101話──別視点⑮〈新型レイド・ストーン〉
望とハトエルが王城に出向いている頃……。
──王都内のとある場所にて──
「こちらが“新型”のレイド・ストーンとなります」
「おう、ご苦労さん」
「では、私はこれで。王都の厳戒態勢はまだ解かれておりませんから、お気をつけください」
「心配すんな。お前らこそ下手打つんじゃねえぞ」
「はっ!」
連絡係の帝国兵士が外へ出て行くのを見送ってから、ジェイドは受け取った鞄を怪訝な表情で見た。
「今度のは大丈夫だろうな?」
リヒトの姿に化けたジェイドの口からは、苦々しい言葉が自然に漏れていた。
王都東南地区の居住区。そこには古びて使われていない空き家や倉庫が多くある。
その一角に、新しく出来た店。魔法用品を売る店、いわゆる道具屋であった。まだオープンはしていないが、近日中に開かれる予定である。
もっとも、商売を始めるのには向いていない立地条件なので、普通の商人達が見たら首を傾げるだろう。『こんな所で商いが上手くいくのか?』と。
それもそのはず。そもそも、道具屋というのは仮の姿。
本当の目的用途は帝国軍の秘密アジトであった。
魔導具の類いが詰められた木箱が乱雑に置かれた店内。その狭苦しい中をジェイドが縫っていき、二階へ繋がる階段を登っていく。
そして、一つの部屋の中へと入った。
「よ、今届いたぜ」
「む、やっとか」
「おつー」
部屋の中には、変装をしていないオニックスとサフィラの二人が待っていた。最低限の家具が置かれた部屋の真ん中で、乾物を主とした昼食をとっていた。
「あっ、てめえら! 先に食いやがって!」
「あんたの分はとっといてあるわよ」
「早く食わねば俺が食ってしまうぞ」
「馬鹿抜かせ!」
先ほど受け取った鞄を近くのテーブルに置いてジェイドも変装を解いて食事にありついた。
ややして、食事を終えた三人は早速例の鞄の中身を調べる事にした。
「今度のは大丈夫なのだろうな?」
「多分平気よ。今度のはコリエが一から作ってくれたのだもの」
ジェイドと同じ言葉を口にするオニックスにサフィラが諭すように言う。
鞄の中から木製のにケースが現れる。それを上下に開くと、中には紫色の水晶が幾つか入っていた。
「あら? アメジスト?」
サフィラが手に取る。それは確かにアメジストであったが、純粋な物ではなかった。
「なるほど。アメジストを素体にして設計したのね。コリエ、頑張ったのでしょうね」
「よし、ガルネットに繋げるぞ」
オニックスが例の通信用のアミュレットを取り出してテーブルの上に置く。すぐに嵌め込まれたルビーが光り、声が響いた。
『どうだ? レイド・ストーンは届いたか?』
ガルネットの声が三人を見回すかのように問いかけた。
「おう、届いたぞ。確かにレイド・ストーンだ。だが、色が違うな?」
『コリエが素材を変えて作った物だからな。というより、オリジナルのレイド・ストーンに使われた素材は“例の男”が持ち込んだ物で、自然界には存在せず、また再現も不可能だった』
「ふーん。あの“代行者”とか名乗ってた奴か。で、結局見つかったのかよ?」
『残念ながら手掛かり無し。完全に行方が分からない』
アミュレットからタメ息が伝わる。
『引き続き情報部が追跡する予定だが、期待はしない方がいいだろう』
「……。まあ、それはともかくとして。コリエからこの“新型”の説明をしてくれるのでしょ?」
サフィラが本題を促すと、ガルネットも切り替えたように明瞭な返答をした。
『ああ。既に準備してもらっている。コリエ、頼む』
『は、はいっ』
やや緊張気味の声がガルネットと交代する。
『あの、皆様お疲れ様です。ご無事なようで安心しました』
「うむ。そっちも変わりないか?」
『はい。今回の新型レイド・ストーンを作るにあたって忙しくはありましたが、お陰様で』
「おいチビ助。俺は専門的な話なんか頭に入らねえから、説明は分かりやすくしろよ?」
『は、はい。頑張ります』
「お願いねコリエ」
アミュレットを通して、コリエ少女からの説明が始まる。
『そちらのレイド・ストーンは、例の消失してしまったオリジナルの水晶の設計図などを参考にして私が作り上げたコピー品となります』
三限祭当日。サフィラ達三人のレイド・ストーンは突如として独りでに起動し、暴走した。
三つのレイド・ストーンが合体し、それは巨大なドラゴンのようなイクリプスとなって四天王達の命令もなく勝手に暴れ、町を破壊したのだ。
結果は、現れた魔法少女ティアラ・ホープによって撃破されて終わったのだが、その後に水晶は残らずに完全に消えてしまった。
なぜレイド・ストーンが勝手に起動したのか。なぜ、イクリプスは独りでに暴れたのか。なぜ、レイド・ストーンは完全に消えてしまったのか。
それらの謎の鍵を握る『協力者』の男は帝国から姿を消してしまい、今では真相は分からずじまいだ。
しかし、問題なのはレイド・ストーンという切り札の喪失であった。これが失くなってしまったのでは帝国が計画している王城奇襲作戦が成立しない。
そこで、レイド・ストーンの制作と修理に携わっていた少女コリエが、残された設計図や資料からおおよその性能や仕組みを解析し、複製品を作成したのだ。
『ただ、オリジナルのレイド・ストーンに宿っていた特殊な素材と魔力の正体だけはどうしても分からず、結果、私の作ったコピー品は本物に比べて性能が落ちてしまいました……』
「具体的にはどうなったの?」
『モンスターの召集、操作能力はそこまで変わりません。しかし、生成出来るイクリプスの強さが半分近くにまで落ちてしまって……』
コリエの作成したコピー品はイクリプスを産み出す事には成功したが、その戦闘能力──特に恐ろしいほどの再生能力──は大きく低下してしまった。
『代わりに作成のコストは下がりましたし、基本的には誰にでも扱えるようにはなったのですが、それも使用者の魔力によって産み出されるイクリプスの力がバラついてしまうのです』
「そうなのか?」
『はい。ここ二日、情報部が先んじて王都近郊でのイクリプス召喚を行ったのですが、どれも王国軍の一般の兵士に撃破されてしまったようで……。でも、皆さんの魔力ならきっと強力なイクリプスが産み出せるはずです。おそらく、従来の六割から七割ほどのパワーを持ったものになるかと』
「ほお。個人差の出るイクリプス、か」
三人はそれぞれ新型のレイド・ストーンを手に取ってしげしげと見つめた。
『使用方法は以前と変わりません。詠唱も同じです。後は実戦に投入する価値があるかどうかですが……』
「あのイクリプスの半分のパワーでも出せれば大きな戦力よ。コリエ、お疲れ様」
『は、はいっ! それでは後の作戦はガルネット様から……』
コリエの声が下がり、再びガルネットと代わる。
『今の説明の通り、新型はパワーダウンはしているものの、コストが低く運用しやすくなった。だが、やはり一般の兵では大したイクリプスを召喚出来ない。よって、再び三人に性能のテストをやってもらい、その戦闘能力を推し量って欲しい』
「ふむ……」
『各地にイクリプスが現れた事で王国側にも混乱が見られる。王都だけに警戒の目を集中出来なくなっているはずだ。今ならお前達も動きやすい』
「また東西南北で試すのか?」
ジェイドがそう質問すると、ガルネットが否定した。
『いや、方位は問わない。既にオリジナルでの実験でほぼ問題ない事は分かっている。近辺で適当な場所を見繕って試してみてくれ』
「適当ねえ……」
サフィラが水晶を傾ける。
「最後はイクリプス軍団で一気に王城を陥落させるって感じ?」
『最終的にはな。だが、作戦は変更する』
「変更?」
『量産化に当たって、当初の“王女暗殺計画”から、“王都攻略計画”に変更する。今までは王女の首一つだけを目指していたが、今後は王都の戦力を削ぐ事も平行して狙っていく。王都周辺の要所を制圧、包囲し、孤立させて一気に畳み掛ける』
「へえ、俺らだけでか? 面白えじゃねえか」
『そんな無茶はしない。既にレイド・ストーンの量産体制が整いつつあり、予定では100個ほどの生産が開始される。精鋭部隊を結成し、それらにそのレイド・ストーンを持たせて王都を攻める。……出来れば王女だけを抹殺したかったが、レイド・ストーンの量産が可能となった今では、イクリプス軍団で王都ごと壊滅させた方が確実だろう』
「なるほど。つまり俺達の仕事はその最終的な仕上げまでに新型のテストと王都周辺の敵戦力を少しでも削るという事か」
『そういう事だ』
「ふん。面白い」
オニックスはそう言って水晶を懐にしまった。
「なら、明日俺が早速試してやろう」
アジトでは、今後のための細かい段取りが取り交わされていった……。
お疲れ様です。次話に続きます。




