第18話 誤魔化せない距離
朝の教室に入った時、ざわっと空気が揺れた気がした。
(……気のせいじゃないよね、これ)
昨日のこと。
絶対、もう広がってる。
席に向かう途中で声を掛けられる。
「七瀬」
「っ」
呼ばれる前に、分かる。
「おはよ」
振り向く。
凛花。
「……おはよ」
それだけ。
それだけなのに。
距離が、近い。
(いや、もう隠す気ないでしょこれ……)
そのまま、当たり前みたいに隣の席に腰を下ろす。
「ちょ」
思わず声が出る。
「何」
「そこ、私の席じゃないし」
「いいじゃん、別に」
「よくない」
でも、動く気はないらしい。
「……ほんとに、もう」
小さくため息をつく。
周りの視線が、痛い。
「ねえ」
「何」
「昨日のこと」
「……何」
「覚えてる?」
「……覚えてるけど」
「じゃあ、いいよね」
「何が」
そのまま。
ほんの少しだけ、距離が詰まる。
肩が、触れる。
「……っ」
(だから近いって……)
でも、離れない。
「やっぱり近いって!」
後ろから声。
「ねえ、それ普通じゃないでしょ!」
「昨日よりひどくない?」
好き勝手言われる。
「別に」
凛花は気にしない。
「これくらい普通だし」
「普通じゃないって!」
「七瀬、どう思ってんの?」
「え?」
また振られる。
(なんで毎回私なの……)
「どうって……」
言葉に詰まる。
普通じゃない。
でも。
「……別に」
結局、それしか言えない。
「でしょ?」
すぐに被せられる。
逃げ場がない。
「絶対なんかあるってー」
「付き合ってるとか?」
「は!?」
思わず大きな声が出る。
「違うって!」
即否定。
そのはずなのに。
「……そうなの?」
横から、声。
「っ」
凛花。
「違うの?」
まっすぐ、見てくる。
逃げ場がない。
「……違うでしょ」
なんとか答える。
でも。
「へぇ」
小さく、笑う。
そのまま。
「じゃあ」
ほんの少し、顔を寄せる。
「何なの?」
「……っ」
言葉が、出ない。
周りの空気が、一気に静まる。
「ねえ」
小さな声。
でも、はっきりと。
「私のこと、どう思ってるの?」
「……っ!」
心臓が、強く跳ねる。
(なんで、ここで……)
周り、いるのに。
「答えてよ」
「……無理」
やっと、それだけ絞り出す。
「今は」
「……そっか」
あっさり。
でも。
「じゃあ──」
少しだけ、間を空けてから続ける。
「考えといて」
「……は?」
「そのうち、ちゃんと聞くから」
ざわつきが戻る。
「ちょ、今の何?」
「ほぼ告白じゃん」
「やば……」
(ほんとにやめて……)
顔が熱い。
「……何なの、ほんと」
小さく呟く。
すると。
「さあ?」
隣で、楽しそうな声。
「でも」
少しだけ、トーンが落ちる。
「もう、誤魔化せないでしょ」
「……っ」
何も言えない。
そのまま。
ほんの少しだけ、肩に触れる。
「逃げないでね」
「……」
否定できなかった。




