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鏡面回廊と、映りすぎた使用人たち

温室を出た瞬間、夜のドルドア邸は、もう“屋敷”というより巨大な舞台装置に近かった。


回廊の燭台はすべて灯っている。

床は磨かれ、天井画はいつも通り豪奢で、遠くからは舞踏会の音楽すら聞こえてくる。

だが、そのどれもが妙に整いすぎていた。


整っているのに、安心できない。


「……嫌な感じですね」


サトリが小声で呟く。


「ええ」


ルビーは短く答えた。

赤いドレスの裾を乱さぬまま、足だけが早い。

胸元の黒いブローチは、屋敷へ戻ってからずっと低く熱を持っている。


ピンキーは紙袋を抱えたまま、きょろきょろと辺りを見回していた。


「ダーリン、みんなちゃんと笑ってるのに、なんだか“笑い方の角度”が一緒です」


「その観察はだいぶ嫌ですわね」


「私、笑い方の角度には自信あります!」


「そういう自信は控えめにしなさい」


その横で、タキオンは無言のまま壁際の燭台を一瞥し、床の目地を見て、さらに天井近くの通気孔まで観察していた。

完全に科学者の目だ。


「どうです」


ルビーが問う。


「屋敷そのものは壊されていない」


タキオンが即答する。


「壊されていない?」


「物理的にも、主要魔術式的にもだ。

だが“運用”が汚染されている。

照明角度、導線、視線誘導、使用人の配置、全部が少しずつ不自然だ。

誰かがこの屋敷を、屋敷のまま罠に変えている」


サトリはぞっとした。


それは爆弾より怖い。

外から壊されたのではなく、内側の仕組みそのものが敵に使われている、ということだからだ。


ツキノワが低く唸る。


「つまり、入ってきた敵を探すんじゃなくて、家の方が勝手に敵の手伝いをしてるってことか」


「そういうことだ」


タキオンが頷く。


「実に趣味が悪い」


「お前に言われると大体の奴は立ち直れないぞ」


■ 透明な局長は、今夜も忙しく、今夜も余計なことを言う

鏡面回廊の手前で、半透明の影がぬるりと柱から剥がれた。


「遅い!」


イツモア・カゲヤネンデスである。


黒い礼装。

乱れていない髪。

だが目の下にだけ、明らかな寝不足の影があった。

相変わらず、気持ち悪いほど整っているのに疲れている。


「こちらも最短距離でした」


ルビーが冷ややかに返す。


「温室経由で最短を名乗るのは、いささか詩的すぎませんか。

ですがまあ、帰還されたあなたのお顔をこうして拝見できたので許しましょう。

実に麗しい。屋敷の危機がなければ、あと五分は――」


「要点だけ言いなさい」


「はい」


切り捨てられても、イツモアは眉ひとつ動かさない。

むしろ元気になっている気すらする。


彼は細い指で回廊の奥を示した。


「異常が出たのは、舞踏会場と控えの間をつなぐ鏡面回廊です。

本来、使用人は十二名。楽師補助が四名。警備が六名。

合計二十二名が、この区画を出入りしている」


「それで?」


「鏡には、二十九名映っております」


一拍、全員が黙った。


ピンキーがそっと手を挙げる。


「七人お得ですね!」


「全くお得ではありません」


ルビーとサトリの声がきれいに揃った。


イツモアは続ける。


「しかも厄介なのは、七人とも“それらしく見える”ことです。

盆を持っている者、花を運ぶ者、楽譜を抱えた者、警備の補助のふりをする者。

誰ひとりとして、露骨に怪しくない」


「顔は」


ツキノワが訊く。


「曖昧です。

見た者の記憶に合わせて、少しずつ印象がずれる。

『見たことがある気がする』のに、あとで説明できない」


サトリはぞくりとした。

それは怪物の出方ではない。

もっと人間社会向けだ。


「役職に擬態してるんですね……」


「正解です、サトリ君。心が読めるだけでなく、たまに聡い」


「たまにって言わないでください」


イツモアが薄く笑う。


「人の顔に化けているのではありません。

“この屋敷にいるべき役割”に化けているのです」


その瞬間、ルビーのブローチが、こつ、と硬い音を立てた。


帳簿。

導線。

名札。

人員表。

この屋敷は人間の顔だけで動いているわけではない。

役目、配置、印章、呼称、当番、持ち場――そういう“仕組み”で動いている。


つまり、今夜の敵はそこに潜っている。


■ 鏡は顔ではなく、役を映す

鏡面回廊は、ドルドア邸の中でも最も美しく、最も面倒な場所だった。


左右の壁一面に、天井まで届く鏡。

金の縁。

燭台の光が幾重にも反射し、歩くだけで人が増えたように見える造り。

舞踏会前後、貴族たちが最後に装いを整えるための、半ば儀式用の回廊でもある。


今夜も、ぱっと見は完璧だった。


使用人たちは静かに歩き、楽師補助が譜面を運び、警備が壁際に控える。

どこにも大きな混乱はない。

舞踏会の音楽も途切れていない。


なのに、鏡を見ると――確かに多い。


ひとり。

またひとり。

列の端に、ぬるりと余計な誰かが混じる。


目を離すと減る。

見直すとまた増える。


「気持ち悪い……」


サトリが顔をしかめた。


「心を読めますか」


ルビーが問う。


サトリは鏡へ意識を向ける。

近くを通る使用人。

楽譜を抱えた少年。

花を運ぶ女官。

警備兵。


ひとつ、またひとつと心音を拾っていく。


『転ばないように』

『ワインは白を先に』

『ディーアナ様の視線が来たら一礼』

『今夜は七小節目でテンポが上がる』


そこまでは普通だ。


だが、鏡の中、実際には立っていないはずの“七人目”に意識を向けた瞬間――


サトリは息を呑んだ。


「……ない」


「何がです」


「心が、ないです」


イツモアの目が細くなる。


「空ですか」


「空っぽというより……役目だけあります。

“花を運ぶ”“扉を開ける”“盆を持つ”“道を譲る”

そういう命令だけが薄くある。

でも、その内側に人がいない」


「使い魔か、模造意識か」


タキオンが即座に反応した。


「どちらでもない。もっと古い仕組みだな」


彼は鏡の縁へ歩み寄り、指先で金細工をなぞった。

叩く。

耳を寄せる。

次に懐から細い金属棒を二本取り出し、鏡面の前で交差させた。


ぴん、と高い音。


「分かった」


「早いですね」


ルビーが言う。


「鏡そのものが記録媒体になっている」


タキオンは当然のように答えた。


「この回廊は、長年の舞踏会の動線と役目を、反射と魔力で蓄積している。

つまり“ここをどう人が歩くべきか”を、鏡が覚えている」


ツキノワが顔をしかめる。


「それが何で、余計な使用人になる」


「誰かがそこへ“役職の空席”を流し込んだんだ」


タキオンの目が鋭くなる。


「焼かれた帳簿、消えた名簿、改ざんされた識別符丁。

全部つながる。

こいつは顔を偽装しているんじゃない。

屋敷の記録から“いるべき人物像”だけを借りて、鏡に歩かせている」


サトリは思わず身震いした。


人に化けるより、よほど怖い。

それはこの家の仕組みに寄生しているということだからだ。


■ 王国の赤いバラ、鏡の前で立つ

その時、回廊の向こうからざわめきが近づいてきた。


「ルビー・ムーン閣下だ……」


「王国の赤いバラが戻られたぞ」


「会談を五分で終わらせた方だ」


「でも女の子に優しいって……」


「神の杖を落としたのもこの方だろ」


「クマも従えているとか」


「どこの情報だ」


最後の一つだけルビー本人が言った。


ざわめきが一瞬で散る。


舞踏会に参加していた貴族や使用人たちは、ルビーが現れたことでかえって姿勢を正した。

怖がっているのか、見惚れているのか、半々くらいの空気である。


ルビーは赤いドレスの裾を払うと、そのまま鏡面回廊の中央へ進んだ。

止める者はいない。

止められる雰囲気でもない。


「イツモア」


「はい」


「ここを通る者、全員の導線を一時停止」


「舞踏会の格が落ちますが」


「落ちなさい。今は家の方が先です」


「あなたがそう仰るなら」


イツモアが指を軽く振る。

その瞬間、回廊の両端にいた使用人たちが、何も騒がずに動線を変えた。

警備も静かに寄る。

これだけの再配置を音もなくできるあたり、情報局長はやはり気味が悪いほど有能だった。


ルビーは鏡の真正面で立ち止まる。


そこには、ルビー自身の姿が幾重にも映っていた。

赤いバラ。外務大臣。おじさんの魂を入れた公爵令嬢の身体。

そしてその背後に、確かに七つ、多い影がある。


「見えてますわね」


「見えております」


イツモアが答える。


「気に入りません」


「全面的に同意いたします」


ルビーはブローチにそっと触れた。

黒い石が、鏡に反応するように低く熱を返す。


「――そこにいる“役目だけのもの”へ告げます」


よく通る声だった。

舞踏会用の声だ。

遠くまで届き、しかも乱れない。


「ここはドルドア家の回廊です。

歩く資格は、顔でも名札でもなく、責任を持つ者にしかありません。

役だけ借りて通るのは、不法侵入ですわ」


ピンキーが小声でサトリに囁く。


「ダーリン、鏡にも外交するんですね」


「たぶん今のは外交じゃなくて威嚇です」


その直後だった。


鏡の奥で、花を運んでいたはずの“誰か”が、ぴたりと止まった。


続いて、譜面を抱えていた“誰か”も。

盆を運んでいた“誰か”も。


七つの影が、一斉にこちらを向く。


顔が、ない。


いや、顔が曖昧なのだ。

見た者の記憶に合わせて、少しずつ違う輪郭を取ろうとして、結局どれにもなりきれていない。


サトリの背中に冷たい汗が走る。


「うわ、最悪です……!」


「やっと表を向いたか」


タキオンの声は妙に落ち着いていた。


「科学者さん、何かあります!?」


「ある」


彼は袖から金属片を三つ、四つ、五つと取り出した。

瞬く間に、小型の輪のような装置へ組み上がる。


「鏡は記録媒体だ。

ならば、記録の再生条件を乱せばいい」


「分かりやすく!」


「つまり壊さず止める」


「最初からそう言ってください!」


■ パンは時に、武器より早い

七つの影が、鏡の中から一歩、こちらへ寄った。


実体化しているのではない。

だが、境界が薄くなっている。

このまま抜けてくる。


警備が剣に手をかけた、その時。


「はい!」


元気な声と一緒に、何かがふわりと飛んだ。


楕円パンだった。


「えっ」


全員が一瞬、そちらを見る。


ピンキーが紙袋から取り出した焼きたてのパンを、鏡に向かって投げていたのである。


「温かいものは大事です!」


「何をしているのです!」


ルビーの声が裏返る。


だが次の瞬間、驚くべきことが起きた。


パンが鏡面に当たったところだけ、ぶわりと曇ったのだ。

油と湯気と熱で、鏡の反射が一瞬乱れる。


七つの影が揺らぐ。


タキオンの目が見開かれた。


「なるほど」


「なるほどなんですか!?」


サトリが叫ぶ。


「反射条件の乱れだ。

この鏡は視線と魔力だけでなく、表面の温度勾配にも依存している。

つまり、均質な反射を崩せば――」


「説明の途中でいいので早く!」


「分かった」


タキオンが床を蹴った。

科学者のくせに動きが速い。

鏡の前へ滑り込み、組み上げた輪状装置を二枚の鏡の間へ打ち込む。


きぃん、と澄んだ音。


回廊の灯りが、一瞬だけ逆流したみたいに揺れた。


七つの影が、ずるりと引き剥がされる。


その時、ツキノワが前へ出た。


「下がってろ!」


巨大な腕が鏡の前へ振るわれる。

殴っているのではない。

境界線へ圧をかけているのだ。

不死身の身体だからこそできる、無茶苦茶な押し込み方だった。


鏡がびりびりと震える。


影のうち二つが、ひしゃげるように潰れた。

だが残り五つは、なおも回廊へ出ようとする。


イツモアが細く息を吐く。


「やれやれ。

使用人の人数が増えすぎるのは人件費的にも困ります」


彼の姿が消えた。


次の瞬間、鏡の前で五本の細い光糸が走る。

透明化したまま投げられた拘束糸だ。


影たちの足元が縫い止められる。


「サトリ!」


ルビーが叫ぶ。


「どれが空で、どれがまだ実務命令を持ってるか、読めますか!」


「やってます!」


サトリは歯を食いしばる。


『扉を開ける』

『酒を運ぶ』

『花を置く』

『立っている』

『列を埋める』


「三番目と五番目が薄いです!

あと、中央のやつ、たぶん“人数を誤魔化す”こと自体が役目です!」


「それですわね」


ルビーの目が鋭くなる。


「数を増やして、数の中に本命を紛れ込ませる。

舞踏会、警備、使用人、全部“人数がいるのが自然”な場ですもの」


つまり、七つの偽物は刺客そのものではない。

**本命を通すための“混雑”**だ。


家の仕組みを使って、家に穴を空ける。

なんとも故郷らしい、陰湿なやり方だった。


■ ディーアナは踊りを止めない

その時、舞踏会場の方から拍手が起こった。


誰かが曲を締めたのだ。

ざわめきが一瞬だけ大きくなり、その上から、よく通る女の声が響いた。


「次の舞曲へ移りなさい」


ディーアナだ。


鏡面回廊にいる全員が、思わずそちらを向いた。


「舞踏会は続行します。

客人に不安を見せる必要はありません。

家の中の掃除は、家の者が静かにやればよい」


その声は冷静で、揺らがなかった。

母の声ではない。

公爵の声だ。


ルビーの口元がわずかに引き締まる。


「……ええ。お母様らしい」


「炎上中でも踊らせる方ですからね」


イツモアの声が、どこからともなく返る。


「褒めているのか貶しているのか分からない言い方をやめなさい!」


「両方です!」


その軽口の間にも、影はまだもがいている。


タキオンが短く言う。


「ルビー閣下、決めろ。

鏡を封鎖するか、逆探知に使うか」


「使います」


即答だった。


「これだけ手間をかけて人数を増やしたのですもの。

逆に辿れば、“誰を通したかったか”が見えます」


「同意だ」


タキオンの口元が少しだけ上がる。

気のせいでなければ、科学者なりの賛辞だ。


「では三十秒ください。

この鏡の記録層を剥がして、“余計な七人”がどこから差し込まれたか見ます」


「三十秒で?」


「千年あれば、だいたいの基礎は済む」


「そういう時だけ重みのあることを言いますね……」


サトリが半泣きで呟いた。


■ 七人目は、鏡の外にいる

タキオンが金属輪をもう一つ起動する。

鏡面の中に、反射とは別の線が浮かび上がった。


人の流れ。

役目の流れ。

当番表。

鍵の貸し出し。

舞踏会の進行。

すべてが細い糸になって鏡の奥へ流れ込み、ある一点で束ねられている。


「見えた」


「どこです」


ルビーが問う。


タキオンは鏡のもっとも奥、回廊の反射が幾重にも重なった先を指した。


「ここじゃない。

鏡面回廊は入口にすぎない。

七人の役目を差し込んだ本体は――」


彼が言い終えるより先に、イツモアが姿を現した。


「衣装部屋です」


珍しく、二人の声が揃う。


「衣装部屋?」


ピンキーがぱちぱちと瞬く。


イツモアが頷いた。


「舞踏会用の礼服、使用人の予備制服、仮面、名札、手袋、装飾。

“役になりきるためのもの”が最も集まる場所です」


ルビーの黒いブローチが、どくん、と脈打つ。


なるほど。

鏡だけではない。

服、役、名札、立ち位置。

この屋敷の“誰であるか”を作るものすべてが、今夜の敵の材料になっている。


「行きますわよ」


ルビーが言う。


だがその前に、鏡の中の五つの影が、最後の抵抗みたいに一斉に口を開いた。


声は揃っていた。

男でも女でもない、乾いた声。


『埋めよ』

『足りぬ席を埋めよ』

『空いた役を埋めよ』

『不在は目立つ』

『数を合わせよ』


サトリの背筋が凍る。


これだ。

これが悪の芯だ。


誰がいなくてもいい。

中身はどうでもいい。

席さえ埋まれば、役目さえ回れば、家は平気な顔をする。


その瞬間、ルビーの顔から表情が消えた。


「……気に入りませんわね」


声だけが、妙に静かだった。


「人の不在を、“埋めればいい”で済ませるのは」


黒いブローチが熱を持つ。

今までで一番、はっきりと。


「それは家ではありません。

ただの腐った帳尻合わせです」


その言葉と同時に、鏡の中の影が、一斉に黒く焦げついた。


焼いたのは火ではない。

ルビーの中にある、強い拒絶だった。


五つの影は、音もなく崩れ、鏡の奥へ吸い込まれるように消えていく。


回廊に残ったのは、曇った鏡面と、少し焦げたパンの匂いだけだった。


■ 次の扉は、衣装部屋

静寂のあと、イツモアが咳払いした。


「では、鏡面回廊は一時封鎖。

警備二名、ここを離れないように。

本物の使用人には名札と持ち場を再確認させてください。

“役だけのもの”を今夜は一つも通しません」


「ええ」


ルビーが頷く。


「タキオン」


「何だ」


「あなたはその鏡の逆探知を持ってきなさい。

衣装部屋へ繋ぐのでしょう?」


「もちろんだ」


「ツキノワは前衛。

ピンキーは――」


「パンです!」


「なぜそんなに自信満々なのです」


「だって役に立ちました!」


それは否定できなかった。


サトリが小さく手を挙げる。


「僕は」


「胃を押さえながらついてきなさい」


ルビーが即答した。


「はい……」


「案ずるな」


ツキノワが低く言う。


「お前の胃痛はだいたい正しい」


「慰めになってるのか微妙です……」


その時、舞踏会場の方から、再び音楽が流れ始めた。

優雅で、滑らかで、何事も起きていないふりをする音だ。


ディーアナは本当に踊りを止めないつもりらしい。


ルビーは一瞬だけ、その音の方を見た。

母が、まだ戦っている音だった。


「行きますわよ」


赤いドレスが翻る。

黒いブローチが、次の悪の方角を知っているみたいに熱を返す。


鏡の次は、衣装部屋。


顔ではなく役を盗み、人数ではなく不在を隠す、

今夜の敵のもっとも陰湿な巣だ。


一行は、焦げたパンの匂いを背に、次の扉へ向かった。


その向こうで待っているのが内通者か、抜け殻か、あるいは“本物の空席”そのものか。

まだ誰にも分からない。


ただ一つだけ確かなのは――


ドルドアの悪は、剣より先に、名札と役割から家を食い始めている。

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