スタジアムの少年と、ズレた歓迎
グレートグレープ国が敢行した「ギャグ音波魚雷攻撃」。
あれは、一足先に潜入していたタキオンとツキノワが、友人であるトンビ王子に「潜水烏賊にはダジャレが有効だ」と嘘の台本を渡して進言したものであった。
「ラビ艦長を爆笑させたら沈んでいくだろう。そこを我が国のサルベージ船で引き上げて全員捕まえる。完璧だ!」
王子は親指を立てて快諾した。自国のスパイが嘘をつくはずがないと信じ切っている彼は、ルビー(おじさん)たちへの「敵対行動」としてではなく、ある種の「完璧な捕獲作戦」としてそれを行っていたのだ。
■ 謝罪と「次への期待」
潜水艇での失敗についても、トンビは自分が悪かったと思い込んでいた。
「あまりに面白いことを言いすぎて、ラビ艦長が死んでしまうのではと思って……少し手加減してしまったんだ。せっかくの情報を無駄にしてすまない」
神妙な顔で謝る王子に、タキオンとツキノワは申し訳ないという思いで答える。
「そんなこと気にしてないよ、次頑張ればいいさ」
トンビ王子は笑顔で頷いた。
■ ズレた男の「心からの歓迎」
トンビ王子は、この国でも流行っている「悪役令嬢ルビーの演劇」の内容を知っていた。
トリケラトプスとの激闘、イケメンからの賄賂を跳ね除ける姿、そしてピンキーとの絆。タキオンたちからその話を「盛って」聞かされるたびに、彼は初めて聞く物語のように新鮮な驚きをその身に宿した。
驚くべきは、自ら攻撃を仕掛けた相手であるルビー一行を、一点の曇りもなく「心から歓迎」できていることだ。
彼はラビ艦長を沈めようとした事実を忘れたわけではない。それなのに、目の前に現れたルビーを「超絶美人!」と手放しで称賛し、歓迎できる。外交能力など皆無に等しいが、この「悪意と敵意が完全に欠落したズレ方」こそが、トンビ王子の本質であった。
■ スタジアムの少年
「じゃあさ、今日近所のスタジアムでプロアメフトの試合があるから行こうよ。もちろん俺のおごりさ」
身分を明かさず、律儀に一般客の列に並んでチケットを買い、飲み物や食べ物を買い込んで、そこそこの良席に座る。
試合が始まった瞬間、トンビは一人の少年に戻っていた。
隣に座るタキオンとツキノワが、自分たちの嘘を完璧に信じ込んでいる王子のあまりの純粋さに、内心で何を思っているかなど知る由もない。
漆黒の魔獣を送り込んだのは彼の父親であり、今まさにルビー(おじさん)たちが対峙しようとしているのもその「父親の闇」なのだが、スタジアムで叫ぶトンビには関係のない話だった。
彼はただ、ホットドッグを片手に、フィールドを駆ける選手たちに心からの声援を送っていた。




