第11話 禁じられた地に封じられる彼 1
五年前、あの日。
たまたまそういう周期だったのか、脆くなっていた土の天井に小さな穴が開いた。
触れれば土はぼろぼろと崩れた。
そしてその時彼は、穴の隙間から六人の人間を目にした。男三人、女三人といった、非常にキリが良くて好ましい集団だった。
彼は特に、その中の一人の男に目をつける。
黒い髪と瞳を持った、細長い男。彼からは独特の匂いがした。彼の中の――人間の記憶に今言わせれば、化粧の匂いというそうだ。
彼自信の感覚からいえば、珍しい玩具の匂いだった。
コりゃ遊ブシかなイね。
人間の魂を食おうなどと、この時は考えもしなかった。そもそも彼は人間を食う種ではなく、闇を食べる存在だった。
彼は穴から身を踊らす。
あちらの世界の眩しい光が、彼の目を覆った。
突然地面の下から現れた彼に、六人の人間は口々に勝手な大声を上げる。
それはそうだろう、人間たちの世界にはいるはずもないような姿の彼だったから。
逃げるという行動を初めにとったのは、どの人間だっただろう。
覚えてはいないが、それは彼が目をつけた人間ではなかった。
逃げ出したその一人が、倒れ、そして動かなくなる。
彼の目には、彼が遊びで開けた無数の穴の一つにその人間の魂が落ちたのだということは明確だったが、人間にはそれが分からないようだった。
駆け寄った人間たちが、次々と同じように穴に落ちる。
彼は大笑いした。
人間ッてセかイの形モ知ラナいのカ?
世界が二重であることは、彼にとって当然の知識だった。
万物の体と魂の二重。
そして自然物も同様に二重なのだ。土には土の体と魂がある。彼は土の魂に穴を開けてここまで来た。
穴に落ちた人間は体だけが地面の上に残され、魂を失って弱ってく。
落ちた魂は事態が理解できず、穴の底で体の形をしたままの姿で慌てふためいていた。
しばらくすると体にたどりつこうと動いていたが、体を覚えている魂は重力に縛られる。
体という感覚さえなければ、忘れてしまえば、自由に上へと登れたものを。
ついには何人かの体が心臓の動きを止めた。
彼はまた笑い出す。玩具が勝手に動き回って勝手に壊れていく様が、楽しくてたまらない。
彼は楽しみの先に、さらなる欲望が生まれたのを感じた。
穴という深皿に盛られた魂の盛り合わせ。
目の前に出されたのなら、ごちそうになるのが礼儀というものだろう。
一人だけ、彼を見つめたままだったあの男が、行動を起こす。
確か彼が「食べてみようか」と言ったのが合図だった。
何か細い物を手に、血相を変えて向かってきたのだった。




