第27話 少しだけ引っかかる
玄関のドアを閉める。
「……ただいま」
「おかえり」
リビングから聞こえる声。
いつも通りなのに。
(……なんか、変に意識する)
靴を脱ぎながら、昼のことを思い出す。
『義姉妹なの!?』
『普通なら悩みそう』
頭の中で、何度も繰り返される。
(……別に、気にしてないのに)
気にしてない...はず。
「ご飯できてるよ」
「……うん」
リビングへ向かう。
テーブルの上には、もう料理が並んでいた。
「作ったの?」
「半分だけ」
「半分って何」
「残りは温めただけ」
「それ作ったって言うのかな……」
くすっと笑う。
その瞬間。
「何」
「え?」
「今、ちょっと元気ない」
「……そんなことない」
即答する。
でも、凛花はじっとこっちを見てくる。
「嘘」
「……」
こういうところ、鋭い。
「学校のこと?」
ぴたりと、動きが止まる。
「……まあ、少し」
隠しても無駄な気がして、小さく認める。
すると。
「気にしてるんだ」
「……別に、そこまでじゃ」
「お姉ちゃん」
静かな声。
「無理に平気なふりしなくていいよ」
「っ」
その言い方に少しだけ、胸が苦しくなる。
「……だって」
視線を落とす。
「普通じゃないって、言われたし」
口に出した瞬間。
急に、その言葉が重く感じた。
「……」
凛花は、何も言わない。
静かな空気。
「私たちってさ」
少しだけ、迷う。
でも。
「やっぱ、変なのかな」
言ってしまう。
義姉妹で。
一緒に住んでて。
その上、恋人。
客観的に考えたら。
(まあ、普通じゃないよね)
「……変かもね」
「っ」
思ったより、あっさり返ってきた。
顔を上げると凛花は、静かにこっちを見ていた。
「でも」
椅子から立ち上がる。
そのまま、こっちへ来る。
「ちょ、近――」
言い切る前に。
ぎゅっと、後ろから抱きつかれた。
「っ!?」
「凛花!?」
「変でもいい」
肩に額を乗せたまま、静かな声。
「私は、お姉ちゃんが好き」
「……」
「お姉ちゃんは?」
答えなんて、決まってる。
でも。
「……そういう聞き方ずるい」
「ずるくない」
「ずるい」
くすっと笑う気配。
そのまま。
少しだけ、抱きしめる力が強くなる。
「私はさ」
静かな声。
「普通とか、あんまり分かんない」
「……うん」
「でも」
耳元で、続ける。
「お姉ちゃんが他の人のところ行く方が嫌」
「……重い」
反射的に呟く。
「知ってる」
即答。
「でも、嫌じゃないでしょ?」
「……」
否定できない。
すると。
「ほら」
少しだけ、嬉しそうな声。
「じゃあ問題ない」
「そんな簡単な話じゃ――」
「簡単だよ」
言葉を遮られる。
「好きな人と一緒にいたいだけ」
その言葉はびっくりするくらい、真っ直ぐで。
「……」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……ほんと、ずるい」
小さく呟く。
「何が?」
「そういうこと、普通に言うところ」
「だって本当だし」
あっさり。
そのまま。
「お姉ちゃん」
「何」
「こっち向いて」
「……やだ」
「なんで」
「今、顔見られたくない」
少しだけ沈黙。
それから。
「……赤い?」
「うるさい」
笑い声。
でも、その声を聞いているうちに、さっきまで胸に引っかかっていたものが、少しだけ、軽くなっていく。
普通じゃないかもしれない。
変かもしれない。
でも。
(……まあ、いいか)
そう思えるくらいには、凛花の隣が、当たり前になっていた。




