第28話:新米冒険者、祝勝会をする
祝勝会――。
授賞式と閉会式が終わったのは午後三時なので、まだ夕食には早いのだが、この時間の方が空いているし、今すぐにも眠ってしまいたいほど疲れているので、早めに店に入った。
いつもの酒場や食堂ではない、小洒落た和風料理店。この辺では食べられない東洋風の料理を食べられるのだとか。
アイテムストレージを使うにせよ、大陸間大移動で食材を運ぶ必要があるせいで、食材の原価自体が高く、それは価格にも反映される。
一人分でも満腹になるまで食べれば二万リルは下らない超高級店。こんな特別な日でもなければ、とても来られない。
横開きの扉をガラガラと開けて、店内に入る。
奥が厨房。左右は個室がいくつもある。ちらほら客の声が聞こえてくる。
「こんなお店見たことないよ! すっごーい!」
「料理だけじゃなく、内装も東洋風らしいからな。この辺ではあまり見ないよな」
この店自体は、ユニオール村の冒険者や村人なら誰でも知っているくらい有名だ。ミリアとシロナ、それとルビスは知らなかったが、この村に長くいるジークも、名前を聞いたことくらいはあったようだった。
「こういう雰囲気のお店も良いものですね。異国にきた気分になります」
実際の東洋というものがどういうものか知らない。でも、内装は想像を裏切らないものだった。
店員に連れられ、左側二番目の個室に案内される。
個室は八畳ほどの広い造りになっていた。
「このタタミっていう床、とってもふかふかで気持ちいいわ!」
「細い竹なのにチクチクしません……凄いです!」
これは、俺も驚きだった。
始めて見るタタミという小麦色の床。表面は滑らかでふかふかしているが、しっかりと安定している。
石造りの硬い床や、木製の床のどちらでもない。やっぱり、高級店は一味違うな!
タタミの上には座布団という椅子替わりのアイテムが置いてある。なるほど、座り方まで違うのか。確かにこれだけふかふかしていれば負担なく座れそうだ。
背の低い長テーブルを五人で囲む。
――また、ここでもトラブルが起きた。
俺の隣をミリアとシロナとルビスが取り合い始めたのだ。
「当然私がシオンの隣でいいわよね?」
「はぁ――? シロナは昨日もシオンと隣だったよね!」
「当たり前ですが、私はシオン様をお守りしなければいけませんので」
仲間割れはやめてくれよ……。
俺は一人しかいないんだ。右と左で最大二人。これが限界だ。……それにしてもなんで、隣を取り合うんだろう?
「まあ、昨日じゃんけんで負けたミリアは決定として、残り一枠をシロナとルビスでじゃんけんしてくれ。それでいいな?」
「仕方ないわね……シオンがそう言うなら」
「わかりました。じゃんけんで勝てということですね」
こうして、二人の熱いバトルが始まり――。
「はぁ……嫌になるわね」
ルビスが勝ち、シロナが負けた。
ルビスって勝負運なかなか強いな。
俺の左隣にルビスが座り、右隣にミリア。その隣にシロナという配置になった。
…………。
「あのなぁ、一人くらいジークの方に行ったらどうだ? バランス悪いだろ?」
「……それは私に言っているのかしら?」
シロナが不機嫌そうに呟く。
意図していなかったのだが、確かにミリアとルビスが両隣なのだから、遠回しにシロナに向こうに行けと言っているのと同義である。
「広いテーブルですし、今日くらいはいいんじゃないですか? 彼女たちはシオン君のことが好きなんですよ」
……え?
何を言っているんだジークは。三人が俺のことを好き? そんなわけないだろう。まだ知り合ってそんなに日が経ってないんだ。
多分、ミリアとシロナは意地になって取り合っているだけだし、ルビスは俺の守護者としての義務を全うすることが目的。
「いやいや、そんなことないよな? ――ん?」
確認の意を込めて三人の顔を見たのだが、なぜか三人とも顔を赤くして、俯いていた。まるで、恋する乙女のような。
そこで、俺は気づいてしまった――。
なるほど、こいつら、ジークのことが好きなのか!
よく見れば……というか、よく見なくてもジークはイケメンだし、爽やかだし、女性受けは最高に良いはずだ。
それに、女性は好きな男性を目の前にすると緊張して積極的に動けないと聞く。
つまり、ジークの隣に座るのが恥ずかしいから、あえて避けていたのだ!
なるほど、そういうことなら俺の隣を奪い合うのも理解できる。
……しかし、せっかくジークの隣に座るよう勧めたのにシロナが不機嫌になったのは気になるところだ。
……ううむ、わからない。
でも、これが仲良くなる機会になればいいと思う。
ユニオール祭の報酬として手に入れた『マーガソレス島狩場一日占有権』は、パーティメンバー全員の物。つまり、ジークの物でもある。
だから、もう少しだけパーティを組むことになるのだ。
まだ、三人にもチャンスはある。
全員が結ばれるわけじゃない。でも、できるだけ応援することにしよう。
「なるほど……三人の気持ちはよく分かったよ」
ミリア、シロナ、ルビスが、乙女の瞳を俺に向ける。
何かを期待するような眼差し。
大丈夫、俺は裏切らないよと眼でメッセージを送る。
「俺がジークの隣に座ろう。その方が良いだろ?」
一同、沈黙――。
三人がジークを好きなのだとすれば、ここはあえて俺が移動するのが最善だ。俺は空気が読める男だからな。
仕方なくジークと対面するという風にセッティングすることによって、自然にアプローチできるはずだ。
……我ながら、いい仕事をしたものだ。
だが、なぜか三人は呆れた眼で俺を見ている。
えっと……あれ? 何か間違えたのか?
ふと、ジークを見る。苦笑いしていた。





