アーモンドの軍港と、丸い潜水艇の王子
グレートグレープ国の軍港は、心地よい春の日差しに包まれていた。風が白い小さな花びらを舞い上げ、ルビー一行を歓迎する吹雪のように踊っている。
一行が透明マントを収納し一瞬で姿を現すと、そこには一人の青年が待っていた。
「あら、可愛い花。桜かしら」
ルビーが掌にのせた花びらを見て呟くと、出迎えのトンビ王子が声を上げた。
「アーモンドですよ、アーモンド!」
アーモンドはこの国の名産だ。だが王子は続けて物騒なことを口にする。
「昔、アーモンドを食べて公園で昼寝してたら、警察が来て『王子が青酸カリで暗殺された!』って大騒ぎになりましてね。ルビー閣下も、食べるときは周りに警察がいないか確認しましょう……って、わっ! ルビー閣下、凄い美人!」
あまりにストレートな物言いに、ルビーは溜息を飲み込んだ。
「急に叫ぶから驚きましたわ。私としては、透明マントを外した瞬間に驚いてほしかったですけれど」
中身はおじさんだが、小首を傾げて「悪役令嬢」を演じるのも外交の一環。そう自分に言い聞かせ、我慢するルビーだった。
「わっ、ホントだ急に現れた! さては透明マントを使ったな? ネーミングがダサいぞ、ルビー閣下っか!」
「……『っか』が一つ多いですわ。それにネーミングをしたのは私ではありません」
王子のペースに巻き込まれている間に、子猫たちはタマが鞄から出したアメフトのボールで遊び始めた。ルールなど知らない一行だが、王子が勝手にコーチを始める。
「猫ちゃんパス! ゴールに向かって全力疾走だ! パスを受けたらラインまで走れ!」
キャーキャーと歓声を上げながら走る双子が、一緒にボールをキャッチしてタッチダウン。
その光景を、置き去りにされたルビーと仲間たちが遠い目で見守る。
「楽しそうですね、丸い潜水艇の王子」
ピンキーがクスクスと笑い、イツモアは「聞きしに勝る馬鹿ですな」と切り捨てた。
「ええ。でも、最高に善人ですよ。心に濁りがありません」
サトリが能力で裏付けを語る中、どこからか不穏な声が響いた。
「……いっそ沈めてやればよかった」
「「「ラビさんも来るんですか!?」」」
イツモア以外の全員が声を揃えた。そこには、魔法のホログラムで「半透明の人間」の姿に化けた潜水烏賊、ラビ艦長がちゃっかりと立っていた。




