東からの魔影と、託された「棒」
外務大臣の執務室。おじさんは今朝の光景を思い出していた。
昨夜、子猫たちは寝袋を持ち込んで丸くなり、ピンキーは「メイド部屋」と書いた紙を貼った衝立の陰で、猫のように前足を揃えて眠っていた。朝には三人の姿はなかったが、隅に置かれた荷物を見るに、どうやらここを拠点にするつもりらしい。
(たくましいものだ……)
椅子に座ったその時、廊下を爆走する音と子供たちの叫び声が響いた。
「「待てー! うさぎー! お昼ごはんー!」」
タマとミケだ。執務室に転がり込んできたのは、必死の形相の郵便兎族。
「速達です! 小包もあります!」
間髪入れずに子猫たちが突入してきた。おじさんは毅然とした態度で立ち上がった。
「タマ、ミケ。ここは遊び場ではありません。郵便局の方を追い回すのは悪い子です。お仕置きですよ」
「ええー、兎じゃん。食べていいやつだよ」
「どう見ても兎さんだよ」
悪びれない子猫たちに、郵便兎族が反論する。
「私は兎ではありません! 兎にしてはデカすぎるでしょう、兎族の獣人です!」
おじさんは平謝りしつつ、この子たちがどうやって警備の厳しい議事堂に潜り込んだのかと首を傾げた。
「「兎のおじさん、ごめんなさい」」
素直に謝る子猫たちに安堵したのも束の間、けたたましい早鐘が鳴り響いた。衛兵が血相を変えて飛び込んでくる。
「魔獣の群れが東の空より接近中! 閣下、至急避難壕へ!」
その時、突然、虚空から透明マントを脱ぎ捨てたタキオンとツキノワが現れた。
「いつからいた! そのマント、どこから持ってきた!」
驚くおじさんの手から、タキオンが強引に小包をひったくった。
「そんなこと後です! ……えいっ!」
タキオンが荒っぽく包装をバリバリと引き裂くと、中から**金属質の鈍い光を放つ「棒のようなもの」**が滑り出した。彼はそれを掴むなり、おじさんの胸元へ放ってよこした。
「はいこれ持って! 離しちゃダメですよ!」
「なっ……なんだこれは」
重厚な感触の「棒」を受け取り、困惑するおじさんにツキノワが叫ぶ。
「兎も子猫も、お嬢様も衛兵と避難壕へ! 速達の中身はその棒の取説です、壕で読んでください!」
二人はそのまま嵐のように、窓を蹴破る勢いで戦場へと飛び出していった。
避難壕に設置された緊急対策室。ディーアナ公爵は集結した閣僚を前に、力強く宣言した。
「議会の招集を待たず開戦とする! 魔獣を滅ぼし、それを作り出した愚か者どもに目に物見せてくれるわ!」
室内に雄叫びが響く中、イツモアがおじさんに歩み寄り、ゴーグルとコントローラーを差し出した。
「その説明書を読み、その『棒』……いえ、魔道具を操作してください、ルビー閣下」
(……どういうことだ。嫌な予感しかしないぞ)
手渡された謎の兵器。おじさんは冷や汗を流しながら、速達の封筒を切り裂いた。




