、はいっ」
立たせてもらうハトエル。
「あの、ごめんなさい。あと、ありがとうございます!」
「うむ。走る時は周囲に気をつけろ。何事も油断大敵だからな」
大男はそんな事を言ってノシノシと歩いて行ってしまった。
「おっきな人ですねー。まるで巨人みたい」
「……」
「ん? 望さん、どうかしたんですか?」
「いや……」
なんとなくなんだが……。何か勘に引っ掛かるものを感じるっつうか……。
「いや、気のせいか」
ハトエルの頭をポコンっと叩く。
「気を付けろよ。もし相手がタチの悪い輩だったら慰謝料請求されるかもしんねえからな」
「そっか。確かに望さんみたいな人も居るかもしれませんからね」
軽くグリグリ攻撃をハトエルにしてやってから、アイリ達の元へ戻った。
お疲れ様です。次話に続きます。




