歪められた英雄譚と、消えない誤解
外務大臣専用サロン。優雅に紅茶を啜るルビーの前で、事務方の役人が興奮気味に、しかし慇懃に報告を続けていた。
占領下の各国情報局から押収された通信記録。そこには、現在の「ルビー・ドルドア」に関する、あまりにも勝手な解釈の数々が記されていた。
「『悪役令嬢は超絶美人。パパ大好きっ子だったが最近は疎遠。アメフト好き。オペラ歌手の師匠とも疎遠。そして――可愛い女の子が大好き』。以上が諸外国が把握していた閣下のプロファイルです」
「……最後の一点以外はどうでもいい内容ですわね。それより、なぜ私が『悪役令嬢』と呼ばれているのですか? 意味がわかりませんわ」
ルビー(おじさん)の困惑をよそに、役人は身を乗り出した。
「閣下、最近の演劇界ではトレンドが変わっておりましてね! 閣下が先の戦争で見せた『腐敗した王族への断罪』が、民衆の間で**『新しい悪役令嬢像』**として大流行しているのです。美貌に惑わされた王子を袖にし、その悪事を暴いて投獄する……まさに閣下そのもの! その傍らには、閣下を『ダーリン』と慕う可愛い猫獣人の少女……。私も観劇しましたが、実に見事な百合……いえ、素晴らしい絆でした!」
(……ピンキーだな。あいつが広めたな……)
おじさんは遠い目をした。戦勝の興奮冷めやらぬピンキーが、あちこちで「私のダーリンが凄かったんです!」と吹聴して回った結果、事実と妄想が混ざり合い、とんでもない英雄譚が完成してしまったらしい。
「それにしても、自らの魔法で巨大なクマの神獣を操り、神の杖を召喚して魔獣を一撃で消滅させるとは。超絶美人な上にそこまでの武力をお持ちなのに、女の子が好きだということだけが、男としては惜しい限りで……」
(……私はクマを操ってなどいない。あれはツキノワが勝手に暴れただけだ……)
否定するのも馬鹿馬鹿しくなり、ルビーはおじさんの心境でため息をついた。
自分が破滅爆散を目指す悪役令嬢であることは間違いないのだが、世間が抱く「悪役令嬢」とのズレは、もはや神の杖でも修正不可能なレベルまで広がっていた。




