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第25話:新米冒険者、戦う

「実力順という話だったはずだが?」


「これが実力順ですよ。アインさんには信じられないかもしれませんが、シオン君の方が強いです」


 怪訝な顔をするアイン。ジーク本人から説明を受けても信じられないのだろう。無理もない。ジークの冒険者ランクがBで、俺はDランクなのだから。


「……まあいい。シオンと言ったか? 俺と戦おうって度胸は認めてやる。その肝っ玉に命じて瞬殺してやろう」


 どこか落胆したような口調。敵としてみなされていないのが伝わってくる。


「お気遣い感謝するよ。でも、負けるつもりはない」


 ジークは、勝つために俺をアインにぶつけた。俺だって、負ける前提で戦うつもりはない。少なくとも、瞬殺されるような惨めな試合にするつもりはない。


「シオン君、あとは任せました。僕の方でもルールの範囲でお手伝いします」


 ジークが俺の耳元で、口の動きを隠して囁いた。ルールの範囲で手伝う……?

一見意味のわからない言葉だったが、何かしらの作戦があるということだろう。俺は無言で頷いた。


 その後、三分ほどで各パーティメンバーがバトルゾーンの中で散り散りになった。一対一の決闘。アインの持つ超火力の落雷を受けるのが俺だけになったのは、格下に見られていたわけではあるが、チャンスでもある。


 そして試合開始――。

 鞘からミスリル・ソードを引き抜き、上段に構える。

 他の四組も戦闘が始まり、眩い魔法の閃光と、轟音が響く。


 アインが右手を上げると同時に、魔力の流れが視えた。

 ――いまだ!


 右後方からの落雷を察知した俺は、瞬時に前方に駆け出し、落雷の範囲外まで滑り込む。一瞬驚いたような表情を見せるアイン。

 予想通り後方で閃光があり、その直後に地面を焼く轟音。


 勢いを止めず、距離を詰める。


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 アインの手が天から俺の正面に向いた。


「ふんっ!」


 手の平付近から魔力の流れを読み取った俺は、身を屈めて、身体を捻った。左前方に転がるやいなや、アインから衝撃波が発射され、俺の頬を翳めた。


 ――間一髪ではあるが、避けられた。

 衝撃波は無色透明で、眼には見えない。あれほどの衝撃波が着弾していたら、その時点で俺の全精神力は刈り取られ、ゲームオーバーだったかもしれない。


 攻撃面ではぐんと強くなった俺だが、防御面に関してはペラペラの紙も同然なのだ。ひやりと嫌な汗が背中を流れる。


 だが、二度の攻撃を避けたおかげで、間合いは十分。一メートルほどの距離。一歩踏み出せば、剣を当てられる。


「……なるほど、ジークの話はハッタリではなかったということか――だが、これで終わりだ!」


 何か――大きな魔力の兆候。

 上空に魔力には魔力が流れていないということは、落雷ではない。

 アインの手の平に黄金色に輝く球体が発生し、肥大していく。球体からはバチバチという音。雷を球体にしているというのか!?


 あれはヤバい――!

 急ブレーキを掛け始めるが、間に合わない。

 アインが振りかぶり、球体が飛んで来ようとしていた。


「きゃあああああああああ!」


 俺の目の前に、女が降ってきた。

 こいつは――確かジークの試合相手だったはず。吹っ飛んできたのか。――って、このままじゃ同士討ちになるぞ!?


「――くっ!」


 アインは投げかけていた雷球を捻りつぶし、強引に消滅させた。腕の中で雷球が弾け、バチバチと腕を焦がしてしまう。


 ふと、ジークを見ると、俺の眼を見ていた。

 ――あいつ、狙ってやったのか……。

 一対一の戦いで、他の組を巻き込むわけにはいかない。しかも、アイン側のパーティメンバーなのだ。無理してでも魔法発動を中止させるとまで考えていたのか。


 仮に失敗しても、俺は攻撃を避けられる――。

 少し卑怯な気もするが、ジークに助けられた形だ。


「……サンキューな」


 倒れた女が起き上がり、試合が再開する。

 それまでの時間はおよそ十秒。だが、俺にとっては対策を練るに十分な時間だった。


 手の平から発射される雷球。発動速度は恐ろしいくらいに速く、威力も凄まじいが、突破口はある。うまくタイミングを合わせられれば――俺の身体が追い付きさえすれば、いける。


 自身の魔法を受けたアインの様子から見て、準決勝で戦ったジェイド並みの防御力を持ち合わせていない。俺と同じ攻撃特化。……なら、剣が一撃でも当たれば、十分倒せる。


 前屈みの姿勢で、いつでも振り下ろせるように剣を立てた。

 どちらかが動けば、決着する。緊迫した空気が流れる。


 先に動いたのはアインだった。

 さっきと同じ雷球。眼にも止まらぬ速さで発射される。


 ――いましかない!


「うおおおおおおおおお!!!!」


 雷球に向かって、足を走らせた。


「……なっ!?」


 予想外だったのか、アインに焦りの色が見えた。


 ユニオール祭が始まってから、あえて使っていなかった技がある。魔力経路の切断――バトルゾーン下でもおそらく影響がある、魔力自体の切断。


 一見球に見える魔力弾の中にも、魔力の流れというものはある。そこを斬ることができれば、無効化できるという算段だ。

 もちろん、初めてやるのだから、成功する保証はない。だが、これをやるしかない!


 全力で地を蹴りながら、左眼で雷球の魔力経路を正確に認識し、剣で叩き切る――。

 力の限り剣を振り下ろすと、雷球が縦に真っ二つに割れ、左右に弾けた。その間をくぐるように突破し、アインと肉薄する。


「――――そんな…………馬鹿な!?」


 ザンッ!


 一切の躊躇をすることなく腰から首までを剣で縦に斬り付けた。

 肉を斬る感覚が伝わってくる。確かな手応えがあった。

 バトルゾーン内では、精神力を削るのみなので、外傷はつかないし、血が出ることもない。


 静かな時が流れ、アインは脱力し、冷たい石畳の上に倒れた。

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