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終幕前夜と、まだ渡されない必殺技

舞踏会の危機は、表向きには収まった。


客人たちは「さすがドルドア」と囁き、

各国の外務大臣たちは何事もなかった顔で杯を傾け直し、

一階ではダンサーのルビーが最後の一回転を決め、

二階では歌手のルビーが、誰の喉にも棘を残さぬまま曲を締めた。


それでも、内側にいた者たちは知っていた。


これは収束ではない。

前哨戦の終了だ。


会場が次の演目の準備へ入る中、ルビーたちは舞台裏の小広間へ移った。

そこには、歌手のルビーとダンサーのルビー本人もいた。


近くで見ると、二人は全然似ていない。

歌手のルビーは、笑うと人を許しそうな目をしている。

ダンサーのルビーは、立っているだけで背筋が伸びるような人だった。


ディーアナは、珍しく少し緊張した顔で二人の前に立っていた。


「……お久しぶりです」


少女の頃に戻ったみたいな声だった。


ダンサーのルビーが笑う。


「そんな顔をするの、まだ変わらないのね。

昔、あなた、練習場の端で私の真似ばかりしていたでしょう」


ディーアナがほんの少しだけ視線を逸らす。


「覚えておいででしたか」


「ええ。

足は固かったけれど、目だけは一番真剣だったもの」


歌手のルビーも、ルビー――おじさんの入ったその身体――を見つめて微笑んだ。


「その子に私たちの名を入れたのよね」


「ええ」


「嬉しかったわ」


その言葉に、ルビーは妙な感覚を覚えた。

自分の名なのに、自分の前から来ている。

借りた身体。与えられた名。けれど願いもまた本物。


タキオンが空気を切るように言う。


「感動の再会に水を差すが、時間がない。

敵は“主役”より“終幕”を狙っている」


「空中艦隊、ですわね」


イツモアが答える。


「ええ。識別符丁の汚染、鏡面回廊、衣装部屋、すべて“上”へ伸びていた」


ダンサーのルビーが静かに言った。


「つまり、この舞踏会は外交の場であると同時に、開戦前最後の儀式でもあるのね」


「ええ」


ディーアナも頷く。


「そして敵は、その終幕に“偽物の役”を差し込みたい」


双子は部屋の隅で、白い箱を抱えていた。

メイドたちはその周囲をまだ本気で守っている。


「タマちゃん、重くない?」


「だいじょうぶ!」


「ミケちゃん、お水飲む?」


「あとで!」


「健気……!」


完全に子猫保護隊が継続していた。


その中で、ピンキーが双子の前にしゃがむ。


「その箱、そんなに大事なんですか?」


タマとミケは顔を見合わせ、それからこくりと頷いた。


「うん」


「すごくだいじ」


「だれにあげるの?」


その問いに、双子は迷わなかった。


「ピンキーに」


「さいごに」


部屋の空気が、ほんの少しだけ止まる。


ピンキーは意味が分からない顔のまま、でも笑った。


「私ですか? わあ、うれしいです!」


ルビーだけが、その言葉を笑えなかった。


最後に。

その言葉は軽くない。


タキオンも白い箱を見たが、今度は止めなかった。

代わりに低く言う。


「まだ開けるな。

だが、保持者は決まったらしい」


「保持者?」


ピンキーが首をかしげる。


「はい!」


サトリが割って入った。


「ここはたぶん、深く聞かない方がいい場面です!」


「胃が正しい判断をしていますわね」


ルビーが静かに言う。


歌手のルビーが、双子を見つめてふっと微笑んだ。


「小さい子ほど、時々いちばん先のことを知っているのよね」


その声には、妙な余韻があった。

まるでこの人自身も、魂がどこかへ流れていく未来を、遠くで知っているみたいな。


だが誰も、そこは追及しなかった。


ディーアナが顔を上げる。


「夜明け前に、艦隊接続桟橋の再点検を行う。

舞踏会は最後まで続ける。

踊りも歌も止めない。

それがドルドアだから」


ダンサーのルビーが頷き、歌手のルビーも杯を置いた。


「いいわ。

終幕まで、本物で押し切りましょう」


その言葉に、ルビーの黒いブローチが熱を返す。


終幕。

その役を、いずれ自分は引き受ける。

そしてその時、ピンキーが隣に立つことになるのだろう。


双子は白い箱を抱いたまま、にこにこしていた。

無邪気で、明るくて、守られていて、でも誰よりも先の役目を知っている顔で。


その夜、舞踏会の音楽は最後まで途切れなかった。


けれど空の向こうでは、ドルドア空中艦隊の灯が一隻、また一隻と増えていく。

歌と踊りの終幕の、そのさらに先に――


本当の最終幕が待っていると、誰の目にも分かるほどに。

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