第26話 外と中
「……近い」
「近くないよ」
「近いって」
登校中。
当たり前みたいに隣を歩く凛花が、今日も近い。
肩が、たまに触れる。
そのたびに、変に意識してしまう。
「お姉ちゃんが避けるからでしょ」
「避けてない」
「避けてる」
「学校近いんだから、もうちょっと離れて」
「なんで」
「見られるから」
「もうバレてるよ?」
「そういう問題じゃないの……!」
凛花のくすっと笑う声。
絶対楽しんでると思う莉茉だった。
教室に入った瞬間。
「来た来た」
「おはよカップル」
「その呼び方やめて」
即答する。
でも。
「否定しないんだ」
「……っ」
言葉に詰まる。
その横で。
「おはよ」
凛花は普通。
というか。
(慣れるの早すぎない?)
席に座る。
その瞬間。
「ねえ七瀬」
「何」
女子が身を乗り出してくる。
「付き合った後ってどんな感じ?」
「どんなって……」
「黒瀬さん甘える?」
「え」
一瞬、止まる。
(……甘える)
思い返す。
家での距離。
ソファ。
寄りかかってくる重さ。
『彼女だから』
(……うわ無理)
「ちょ、顔赤い」
「え、マジじゃん」
「何想像したの!?」
「してない!」
慌てて否定する。
でも。
「ふーん」
すぐ横。
凛花の声。
「何」
「別に?」
絶対分かってる顔。
「てかさ」
別の子が口を開く。
「ほんと意外だった」
「え?」
「七瀬って、もっと普通の恋愛するタイプかと思ってた」
「……普通?」
「いや、だって黒瀬さんって結構重そうじゃん」
「っ」
思わず、凛花を見る。
本人は、特に気にした様子もなく。
「重いよ?」
あっさり認めた。
「認めるんだ……」
「だって事実だし」
「いや、開き直られると怖いって」
笑いが起きる。
でも。
「七瀬、大丈夫?」
軽い調子。
なのに、妙に、その言葉が引っかかった。
(……大丈夫、って)
別に。
嫌なことなんて、ない。
でも。
「お姉ちゃん」
「っ」
突然、名前を呼ばれる。
いや、その呼び方。
「ちょ……!」
反射的に凛花を見る。
「あ」
周りが止まる。
「……お姉ちゃん?」
しまった、って顔。
でも、もう遅い。
「え、何それ」
「待って、どういうこと?」
「姉妹なの!?」
一気にざわつく。
(終わった……)
「義理」
凛花が、あっさり答える。
「今、一緒に住んでる」
「えぇ!?」
さらに騒がしくなる。
「情報量多すぎ!」
「待って待って、義姉妹で付き合ってるの!?」
「そうだけど」
平然。
(なんでそんな普通なの……)
「やば……」
「少女漫画じゃん」
「てか同居!?」
「毎日一緒!?」
「無理無理、絶対意識する」
「ていうか距離近い理由それか!」
好き勝手言われる。
穴があったら入りたい。
「七瀬」
「……何」
「顔真っ赤」
「うるさい……」
笑い声。
でも。
「……なんか、すごいね」
ふいに、誰かが小さく呟く。
「普通なら、悩みそうなのに」
「……」
その言葉で。
少しだけ、空気が変わる。
(……普通なら)
やっぱり。
そう思うよね。
「別に」
静かな声で凛花は言った。
「悩んだけど」
「っ」
少しだけ、驚く。
「でも」
凛花は、真っ直ぐ私を見る。
「好きになったから」
教室が、静かになる。
「家族とか、義理とか」
少しだけ、笑う。
「関係なかった」
「……っ」
心臓が、強く跳ねる。
「……黒瀬さん強」
「それ言われたら何も言えないわ」
空気が、少しだけ緩む。
でも、私は、しばらく動けなかった。
(……ずるい)
そういうことを平気で言う。
昼休み。
屋上前の廊下。
「……何」
壁にもたれている凛花を見る。
「呼んだのそっちでしょ」
「うん」
近づく。
すると。
「ねえ」
「何」
「さっき、嫌だった?」
「……何が」
「義姉妹の話」
一瞬、言葉に詰まる。
「……嫌じゃ、ない」
嘘じゃない。
「でも」
少しだけ、視線を逸らす。
「やっぱ普通じゃないんだなって」
静かに言う。
「……そっか」
凛花は、小さく頷いて。
それから。
「じゃあ」
一歩、近づく。
「普通じゃなくていい」
「……は?」
「私は、お姉ちゃんがいればいいし」
「っ」
また、それ。
「だから」
ほんの少しだけ、笑う。
「外が何言っても、気にしなくていいよ」
「……簡単に言うなぁ」
「簡単だよ」
そのまま、ぎゅっと、袖を掴まれる。
「だって」
すぐ近くで。
「お姉ちゃん、ちゃんと私選んだし」
「……っ」
ずるい。
そんなこと言われたら。
もう。
「……離れられないじゃん」
小さく呟く。
すると、凛花は、少しだけ笑って。
「うん」
嬉しそうに、頷いた。




