第25話 ただいまの距離
学校から帰ってきてドアを開けると玄関には凛花が立っていた。
「……ただいま」
「おかえり」
いつも通りのやり取り。
なのに。
(……なんか違う)
靴を脱いでリビングに向かおうとした時、凛花が私の横に並んだ。
一緒に、リビングに入る。
沈黙。
(こんな静かだったっけ)
学校では、あんなに騒がしかったのに。
家だと、急に落ち着く。
いや。
(落ち着いてるっていうか……)
意識してる。
お互いに。
「……ご飯どうする?」
「適当でいい」
「適当って何」
「冷蔵庫にあるやつ」
「雑」
くすっと笑う声。
少しだけ、空気が緩む。
キッチンに立つ。
「手伝う?」
「いい」
「なんで」
「邪魔」
「ひど」
そう言いながらも、離れない。
(……近いって)
隣に立たれる。
学校でいる時よりもずっと距離が近い。
「ねえ」
「何」
「今日さ」
「……何」
「ちゃんと言ってくれた」
「……」
あれ。
(思い出させないでほしいんだけど)
「……言ったけど」
「嬉しかった」
素直に言われる。
「……そう」
視線を逸らす。
その瞬間。
「危ない」
手を引かれる。
「っ」
包丁を持ってた手が止まる。
「ちゃんと見て」
「……見てるし」
でも。
手、離れない。
「……もういい」
小さく言う。
それでも、少しだけ残る温もり。
(……近すぎ)
食事。
向かい合って座る。
でも、視線が合うたびに、逸らす。
(なんでこんなことになってるの)
昨日までと同じはずなのに全然違う。
「ねえ」
「何」
「こっち来て」
「は?」
ソファ。
「なんで」
「いいから」
仕方なく、隣に座る。
その瞬間。
ぐっと、距離が詰まる。
「っ」
肩が触れる。
(近いって)
「……何」
「何でもない」
「じゃあ離れて」
「やだ」
即答。
「なんで」
「彼女だから」
「……っ」
さらっと言う。
「そういうの、やめてって」
「なんで」
「慣れてないから」
「じゃあ慣れて」
「無理」
くすっと笑う。
そのまま。
少しだけ、寄りかかってくる。
「ちょ」
「いいでしょ」
「……よくない」
でも、押し返さない。
(……まあ、いいけど)
しばらく、そのまま。
何も言わない時間。
静か。
でも。
(……嫌じゃない)
むしろ、落ち着く。
「ねえ」
「何」
「学校と違うね」
「何が」
「こっちの方が近い」
「……そりゃ家だし」
「じゃあ」
少しだけ、顔を近づけてくる。
「外でもこうする?」
「無理」
即答。
「なんで」
「恥ずかしいから」
「ふーん」
少しだけ、間。
「じゃあ」
静かな声。
「家だけでいいや」
「……何それ」
「独占」
「……っ」
その言葉に少しだけ、引っかかる。
「ねえ」
「何」
「これさ」
少しだけ、迷う。
でも。
「……普通じゃないよね」
言ってしまう。
沈黙。
凛花は、少しだけ考えて。
それから。
「そうかもね」とあっさり言う。
「でも」
少しだけ、近づいてくる。
「別にいいでしょ」
「……よくはないでしょ」
「なんで」
「だって、義姉妹だし」
その言葉で少しだけ、空気が変わる。
でも。
「それが何?」
迷いがない。
「家族だからダメってこと?」
「……いや」
言葉に詰まる。
「じゃあいいじゃん」
それだけ。
簡単に言う。
「私が好きで」
「お姉ちゃんも、私がいいんでしょ」
「……っ」
否定できない。
「それで十分」
そう言って。
そのまま、軽く肩に頭を乗せてくる。
「……ほんとに、もう」
小さく呟く。
でも、その重さを、払いのけることはできなかった。
(……まあ、いいか)
普通じゃなくても。
今は、この距離が、一番落ち着く。




