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終幕の役者と、白い箱の脈動

第四艦の内通者は拘束された。

意識を塗り替えられていた乗員たちも、双子の紙片とタキオンの補助機械で順に切り離されていった。


それでも、誰も気を抜かなかった。


女が最後に残した言葉が、嫌に深く刺さっていたからだ。


終幕に必要な役者が欠けているなら、こちらで用意する。


朝日が艦橋の窓を染める中、ルビーたちは第四艦の会議室へ集まっていた。

拘束された女は別室へ。

ここには味方だけがいる。


「つまり敵は、もう“誰かを殺す”より“誰かの役を上書きする”方へ舵を切っているわけですな」


ラビ艦長が言う。


「ええ」


イツモアが頷く。


「今後狙われるのは、おそらく公爵、旗艦司令、歌手ルビー、ダンサー・ルビー、そして――」


「終幕を引き受ける者」


ルビーが続ける。


部屋が少しだけ静まる。


ピンキーは白い箱を膝に置いていた。

昨夜から、もう手放していない。


双子もその両側に座っている。

もう“幼い子”の顔だけではなかった。

年相応の柔らかさはあるが、今ははっきりと何かを選んでいる目だ。


「タマ、ミケ」


ルビーが呼ぶ。


「その箱、あなたたちはどこまで知っていますの」


双子は顔を見合わせる。

それからタマが先に言った。


「ぜんぶじゃないよ」


ミケも頷く。


「でも、だれにわたすかは、しってる」


「ピンキーだよ」


「さいごに」


ピンキーは困ったように笑うのをやめた。

代わりに、箱へそっと両手を添える。


「……私、やっぱり使うんですね」


その声は静かだった。

いつもの明るさを消したわけではない。

ただ、ちゃんと理解しようとする時の声だ。


ルビーはその横顔を見ていた。


この女は賢い。

ずっと前からそうだった。

明るいふりで、何も考えていないわけではない。

必要な時には、ちゃんと自分で立つ。


「怖いですか」


ルビーが訊く。


ピンキーは少しだけ考えてから答えた。


「少しだけ」


「正直ですわね」


「でも」


彼女はルビーを見る。


「ダーリンの隣で使うものなら、逃げません」


その答えに、サトリが息を止めた。

ディーアナも、イツモアも何も言わない。

軽口を挟む空気ではなかった。


タキオンが低く言う。


「箱はまだ開かない。

だが、もう使用者とは同期し始めている」


「どういう意味ですの」


ルビーが問う。


「箱が、ピンキーの判断速度と感覚を測っている。

あれは力任せの武器ではない。

最後の一撃を、“誰を救うために撃つか”理解している者にしか使えない」


その言葉に、双子は静かに頷いた。


「うん」


「だからピンキー」


ルビーは目を伏せた。


ならばなおさら、あれは自分には開けられない。

自分は爆散する側だ。

最後の一撃を受ける側であり、隣で使う側ではない。


ディーアナが机上の地図へ視線を落とす。


「艦隊側の汚染は切り離せます。

ですが、敵はもう一段上へ移るでしょう」


「空そのもの、ですな」


ラビ艦長が言う。


「ええ。

空中艦隊を使うか、あるいは逆に艦隊ごと巻き込んで“大きな終幕”を作るか」


イツモアが目を細める。


「後者でしょうね。

役を奪う悪は、舞台が大きいほど喜ぶ」


その時、白い箱が、どくん、と一度だけ鳴った。


全員が見る。


箱は開いていない。

だが、表面の爆発みたいな模様の一部が、ほんの少しだけ金に変わっていた。


タマが言う。


「ちかづいてる」


ミケも続ける。


「でも、まだ」


ピンキーは箱を抱きしめる。

その仕草は優しいのに、腕の置き方だけはしっかりしていた。

もう“守られるだけのかわいい子”ではない。

守られながら、自分も最後に立つ側へ移っている。


ルビーは立ち上がる。


「では、次ですわ」


「どこへ」


サトリが訊く。


ルビーは窓の外を見た。


朝日の向こう、旗艦列のさらに先。

空がひどく広い。


「敵が“終幕の役”を欲しがるなら、こちらから見せに行きます」


ディーアナが頷いた。


「旗艦会議です。

全司令を集めなさい。

ここから先は、舞踏会の延長ではなく、開戦前の最終整理になります」


ピンキーも立つ。

白い箱を持ったまま。


双子がその両脇に並ぶ。

メイドたちはもはや当然のようについてくる。


サトリが小さく呻いた。


「人数が増える一方なんですけど……」


イツモアがすました顔で答える。


「本物が増えるのは結構なことです」


その返答に、ルビーはわずかに口元を上げた。


空席を埋めるための偽物ではなく、

自分の意思で並ぶ本物たち。


最後に必要なのは、たぶんそちらだ。


朝の光の中、一行は第四艦を出る。

黒いブローチと、白い箱。

終わる側と、最後に撃つ側。

その二つを抱えたまま、ドルドアは次の段階へ進んでいく。


空はもう、戦争の前の色をしていた。



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