第10話 話しかけないでって言ったのに
凛花が七瀬家に引っ越してきて2日が経った。
休みだったこともあり特に何事もなく今日まで過ごせている。
「凛花、学校では家みたいに馴れ馴れしく話しかけてこないでよ?」
念には念を押す私。
「えぇ、話しかけたらダメなの?」
「ダメ!クラスメイトに驚かれるよ」
「話しかけたいのに」
凛花が不満そうに言う。
私だってできるなら普通に話したい。でも、急に距離が近くなったなんて思われたら面倒なことになる。
「分かった。話しかけないようにするよ」
分かってくれたらしい。
……この時の私はまだ知らない。
この選択を後悔することになるなんて。もっと念を押しておけばよかったと。
* * *
教室に入ると、いつも通りの空気が広がっていた。
その中で目立つのはやっぱり凛花だ。
クラスで一番の美少女。誰もが一度は目で追う存在。
本来なら、私とはほとんど関わりのない人。
「……」
視線を感じる。
はっきり分かるくらいに。
そっちを見ると、凛花がこっちをじっと見ていた。
目が合う。
その瞬間、にこっと笑ってすぐに視線を逸らす。
「……は?」
なに今の。
話しかけないって言ったよね?
なのにあの“知ってる人に向ける顔”は何?
「ねぇ七瀬、今の見た?」
隣の子が小声で言ってくる。
「え、なにが?」
「いや、凛花。あんたのこと見てたじゃん」
「気のせいでしょ」
そう言ったけど、多分誤魔化せてない。
何人かがこっちと凛花を見比べてる。
(ちょっと……何してくれてんのよ……)
もう一度見ると、今度は少し楽しそうな顔でまた目が合った。
――完全にわざとだ。
「……」
話しかけない。
確かに約束は守ってる。
でも。
(そういう問題じゃないでしょ……!)
この時、私は確信した。
こいつ、絶対面倒くさい。
そして同時に、“話しかけない”という選択が間違いだったことにも気づき始めていた。




