第32話 近すぎる距離
最近。
一つ、気づいたことがある。
凛花は、思っていたよりずっと人気者だ。
(いや、知ってたけど)
知ってた。
でも、実際に付き合ってから見るとなんか違う。
「黒瀬さん、おはよー」
「おはよう」
朝、教室に入ってきた凛花に、何人もの声が飛ぶ。
男子も女子も関係なく自然に話しかけている。
(すごいな……)
私には絶対無理。
「七瀬」
「ん?」
「何見てるの」
いつの間にか、本人が目の前にいた。
「別に」
「嘘」
最近そればっかり。
「……人気だなって」
正直に言う。
すると。
「そう?」
首を傾げる。
本気で分かってない顔。
「そうだよ」
「興味ない」
凛花は即答する。
「いや、あるでしょ」
「ない」
「ある」
「ない」
子供か。
その時。
「黒瀬さん!」
また声。
廊下側の席の女子だった。
「昨日ありがとね!」
「ん」
「今度お礼する!」
「いらない」
「えー」
楽しそうに話している。
普通の会話。
普通のやり取り。
なのに。
(……近い)
昨日の凛花みたいなことを思う。
「……」
なんとなく、視線を逸らした。
昼休み。
「七瀬?」
「ん?」
「どうしたの?」
友達が不思議そうな顔をする。
「何が」
「今日静か」
そうかな。
「別に」
「黒瀬さんと喧嘩?」
「してない」
即答。
でも。
「ふーん」
納得してない顔。
その時。
「お姉ちゃん」
「っ」
また急に来た。
「学校でその呼び方やめて」
「嫌」
また即答される。
最近、本当に遠慮がない。
「帰り、一緒ね」
「うん」
それだけ言って凛花は、自分の席へ戻っていく。
その背中を見ながらふと思う。
(もし)
もし、凛花が、私じゃない誰かを選んでいたらどうなってたんだろう。
「……」
考えてすぐに首を振る。
そんな妄想に意味はない。
放課後。
「ねえ」
帰り道。
「何」
「今日変だった」
ぎくり、とする。
「そう?」
「うん」
凛花は迷いなく頷く。
「朝からずっと」
「気のせい」
「違う」
即否定。
「……」
見抜かれてる。
すると。
「もしかして」
少しだけ。
楽しそうな顔。
「嫉妬?」
「っ!!」
思わず足を止める。
「ち、違う!」
「ほんと?」
「ほんと!」
でも、凛花の顔は全然信じていないように見えた。
「……」
沈黙。
それから。
「ちょっとだけ」
小さく呟く。
「え?」
「だから!」
顔が熱い。
「ちょっとだけだから!」
言った瞬間。
凛花が止まった。
「……」
珍しく。
固まっている。
「何その顔」
「いや」
少しだけ。
本当に少しだけ。
耳が赤い。
「嬉しい」
「……」
「すごく嬉しい」
「そんなに?」
「うん」
即答。
そして。
「ねえ」
「何」
「もう一回言って」
「絶対やだ」
即答した。
その瞬間。
凛花が心の底から楽しそうに笑う。
その顔を見たらなんだか、嫉妬していたことすらどうでもよくなってしまった。




