102話──調査開始
王城での飯ってんだから宮廷料理を期待してたんだが……。
「おいおい、アルメちゃんよお。救世主様に食わせるにはちっとばかり貧相じゃねえかい?」
「申し訳ありません。今はこれでもやっとで……」
「こらっ、望さん! ご馳走になっておきながら、そんな言いぐさはないでしょう!」
なんて能天気天使は言いやがるが、ミルク粥とレーズンパンだけってのは流石に貧相だろう。
「王女様よ。たまには宮廷料理でも振る舞って俺の士気を上げてみねえかい?」
「い、いつかご用意しますね」
「いつかっていつだよ」
「私のお小遣いが回復してから、とか?」
「なるほど。来世まで我慢するぜ。ハトエル、次の異世界転移の用意だ」
「失礼ですよ望さん!」
大事な密談の後、アルメの勧めで飯をもらえる事になったのだが、まあ貧相なこと。
俺とハトエルが普段食ってる物とさして変わらない。いや、むしろそれよりも貧相かもしれん。
「たく。金は払えない、ご奉仕はしない、飯は修道食。まさかだがワザとじゃねえよな?」
「申し訳なくは思っております……。ですが、悪意はありません……」
まあ、今さら怒ったってしょうがねえよな。それに、このみすぼらしい飯達は貧相であることは確かだが、味は悪くない。
「まあいい。その代わり、ミルク粥をお代わりだ。貧相な飯だが、腹は膨れる」
「もう、素直じゃないなー。美味しいなら美味しいって言えばいいのに~。王女様っ、私もお代わりしていいですか?」
「はい。お好きなだけ食べて下さいませ」
お姫様よりゴチになった俺らは食後のデザートティーを頂く事になった。
「それでは、食事も終わりましたので、本日お二人をお呼びしたもう一つの本題に移らせて頂きます」
「本題って何ですか?」
「実はぜひ引き受けて頂きたい事がありまして……」
「ほーらきた。どうせそんなこったろうと思ったぜ。お前さんがタダ飯なんて食わせてくれるはずないもんなあ?」
「もう、望さんは一々突っかかり過ぎです」
ほっとけ。
「まあいい。んで、頼みって何だよ王女様」
「はい。先ほどお話した通り、各地で不可解な出来事が起きています。ですので、次にイクリプスが現れそうな場所の様子を先に見てきて欲しいのです」
「現れそうな場所?」
アルメはテーブルの上に一枚の地図を広げた。どうやら王都とその周辺の簡単なマップらしい。
「今回のイクリプス出現ポイントに標をつけておきました。それらのポイントの共通点は、いずれも軍の輸送ルートに隣接したものだという事です」
「つまり、俺らに似たような場所、輸送ルート上とかに位置する軍事拠点や村とかに行って調査して欲しいって事か?」
「はい。その通りです。既に優秀な占い師に次の出現場所を予言してもらい、戦略情報士達にも見当をつけてもらいました。こちらに出現予想地点を記しました」
アルメが地図を丸めて差し出してくる。
「こちらをお渡ししておきます。予測地点に赴き、イクリプスが現れたら撃破をよろしくお願いいたします」
「拒否権は無いんだろ?」
だが、タダ働きはナシだ。ここは念を押しておく。
「イクリプス一体につき1000リルクな」
「こらっ、望さん! それが無理なお願いなのは知ってるでしょう!」
「ちっ。なら、妥協して……一体につき飯一回な」
「はい。それなら喜んで……」
アルメの柔らかい微笑みを見たら、多少の事は我慢してやろうかという気になった。
その後、俺らは今日のところは家に帰り、明日の調査へ臨むべく早々に休むことにした。
そして、翌日。
「おはようございます!」
「おーう」
朝、何時ものように軽い朝飯をとってから、早速ハトエルと共に調査へと出かける事にした。
「それで望さん。どこに行くんですか?」
「まずはこの『エクストイ道の駅』とかいう場所に行こうと思ってな」
「どれどれ~。えっと、西街道を行った先にありますね。以前に行ったフロントーチ砦より少し奥ですか」
ハトエルの言う通り、前にジェイドと戦った砦よりもさらに西へ行った地点にあるようだ。
丁寧に、アルメのメモで『西門より徒歩で40分ほど』と書かれている。
「確か西門にもギルドの定期便があったな。今回はそれに乗って行くか」
「はいっ。頑張っていきましょうね!」
「お前は気楽でいいよなあ。タダ働き同然のクエストなんだぞ?」
「私は望さんと冒険出来るだけで楽しいですから。えへへ」
ちくしょう、可愛いじゃねえか。誘ってんのか?ガキのくせに誘惑してんのか?
南の大通りを上がり、西通りへと折れて進む。今日も今日とて異世界タウンは賑わっている。
「しかし、イクリプスやら四天王やらが出てきてるってのに町の奴らは呑気なもんだな。不安そうな奴なんて居ねえぞ」
「きっと皆さんも魔法少女の活躍を信じているんですよ! だから安心して生活出来るのでしょう」
「俺という哀れな犠牲の上に成り立つ平和か。ふっ。ダークヒーローみたく渋くて良いじゃねえか」
「望さんはヒーローですよっ!」
別にヒーローなんかなりたくもねえが、しばらくは陰で活躍してやる。
んでもって経済回復した暁にはアルメから多額の褒賞金を貰って異世界ヒモ生活だ。
「うしっ! 気合い入れるぞハトエル」
「はいっ……あれ?」
パタっと立ち止まるハトエル。
「ん? どうした?」
「あそこに居るのって……」
そう言うハトエルの視線の先には見知った二人の姿があった。
「あ、アイリとリン」
「アイリさーんっ、リンさーんっ!」
ハトエルが大声で呼ぶと、荷車の近くで何やら話していた二人がこっちへ振り向いた。
パタパタと駆けていくハトエルに続いて、俺も二人の元へ行った。
「おはよう、ハトエルちゃん、ノゾムさん」
「おはようございますなぁ、お二方」
「おはようございます!」
「よ、またヤクの運びの相談か?」
「違いやすっ!」
リンがパンパンッと荷車を叩く。ただの荷車ではなく、屋台風に改良の施された物だ。
「この間のお祭りで稼いだお金でこの屋台を買ったんです。それで焼きそば売って稼いでる訳でやんす」
「ほおー? そんなモン買う金あるのに俺への感謝を込めたプレゼントは無いのか? おぉん?」
「そ、それは堪忍してくだせえ。わっちも借金を返しきるまでは自由にお金を使えないもんで……」
「リンさんはこれからエクストイの道の駅に行って商売をするんですよ」
助け船を出すように言うアイリ。
「決して遊んでる訳ではなく、生活のための出費ですから……」
「そうか。なら今の借金が返済し終わったら次は俺にも返済しろよな。しめて20000リルク」
「借りてないざんす!」
「ん? 待てよ? 今、エクストイの道の駅に行くって言ったか?」
「はい。そうですが?」
あれ。確かそこは俺らが調査に行く場所だ。
「ならちょうどいい。実は俺らもそこへ行くとこなんだ。案内してくれ」
「そうでやしたか。実はわっちも今アイリさんに同じように案内を頼んでいたところでやして」
二人は、さっきたまたまこの近くで出会い、リンが王都外の近場の商い場所を模索していると話したところ、お人好しなアイリが案内を申し出たそうだ。
「エクストイの道の駅は昔はモーニング市場みたいな場所でもありました。今はそれほど盛んではありませんが、例の砦の兵士の人達も演習帰りに立ち寄って買い物などをしていくため、リンさんの商売にはうってつけかなと思ったんです」
「詳しいな」
「冒険者になる前はセイディによく連れてってもらってましたから」
これも何かの縁。渡りに船だ。
「そんじゃ俺らもついでに案内してくれ。リン、俺はこの屋台で寝てくから着いたら起こせ」
「横暴でやんす……」
残念ながら寝るスペースはなかったので、俺らは荷台に。リンは西門で馬の貸し借りサービスをやっている業者から牽引用の馬を借りて、その上に跨がった。
「そいじゃあ出発しやす。少々揺れるんで気をつけてくだしゃんせ」
屋台が動きだし、いざ特殊クエストへと出向くのであった。
お疲れ様です。次話に続きます。




