第31話 知らないかお
「ねえ黒瀬さん」
昼休み。
「この問題ってさ――」
教室の後ろ。
凛花の周りに、何人か人が集まっている。
(……人気者だなぁ)
今さらだけど凛花は、顔がいい。
頭もいい。
しかも、基本誰に対してもちゃんとしてる。
そりゃ人も寄ってくる。
(別に、分かってるけど)
ペンを回しながら、ぼんやりそっちを見る。
「七瀬?」
「っ」
「聞いてる?」
「あ、ごめん」
話しかけてきていた友達に慌てて向き直る。
「珍しいね、ぼーっとしてるの」
「ちょっと寝不足」
「へぇ」
意味ありげに笑われる。
「……何その顔」
「別に?」
絶対別にじゃない。
「黒瀬さんってさ」
「……何」
「七瀬にだけ雰囲気違うよね」
「っ」
思わず咳き込む。
「分かりやす」
「いや、だって普通に違うし」
「他の人にはもっと冷たいよね」
その言葉に。
無意識に、また凛花を見る。
「それで、この式を――」
笑ってる。
柔らかい声。
ちゃんと相手の目を見て話してる。
(……普通に優しい)
なんか。
少しだけ、知らない感じがした。
「……七瀬?」
「え」
「また見てる」
「見てない」
反射的に否定する。
「ふーん」
その時。
「お姉ちゃん」
「っ!?」
突然、後ろから声が聞こえてきた。
私は後ろに振り向くとそこには凛花がいた。
凛花...いつの間に。
「な、何」
「何回見てたの」
「見てないって」
「嘘」
じっと見られる。
近い。
(近いって……!)
「黒瀬さん、七瀬のこと好きすぎじゃない?」
誰かが笑いながら言う。
すると。
「好きだけど?」
即答。
「っ……!」
教室なのに最近、本当に容赦がない。
「ごめん七瀬、顔赤すぎて面白い」
「笑わないで……」
机に突っ伏したくなる。
その時。
「黒瀬さんってさ」
別の男子が口を開く。
「意外と面倒見いいよな」
「え?」
「さっきも他クラスのやつに勉強教えてたじゃん」
「へぇ〜」
周りが反応する。
「モテそう」
「実際モテるでしょ」
「告白とかされないの?」
「されるよ」
「え」
あまりにも普通に返されて、空気が止まる。
「……え?」
今度は、私が聞き返していた。
「何回か」
「……」
知らなかった。
いや。
(そりゃ、されるよね)
凛花だし。
でも。
なんか。
胸の奥が、少しざわつく。
「全部断ってるけど」
凛花は、平然と続ける。
「興味ないから」
「うわ強」
「言われた側キツ……」
笑いが起きる。
でも、私は、その言葉より。
“告白されたことがある”
そっちが頭に残っていた。
放課後。
「……静か」
帰り道。
隣を歩く凛花が、小さく呟く。
「別に」
「嘘」
即答される。
「今日ずっと変」
そう凛花が呟く。
「……」
図星だった。
すると。
「ねえ」
「何」
「もしかして」
少しだけ、楽しそうな声。
「告白された話?」
「っ!」
止まる。
「なんで分かるの……」
「分かりやすいから」
くすっと笑う。
「……別に、気にしてないし」
最後の抵抗。
「うん」
「……」
「気にしてる」
「だからしてないって」
すると凛花は、少しだけ考えるように目を細める。
「嬉しい」
「……は?」
「お姉ちゃんがそういう顔するの」
意味が分からない。
「普通嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ」
そのまま。
少しだけ、手を握られる。
「だって」
真っ直ぐ、こっちを見る。
「ちゃんと、私のこと好きって分かるから」
「……っ」
また心臓がうるさくなる。
「……ずるい」
小さく呟く。
「知ってる」
最近、そればっかり。
凛花は少しだけ笑ってその繋いだ手を、離さなかった。




