第22話 同じなのに、違う
(……覚悟してて、って何)
朝から、ずっとそれが頭に残ってる。
教室に入ると視線を感じた。
クラスメイトがざわついている。
でも。
(……もういいや)
昨日までみたいな焦りはない。
私は気にすることなく席に座る。
「七瀬」
「……何」
横を見る。
凛花。
いつも通りの距離。
いつも通りの顔。
「おはよ」
「……おはよ」
それだけ。
でも。
(……普通すぎる)
昨日のあれの後なのに。
「ねえ」
「何」
「ちゃんと考えた?」
「……何を」
分かってるくせに、聞き返す。
「昨日の」
「……考えてない」
嘘。
「そっか」
あっさり。
それだけ。
(……それだけ?)
もっと何か言われると思ってた。
「……何も言わないの」
「言ったじゃん」
「え」
「覚悟しててって」
「……それは」
「待つだけだよ」
少しだけ、笑う。
「選ぶのはお姉ちゃんだから」
「……っ」
それは、そうだけど。
でも。
(……なんか違う)
「ねえ」
「何」
「……昨日さ」
少しだけ、言葉を探す。
「落ち着くって言ったじゃん」
「言ったね」
「それってさ」
そこまで言って、止まる。
(……何聞こうとしてんの私)
「……何でもない」
やめる。
「何それ」
少しだけ、不満そうな声。
「別に」
視線を逸らす。
(……言えない)
自分でも、分かってないのに。
「ねえ」
少しだけ、トーンが落ちる。
「逃げてる?」
「……は?」
「昨日から」
「逃げてない」
即答する。
「逃げてるよ」
「逃げてないって」
少しだけ、空気が張る。
「じゃあ」
一歩、距離が詰まる。
「なんで、言わないの」
「何を」
「どう思ってるか」
「……だから分かんないって」
「分かんないで終わらせるの?」
「終わらせてない!」
思わず、声が強くなる。
「考えてるし」
「ちゃんと向き合ってるし」
「でも」
言葉が詰まる。
「……今は無理」
静かに、続ける。
「答えとか、出せない」
「……」
凛花は、少しだけ黙って。
それから。
「そっか」
小さく、呟く。
そのまま。
すっと、距離が離れる。
「……え」
初めて。
凛花の方から、距離を取った。
(……なんで)
「じゃあ」
何事もなかったみたいに。
「待つの、やめる」
「……は?」
「無理って言うなら」
視線が、合う。
「無理なままでいいよ」
「……っ」
「その代わり」
少しだけ、間。
「私も、好きにする」
「何それ」
「そのままの意味」
あっさり。
「もう、縛らない」
「……っ」
それ。
一番、言ってほしくなかったやつ。
「……別に、縛ってないし」
小さく言う。
「そう?」
少しだけ、笑う。
「じゃあ、いいでしょ」
「……何が」
「誰と仲良くしても」
「……」
言葉が、出ない。
(それは……)
嫌だ。
でも。
「……好きにすれば」
やっと、それだけ。
言った瞬間。
胸の奥が、少しだけ痛む。
「うん」
凛花は、あっさり頷いて。
そのまま、席に戻っていく。
取り残される。
「……何それ」
小さく呟く。
意味が分からない。
でも。
(……なんでこんな、モヤモヤするの)
答えは、出てるのに言葉にできない。
その日、凛花は、一度も近づいてこなかった。




