第27話:新米冒険者、労う
試合が終わってから、倒れた相手側の五人が担架で運ばれていく。試合時間としては、たった数分。だが、密度の濃い時間だった。
ジェイド、アインと戦い、勝利したことで、俺はまた一段と成長したと思う。
ジェイドは超一流騎士団で、アインは超一流冒険者。体力が衰え始めた年齢ということもあって、全盛期ほどの力はないだろう。
それでも、この二人に勝つのは容易ではない。これは、素直に喜ぶべきことだ。
「シオン様、お疲れ様でした」
勝利の余韻に浸っていた俺に、ルビスが声を掛けてきた。
「お疲れ様。……にしても、ルビスの一撃は凄かったな。もしかして最後になるまで手を抜いていたのか?」
「手を抜いていたというか……その、シオン様より先に倒してしまうのはダメなのです」
「別に俺に構わず先に倒して良かったんだぞ?」
「い、いえ……そういうことではなく。シオン様に見ていただきたかったのです」
ルビスがなぜか恥ずかしそうに頬を朱に染める。いつも無表情なルビスがこうなるのは珍しい。
「そんなもんか」
でも、これは良い変化だ。
ルビスと出会ってからずっと見ているが、ルビスは俺のことを第一に考え、俺のために行動している。どうして俺に見てほしかったのかはわからないが、ルビス自身の思いを表に出せるようになってきたのは、真の意味で仲間になったような感じがして、心地いい。
「ミリアとシロナの戦いぶりも見事だったよ。二人の長所をいかんなく発揮していたと思う」
「ミリアはともかく、私は予定通りってところかしらね」
「シロナはマグレだけど、私は予定通りだったよ!」
「はいはい、そうだな。二人とも予定通りだ」
試合直後で疲れているだろうに、いつもと同じ調子だ。
「ジークも完封勝利だったな。あの女、強かったのか?」
「ええ、シオン君やアインさんほどではありませんが、強敵でした。僕は大剣を使うのでスピード勝負では分が悪いんですよ」
「それは相手も同じだろうよ。一撃でもスマッシュヒットがあれば剣ごと吹き飛ばされちまうしな。――ま、何はともあれ、無事に優勝できて良かったよ」
アインが提示したルールのおかげで、勝つことができた。俺たちはパーティを結成してからまだ日が浅い。それに、アインの落雷は強力だった。
でも、結果は結果。
実戦で、練習と違うから負けたというのは何の言い訳にもならない。アインの慢心もあった。その隙をつくことは卑怯ではない。
アインが負け惜しみをすることはないだろうし、逆に俺たちが負けた気になる必要もない。むしろ、失礼に当たる。
双方が全力でぶつかり、結果的に俺たちが勝った。
それでいい。
「じゃあ、今日は祝勝会をするとしよう! ギルドの酒場で、いつもより良い物を食べよう」
「わーい、ご馳走楽しみ!」
「あまり無駄遣いはしたくないのだけど……まあ、今日くらいはね。良いんじゃないかしら」
「ご馳走……いつもより美味しいご飯なのですか?」
「それはいいですね。全力を出した後のご馳走とエール……胸が躍ります」
全員のテンションが上がる。
これから授賞式が始まり、終わる頃にはちょうど良い頃合いだ。夕食にベストな時間。
ご馳走を食べたら、今日はぐっすり眠る。明日は月曜日。またみんなでクエストに出かけよう!
充実した日々を思い浮かべながら、控室に戻り、授賞式の時間が来るのを待った。
◇
それから、一時間後。授賞式の時間になった。
授賞式は優勝パーティと準優勝パーティのメンバー全員が表彰される。
戦闘不能になった冒険者や騎士団の精神力がある程度回復するには、このくらいの時間が必要なのだ。
優勝と準優勝の二パーティがバトルゾーンの中央に並ぶ。
「シオン……だったな」
小声で、さっき戦ったアインが話しかけてきた。
「ああ」
「正直、お前を舐めきっていた。……だが、最初から本気を出していても勝てなかったかもしれない。ジークが言ったことは本当だった! シオン……お前は間違いなく天下を取る。俺が届かなかった、超一流冒険者になれる。生きている間に戦えてよかったぜ」
アインが、握手を求めてくる。
俺はその手を固く握り返した。
「アインさんは超一流冒険者だよ。少なくとも、みんなそう思ってる」
俺の言葉を聞いたアインが自嘲気味に笑う。
「上には上がいるんだ。俺は超一流とは言えねえよ。だが、シオンには可能性がある。だから、頑張れ」
アインは、Aランク冒険者だ。この村だけじゃなく、この国全体でもほとんどいない実力者。それよりも強いやつがいるってことか……?
二パーティ合計十人が整列し、村長から労いと賞賛の言葉をもらう。
それから、優勝パーティには『マーガソレス島狩場一日占有権』のチケットが渡された。もう一つ、副賞として百万リルが両方のパーティに渡される。
百万リルを五等分……一人二十万リルちょうど分けられる。
ありがたい臨時報酬だ。祝勝会をやることでのお金の心配は無用なようだ。





