第12話 守られない約束
玄関のドアを閉めた瞬間、私は大きく息を吐いた。
「……はぁ」
ようやく、気が抜ける。
学校ではずっと張り詰めていたせいか、肩が重い。
靴を脱いで、リビングの方へ向かおうとした、その時だった。
「おかえり、お姉ちゃん」
「っ!?」
反射的に振り向く。
そこにいたのは、当然だけど───凛花。
家の中だというのに、制服のまま、当たり前みたいな顔で立っている。
「ちょっと……!」
私は慌てて距離を詰めて、小声で抗議する。
「学校でああいうことするのやめてって言ったよね!?」
「“話しかけるな”とは言われたけど、“お姉ちゃんって呼ぶな”とは言われてないよ?」
さらっと、とんでもないことを言う。
「そういう問題じゃないから!」
声が大きくなりかけて、慌てて抑える。
……誰に聞かれるか分からない。
「バレたらどうするの……」
「別に、バレてもいいけど?」
「よくない!」
即答だった。
凛花は、少しだけ楽しそうに目を細める。
「お姉ちゃん、必死だね」
「……っ」
完全にからかわれている。
「私は普通にしてるだけだよ?」
「どこが!?」
耳元で“お姉ちゃん”なんて囁いておいて、それは無理がある。
「だって、本当のことだし」
「それは……そうだけど……!」
言い返せないのが悔しい。
血は繋がっていないとはいえ、戸籍上はもう家族だ。
「でも、学校ではダメ。絶対ダメだから」
念を押すように言うと、凛花は少しだけ首を傾げた。
「……じゃあ、家ではいいの?」
「え」
一瞬、言葉に詰まる。
家ではいいのかって、そんなの───
「それは……」
視線を逸らす。
はっきり否定できない自分がいる。
凛花はそれを見逃さなかった。
「ふーん」
にやり、と小さく笑う。
「じゃあ、家ではいいんだ」
「ち、違っ……!」
否定しようとした、その瞬間。
「お姉ちゃん」
まただ。
さっきよりも近い距離で、自然に呼ばれる。
今度は逃げ場もない。
「……っ」
顔が熱くなるのが、自分でも分かる。
「ほら、やっぱり」
「な、何が……」
「嫌じゃない顔してる」
「してない!」
即否定。
でも、声が少しだけ揺れてしまった。
凛花は満足そうに頷くと、くるりと背を向ける。
「ご飯できてるよ、お姉ちゃん」
最後まで、その呼び方をやめないまま。
「……ほんとに、もう……」
小さく呟く。
でも───
完全に嫌だとは、言い切れない自分がいた。




