第26話:新米冒険者、見守る
全精神力を刈り取られ、意識を失ったアインはピクリともしない。
なんとか勝てたものの、ギリギリの戦いではあった。相手の慢心を突いた特攻で一気に畳みかけたため、実力だと胸を張れるような綺麗な勝ち方ではなかった。
だったのだが――。
「すっげえええええええ!?」
「ジェイドを倒したのはマグレじゃなかったんだ――!」
「あれがDランクなんて信じられねえよ!」
大歓声と拍手が起こっていた。
ぽかーんとしていると、歓声は次第にコールへと変わっていく。
「「「「「シーオーン! シーオーン! シーオーン! シーオーン!!!!」」」」」
確かに勝ちはしたけど……あんな泥臭い勝ち方だったのに……?
冒険者学校では落ちこぼれ。卒業後は底辺のブラックパーティで心身ともに消耗していた俺にとって、これだけ良い意味で注目されるのは、初めての経験だった。
コールに応えて、右手を上げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
観客席のボルテージは最高潮になった。
嬉しい……ような、ちょっと恥ずかしいような、不思議な気持ちだな。
ふと、バトルゾーン内を見回す。俺とアインの試合が終わったとはいえ、他の四組はまだ続行中だ。俺へのコールが嫌でも聞こえてくるからか、相手側の四人はなんともやりにくそうに戦っていた。
まずはミリア。
ミリアの武器が弓に対して、相手は遠距離魔法使いの女。どちらも飛び技を使うので、ずっと走り続ける戦いになっている。
試合時間はまだ始まって数分。とはいえ、ずっと動き続けているのでさすがにお互い息を切らし始めていた。
攻撃力や反応速度自体は五分五分といった感じなので、先に体力が切れた方が負けだ。ミリアは自慢の脚力で相手から距離を取り、三本の矢を一斉に放つ。一斉に放ったのに、着弾点が等間隔に空いている。
それによって、避けようとした相手は無理やり身を捻り、石畳を転がった。
なるほど――ミリアにはもう勝ちが見えているのか。
見た目や言動は賢そうに見えないミリアだが、意外と勘が鋭いのだ。
防御面も大したものだ。強靱な脚力を生かして、飛んでくる攻撃を軽々とかわし続けている。
こうして、ミリアは体力勝負で勝った。
動きが遅くなった相手に容赦なく矢をぶっぱなして、貫通させる。
クリティカルヒットした一撃が致命傷になり、全精神力を削りきった。
次は、ミリアとは親友であり、犬猿の中でもあるシロナ。
シロナが相手をしているのは、短剣使いの男。素早い動きでシロナの強力な魔力弾を避けつつ、接近を試みている。
近距離戦に持ち込まれた時点で、シロナの戦いは厳しいものになる。今の間合いは約五メートルほど。これを維持できなければ厳しい。
だが、相手も決勝戦まで駒を進めてきたパーティの一員なのだ。弱いはずがない。魔力弾の網の目を強引に突破し、目前まで攻め来る。
「これで終わりですよ!!」
男が勝利を確信し、声を弾ませる。
絶体絶命の大ピンチ――だが、シロナの口元は綻んでいた。獲物を罠にかけた猟師のような、不敵な微笑み。
「これでもくらいなさい」
シロナの手の平から、黄金色に輝く球体が飛び出してきた。
……あれは、まさか雷球!?
アインが使っていた技だ。なんでシロナが!?
「――――なっ……はああああああ!?」
超近距離から発した雷球。アインのものよりはやや速度と攻撃力が劣っているようだが、さすがに避けられない。
シロナの雷球が着弾し、男が後方に吹き飛ばされる。石畳の上をゴロゴロと転がり、制止した時には、全精神力を失っていた。
……なんというか、流石だな。
この時点で、俺とミリアとシロナで三勝しているので、後の勝敗は関係ない。
関係ないが、ルビスもジークも、負けるつもりはさらさらないようだ。
ジークが戦っているのは、剣使いの女。俺とアインの戦闘中に空から降ってきた女だ。どちらも剣使いということで、キンキンキンキン――――と剣を打ち合う音が聞こえてくる。
ジークの剣がかなり大きめの大剣であるのに対して、相手の女が持つ武器は俺と同じ通常サイズ。扱いやすい反面、力比べでは弱い。
俺が見た時には、既に決着が着こうとしていた。
ジークが大剣を横薙ぎに大きく振った。刃と刃が当たり、キンッという高い音が鳴り――女の剣を斬った。
女の剣がガラスが割れるような音ともに粉砕し、形を失う。ジークの剣が女の肩に勢いを落とさず直撃。精神力を失った女は、その場に倒れた。
バトルゾーン内では、武器の耐久力も精神力へと置き換わり、全てを失うと消滅する。――が、約十分ほどで復活するので本当に消滅するということはない。
「ふう、なかなかの強敵でした」
澄まし顔で一息つくジーク。端から見ればまったく苦戦していたようには見えなかったのだが、ジークなりに色々と苦労もあったのだろう。
続いてルビスだが――ワンパンだった。
弓使いの女が放つ強力な矢を軽い身のこなしで避けていき、あっという間に間合いゼロになる。
右の拳で鳩尾に強烈な打撃を加えることで、決着した。
……これだけの力差がありながら、ここまで試合を引っ張った意味がよくわからないが、ともかくこれで全勝。俺たちの優勝が決まった。





