神の庭のティータイムと、人類の選択
食べ終わった皿を下げながら、ウェイターは内心で首を傾げていた。
(この星に危機が迫っているという割には、なんともアットホームな雰囲気だ。女神様は万能なのだから、ご自分でどうにでもできるはずなのに。なぜ、わざわざ人間を介して対処なさるのだろう)
他の客には聞こえていなかったようだが、ウェイターの耳には、この一団の会話がはっきりと届いていた。いや、女神様があえて彼にだけ聞かせていたのだ。
食器をワゴンに乗せ終え、彼が軽くお辞儀をして去ろうとしたその時、背中越しに鈴を転がすような声が響いた。
「爽やかなウェイター君。確かに私なら、この事態を簡単に幸せな形で収められよう。だが、それではダメなのだ」
女神様は彼の心を読み、そう告げた。
次の瞬間、レストランの壁と天井が消失した。
彼らのテーブルとウェイターを残して、周囲には遠くに山脈を望む広大な草原が展開していた。一同は、女神の仕業だと察しつつも驚く様子はない。むしろ、物珍しそうに辺りを見回して面白がっている。
ユニフォームを着てアメリカンフットボールに熱中する絶滅種のクマたち。ピクニックを楽しむ見たこともない愛らしい動物たち。パントマイムでコントを披露する珍獣。テーブルの周りは、異様なほど賑やかで平和な光景に包まれていた。
「私は人間の子を可愛いと思うことは滅多にない。タキオンとツキノワは千年ぶりに可愛いと思った。私に可愛いと思われたものは、私を見ることができる。そしてそれからまた千年後、赤ん坊だった君を見て、私は可愛いと思ったのだ。……君は私を見るなり、質問攻めだったな。あまりに可愛かったので、神の庭へ連れて行って心で話をしたものだ」
かつての邂逅を思い出したウェイターは、失礼を承知で、ずっと抱いていた疑問を女神様に問いかけた。
「……ならば、なぜご自身でこの星を救わないのですか?」
女神様は、慈愛と厳しさが混ざり合った瞳で彼を見つめた。
「それはな、今、滅びの運命線に乗っている人類が、自ら回避せねばならないからだ。自分の運命は、自分で決めるもの。他人も肉親も、すべてがそうだ。人類の運命を変えられるのは人類だけ。……これは不変の法則なのだよ」
女神様はウェイターに、一筋の光のような言葉を贈った。
「君に女神からの言葉を授けよう。――今日を精一杯に生きた者にのみ、本当の明日が来る」




