第30話 今度は、私が
「……眠」
朝のホームルーム前。
机に突っ伏したまま、小さく呟く。
昨日。
帰ってからも、凛花の機嫌は妙によかった。
『嬉しい』
『お姉ちゃん限定だから』
思い出して、余計に疲れる。
(なんであんなストレートなの……)
「七瀬、大丈夫?」
「……たぶん」
クラスメイトが苦笑する。
「顔死んでるけど」
「気のせい」
「黒瀬さんと何かあった?」
「なんでそうなるの」
「分かりやすいから?」
そんなものかな。
いや。
(分かりやすいのは凛花の方だと思うけど)
その時。
「凛花ちゃーん」
廊下側から声。
顔を上げると見たことのある他クラスの女子が、凛花に近付いてきた。
確か、凛花と同じ委員会の。
「今日の資料ありがと!」
「別に」
「あとさ、放課後ちょっといい?」
「……今日?」
「うん、相談したいことあって!」
にこにこしてる。
距離、近い。
(……近くない?)
「いいよ」
凛花が普通に返す。
その瞬間。
なぜか、胸の奥がざわついた。
「じゃあまた後でね!」
女子は手を振って去っていく。
その背中を、ぼんやり見送る。
「……何」
「っ」
いつの間にか、凛花がこっちを見ていた。
「え、何が」
「今、見てた」
「別に」
反射的に返す。
すると。
「ふーん」
少しだけ、口元が緩む。
「何その顔」
「いや」
楽しそうに笑う。
「お姉ちゃんもするんだなって」
「……は?」
「嫉妬」
「っ!?」
声が裏返る。
「してない!」
即否定。
でも。
「顔赤い」
「うるさい……!」
周りに聞こえる。
慌てて声を落とす。
「別に、ただ近かったなって思っただけだし」
「うん」
「普通に話してただけでしょ」
「うん」
「だから別に――」
「嫉妬してる」
「だからしてないって!」
笑われる。
完全に遊ばれてる。
「……でも」
凛花が、小さく呟く。
「ちょっと嬉しい」
「……何が」
「お姉ちゃんが気にしてくれたの」
「っ」
また、そういうこと言う。
「……気にしてない」
最後の抵抗。
すると。
「じゃあ放課後、一緒に帰れなくても平気?」
「え」
「さっきの子の相談乗るから」
一瞬、止まる。
別に断る理由なんてない。
ない、はずなのに。
「……どれくらい?」
聞いてしまった。
凛花の目が、少しだけ細くなる。
「やっぱり嫉妬してる」
「……うるさい」
否定できない。
その瞬間。
凛花が、少しだけ近づく。
「安心して」
小さな声。
「お姉ちゃん以外、興味ないから」
「っ……!」
また直球。
「そういうの、学校で言わないでって……!」
「誰にも聞こえてないよ」
「問題そこじゃない……!」
くすっと笑う。
でも、その言葉だけで、さっきまで胸の奥にあったざわつきが、少しだけ静かになる。
(……単純すぎる)
放課後。
結局、凛花は、その女子と少し話してから戻ってきた。
「お待たせ」
「……別に待ってないし」
「嘘」
「嘘じゃない」
すると。
「じゃあ帰る?」
自然に差し出される手。
「……外」
「うん」
「人いる」
「うん」
「……」
少し迷って。
それから。
「……少しだけなら」
小さく呟いて、手を重ねる。
その瞬間。
凛花が、嬉しそうに笑った。
(……そんな顔されたら)
もう、嫌って言えないじゃん。




