深海の軍烏賊と、暴かれた局長の「聖域」
ドルドア海軍地下基地、薄暗いプラットホーム。そこには外務大臣としての公務に臨むルビー一行が集結していた。
案内役のイツモア局長は、メンバーの顔ぶれを見て眉根を寄せた。
「ルビー閣下、外交交渉はわかります。ですが、なぜ子猫たちと……そこの爽やかウェイター君がここにいるのですか?」
「それを私にお尋ねですか?」
ウェイター君は、いつもの涼しい顔で答えた。「人の心が読めるからです。交渉事において、これ以上便利な能力はないでしょう?」
絶句するイツモア。
「……なぜ今まで黙っていた」
「聞かれなかったからです。女神様が『聞かれたら答えなさい』とおっしゃっていましたので」
その直後、ピンキーが双子と遊びながら爆弾を投下した。
「イツモア様、ディーアナ公爵様を口説いていたんですって?」
「「えー!いけないんだー!フリンだー!」」
タマとミケの無邪気な合唱が地下基地に響き渡る。イツモアは顔を青くし、「なぜそれを……」と戦慄した。ルビー(おじさん)が「私は母から聞いていました」と追い打ちをかけ、ピンキーが「私はサトリ君から聞きました」と手を挙げる。
「サトリ君、君ね……私のプライベートを吹聴しないでもらいたい」
「いえ、イツモア様。あなたが悪人なら黙っていましたが、私の目から見れば、あなたはディーアナ様へのストーカー行為以外は聖人レベルの善人です。あまりに惜しいので、皆様にたしなめて頂こうと思いまして」
サトリ――それがウェイター君の本名であった。
ぐうの音も出ないイツモアは「……わかった、もうよい」と話を切り上げ、一行を「潜水烏賊」へと促した。
【誇り高き戦友:潜水烏賊】
一行の前に姿を現したのは、鋼鉄の艦体ではなく、巨大な生きた「烏賊」だった。
潜水烏賊族。知能は人間と同等、言葉を解し、ドルドアの市民権を持つ軍人である。その触手から放たれる電撃魚雷は、先の戦争で敵艦8隻を沈めたという。
この潜水烏賊こそが、かつて海軍にいたイツモアの戦友であり、今回の外交を支える「ネームド」の英雄であった。
一行を乗せた巨躯が、静かに、しかし力強くドルドアの深海へと潜っていく。その中では、人間のドロドロとした恋心と、子猫たちの無邪気な笑い声が交差していた。




