第19話 答えられない
(……絶対、広がってる)
まだ席にも着いてないのに、そう確信した。
視線が、昨日より多い。
というか、もう誰も隠す気がない。
「ねえ七瀬」
「昨日のあれさ」
「結局どういうことなの?」
(ほら来た……)
鞄を机に置きながら、小さく息を吐く。
「別に、何もないって」
「いやいや、無理あるでしょ」
「黒瀬さん、完全にあれじゃん」
「ね、付き合ってるんでしょ?」
「違うってば」
即答する。
でも。
(……ほんとに?)
一瞬、言葉に詰まる。
「じゃあ何なのって話じゃん」
「……それは」
説明できない。
(できるわけないでしょ……)
「七瀬」
「っ」
横から、声。
「困ってるみたいだし」
凛花。
「助けてあげようか?」
「……いい」
即答する。
「余計ややこしくなるから」
「そう?」
少しだけ、笑う。
「でもさ」
そのまま。
「誤魔化すの、無理だと思うけど」
「……っ」
図星。
「ねえ黒瀬さん」
クラスメイトが食いつく。
「七瀬のことどう思ってるの?」
(ちょ、やめてって……!)
空気が、一気に静まる。
凛花は、少しだけ考えるようにして聞き返す。
「どうって?」
とぼける。
「好きとか、そういうの」
「……っ」
心臓が、嫌な音を立てる。
(答えないで)
そう思うのに。
「さあ」
軽く、笑う。
「どうだと思う?」
「はぐらかすなってー」
「絶対好きじゃん」
好き勝手言われる。
(ほんとに、もう……)
「七瀬は?」
「え?」
いきなり振られる。
「黒瀬さんのこと、どう思ってるの?」
(なんでこっち来るの……)
言葉に詰まる。
「……別に」
やっと、それだけ。
でも。
「別に、って何」
「普通、じゃないでしょあれ」
(分かってるよ……)
「ねえ」
すぐ近くから、声。
「……何」
見ると凛花が声をかけてきた。
「昨日のこと」
「……何」
「考えた?」
「……考えてない」
嘘。
少しだけ、目が細くなる。
「へぇ」
分かってる顔。
「じゃあさ」
少しだけ、距離が近づく。
「今、考えて」
「は?」
「ここで」
「無理に決まってるでしょ」
「なんで?」
「なんでって……」
言葉に詰まる。
周りに人いるし。
でも、それだけじゃない。
「……分かんないから」
気づけば、口にしていた。
一瞬、静かになる。
「何が?」
「全部」
小さく、呟く。
「意味分かんないし」
「なんでああなるのかも分かんないし」
「普通じゃないのも分かってるけど」
言葉が、止まらない。
「……嫌じゃないのも、分かんない」
「っ」
言った後で、気づく。
(……何言ってるの私)
周りがざわつく。
でも、もう止まらない。
「だから、無理」
それだけ。
束の間の静寂が訪れる。
凛花は、少しだけ目を見開いていた。
それから、「そっか」と小さく、笑った。
「いいよ」
「え」
「分かんないままで」
一歩、距離を詰める。
「その方が、楽だし」
「……何それ」
「だって」
すぐ近くで。
「そのうち、分かるから」
「……っ」
また、それ。
「逃げてもいいよ」
小さく、続ける。
「でも」
ほんの少しだけ、間。
「逃がさないけど」
「……っ」
心臓が、大きく跳ねる。
何も言えない。
ただ、逃げられないってことだけは、はっきり分かってしまった。




