第45話 闘技大会:Ⅲ(一日目)
彼ら4人の闘技大会が幕を開ける――――
場内へと入場した彼らの耳に入ってきたのは、大音量の歓声だ。
客席に居た時にはそうでもなかったものの、今は自分たちに向けられているために圧を感じるものであった。
対面から入場してきた相手チームを見やりながら、中央へと歩いていく。その際に各々の紹介が実況されていた。
『――3番ゲートから入場しましたのは、Dランクパーティの"マスターピース(仮)"。結成からの期間は長くはありませんが、高い依頼達成率を誇る、伸びしろに期待を持てるチームです』
〔仮、がついているんですね。〕
『ええ、まあ珍しいことでもありません。パーティ名が決まらないってことはしばしばあるものですからね。昔、"未定"なんていう名前のパーティがあったこともあります』
〔それはパーティ名を見たら思わず笑ってしまいそうですね。――はい、続きまして4番ゲートからの入場は、Cランクパーティの"アメレイア"です。男性5人のパーティであり、全体な役割のバランスも良いチームですね。〕
『人数が4人と5人、そしてランクもDとC。これはアメレイアが、試合前からやや形勢有利の様相を呈しているようにも思えます』
〔いやいや、分かりませんよ。マスターピース(仮)は積極的に上のランクの依頼を受けているという情報もこちらにありますからね。どちらにも勝つ可能性がある闘いになってきそうです。〕
前情報に基づいた実況がされる中、両パーティが相まみえる。
相手パーティは剣士、槍使い、斧使い、弓士、魔術師という構成。近接系の役職の人員はいずれもガタイが良い。
両チームの代表者は握手を、というアナウンスが流れ、アメレイアの一人が前へと進み出るのを見て、リューはエルに声をかける。
「僕だとちょっと見栄えがしないから…お願い」
向こうの代表者は身長180センチオーバー。対して、リューの身長は160センチあるかどうかといったところ。その二人が並ぶと、どうにもこちらが頼りなさげに見えてしまう。
目を逸らしながら頼んだリューの様子から全てを察したエルは、分かったと一言発してから歩み出た。
両者が一メートル程度の至近距離で向かい合う。
「準備運動ぐらいにはなってくれるよな?」
握手をしながらそう声をかけたのは相手パーティの代表者。名をクリムゾン・オームと言う。また、それ以外のメンバーに関してもいまいち、緊張感の無さが窺える。
こちらを侮る態度で投げかけられた発言に対して、エルは何も言わずにただじっと目を見つめていた。握手を終え、3人の元へと戻ってきたエルは開口一番、こう口にする。
「…度肝、抜くぞ」
楽勝だと言わんばかりの相手の態度にやはり思うところがあったのか、3人は引き締まった表情で頷いた。
所定の位置まで両チームが離れたところで、いよいよ試合開始へのカウントを取る宣言をする実況者。
10、からのカウントで会場のボルテージが上がっていく。
数字が少なくなっていくにつれて、4人は集中を高め。
目深に被ったフードの位置をティファが整えた次の瞬間、カウントが0になった。
闘いが、始まる。
まず初めに飛び出していったのはリーナ。そしてその後ろにやや遅れてエル、リューが走り込んでいく。
相手も開始の合図とともに走り出しており、先頭とリーナとの距離は数メートルに迫っていた。
そして、その直後。
ティファとリューの用意が整った。
《轟雷―――》
「閃爆……!」
最初に浮かんだのは、ティファが魔術により繰り出した光球。明るさはそれほどでもないそれはリーナの頭上辺りに浮かび、一瞬明滅したかと思うと―――
―――膨大な光量を発生させた。
そして間髪入れずに響き渡る、爆音。
その二つが発せられた瞬間、観客席では悲鳴すら上がった。
彼らが行使した魔術は―――
莫大な明るさの光魔術。音量を限界まで増大させた音魔術。
そう。その二つを以てして非殺傷兵器〈スタングレネード〉を再現したのである。
提案者は当然と言っても良いだろう、リューだった。
彼らはこのために全員で外套のフードを被り、そして耳を護る為に耳当ても用意した。獣人用の耳当てを確保することには手間をかけたようだが。
しかしその効果については抜群の物であった。
相手チームの全員が足を止めることとなり、5人中4人が視覚と聴覚の両方を一時喪失。残る1人に関しても、爆音はまともに聴いていたようで聴覚は麻痺、視覚に関しても咄嗟には防ぎきれずに目を細め、必死に視野を確保しようとしている。
〔おっと開幕早々これはー!うるさい!まぶしい!爆音と閃光の共演!幾分かは弱まっていますが、こちら側にも十分にその威力は伝わってきました!観客の皆さん、目や耳にダメージがあるという方は申し出てくださいね。まったく、周りへの迷惑を考えない魔術を行使するなんて最高ですもっとやれ!!〕
『オルタスさん、性格の悪さが漏れ出てます。それにしても、非殺傷性の魔術を使って一瞬で大半を行動不能に陥れるとは中々の策略ですね』
戦闘が行われる舞台と観客席との間には、魔術的に作られた"魔力防護壁"と呼ばれるものが存在している。これは観客席への安全対策としての機構であり、防護壁近辺では魔術と物理的衝撃を大幅に減衰させる力場が発生している。また防護壁事態の耐久力も高く、魔術攻撃にせよ物理攻撃にせよ、威力が減衰させられ受け止められる仕組みである。
今回に関しては、光魔術と音魔術、つまり光と音。波としての性質を持ち、大気中で伝わりやすいそれは魔術的な干渉では比較的抑制され辛く、それ故に観客席にもある程度効果が残って届いたのであった。
そんなものを間近で対策も無く受けてしまった者を相手にすることは、児戯にも等しく容易いことであった。
4人の攻撃で相手チームのメンバーは、すぐに鉢巻の効力を発揮しながらその身を地に伏していく。間もなく残り一人、光をある程度防いだ槍使いだけが立っているだけとなった。
しかし他の人員が戦闘不能であるにも関わらず、彼は闘志をその身に宿したままだ。
どうやら降参するつもりはない模様。
ならば闘い抜くまで、と闘志を再びその身に纏った4人。
しかし4対1という構図に思うところがあったのか、リューは自分だけで相手をしてもいいかと提案する。
その問いかけに対する返答は是であった。
先に仕掛けたのはリュー。
素早い動きで槍使いとの距離を詰める。
慌てて繰り出された突きは、軽く添えた左手の剣で軌道を逸らされることとなる。間合いの内側へと入られることとなった槍使いは、剣での薙ぎ払いになんとか反応すべく左手を槍から離し、腰の短剣を引き抜いた。
間一髪。胴への剣戟を逸らした槍使いは、手首の動きだけで槍を回転させて柄の部分で反撃に出る。
しかし小手先だけでの攻撃が当たるはずもない。無事に回避し、続いて投擲された短剣をリューは冷静に弾きながら一旦後退した。
数歩下がったことにより、自分に分がある間合いに再び戻ったと感じた槍使いは、再び鋭い突きを見舞う。リューは再度それを防ぎ、連続して繰り出される突きにも対応しきる。
そしてそれから続いた数十合の打ち合いに焦れた槍使いは、自分でも自覚が薄いままにやや大ぶりな突きを繰り出した。
しかし、それを待っていたかのようにリューは双剣を槍に添え。
瞬く間に、槍が宙を舞った。
あっ、と呟きを洩らすほどに、槍使いが呆然となる。
自分の手を離れて飛んでいく、自分の武器。
何故、などという疑問符が脳内に浮かぶ頃。
己の首元には白銀の輝きが二筋、添えられていた。
槍使いが目を閉じる。その唇から紡がれた言葉は、降参以外の何でもなかった。
―――万雷の歓声とともに、彼らの第一回戦は終了した。
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「はーい一回戦突破おめでとー。かんぱーい!」
『カンパーイ』
コツンコツン、と控えめな音を立てて4つの木製コップが打ち鳴らされる。
夕刻。
闘技大会一回戦を勝利で終えた4人は、宿泊している宿の食事スペースで簡単な慰労会を開いた。
「ここで持ってるのがお酒だったら、荒くれ者っぽくてよかったんだけどねー」
パーティ内には未成年しか居ないために、全員の飲み物はアルコールの類ではない。間違えて酒精が入っていたりということもない。皆等しく果汁飲料である。
「あと、1年の辛抱。…私は半年足らずだけど。先に荒くれて待っている……!!」
「ティファ、お前酒飲んでないよな?」
まだ一回戦を突破しただけということで、祝賀は盛大にやるわけではない。が、勝利を味わい、気分は高揚しているのだ。
普段の冒険者としての活動とはまた違った昂り。自分たちよりもランクで格上のパーティを実践で倒したことからも、成功体験としては印象あるものとなったことだろう。
彼らは漏れ出る喜びを噛みしめ、和やかな時間を過ごしていった。




