第11話 その呼び方は家だけで
教室の空気が、少しだけおかしい。
原因は分かっている。
───凛花だ。
「七瀬。今、凛花に見られてなかった?」
クラスメイトが、私と凛花を交互に見比べる。
「そんなわけないじゃん。黒瀬さんが私を見てるなんて。有り得ないよ」
「まぁ、それもそうよね」
どうやら信じてくれたらしい。
……そう、思ったのに。
視界の端で、凛花がこちらへ歩き出すのが見えた。
(お願い……今だけは来ないで)
さっき、ようやく「何もない」って空気を作れたのに。
ここで来られたら、全部台無しになる。
「七瀬さん───」
来た。
「何か用ですか?黒瀬さん」
出来るだけ、よそよそしく。
他人行儀に。
「───ノート、見せてもらえる?」
一瞬、意味が理解できなかった。
「え……ごめん、今なんて言った?」
「ノート、見せてもらえる?」
……聞き間違いじゃない。
「分かりました」
平静を装って、日本史のノートを差し出す。
「ありがとう───」
凛花はそう言って、ノートを受け取った。
───その直後だった。
彼女の顔が、すっと近付いてくる。
耳元に、息がかかる距離。
そして、小さく。
「───お姉ちゃん」
「っ……!?」
理解が、追いつかない。
けど、心臓だけがやたらとうるさい。
耳元でのその一言は、反則だった。
破壊力が、あまりにも高すぎる。
私はその日一日、まともに凛花の顔を見ることが出来なかった。
「……家帰ったら、ちゃんと話さないと」
ぽつりと呟く。
「───義妹と」




