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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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7/22

本当にゲームの中だった 3

「うぅ、授業わかんない…」


七海は唸っていた。補習のことを告げられ、フェルディアークが七海の教室にやってきてから一晩が経った。今朝やってきてみれば七海の姿を見た貴族科の生徒は学年を問わず顔をそらした。

そりゃそうですよね、と七海は嘆息した。だがそんななかでも、完全に七海を見ようとしない生徒がいた。


「NPCとそれ以外の差ってなんだろ…昨日のフェル様もだけど、自我があったみたいに動くし…全部が全部ゲームみたいにはいかないのかな…」


もしも、全員がコンピューターによるモブではないのならば、ユズフィーナの冤罪を晴らすこともできるのかもしれない。ユズフィーナ関連のイベントが起きるのはフェルディアークの好感度が次の段階になったときだ。

だが、昨日のフェルディアークの好感度メーターを思い出してみる。溜まるのが早い。

もし誘われていた夜会に行ったとしたら、下手するとそこでイベントが起きる。やはり定番はユズフィーナの取り巻き令嬢たちによる嫌がらせだろうか。ジュースをかけられたり、ドレスを破かれたり、平民であることをバカにされたり、とするのだろうかと七海はむしろわくわくしていた。


「ほら、あの子」

「平民だろ。どうやって王族に取り入ったんだか」

「そもそも一般科ならともかく貴族科に入ったのがおかしいのよ」

「シグルド先輩にも話しかけてるの見たし」

「この前なんてユズフィーナ様と殿下の逢瀬を邪魔したと聞いたわ」


悪意しかない言葉が聞こえる。七海は一度だけ動きを止めた。ゲームをしているときには見えなかった悪意だ。

七海は顔を上げて自分を遠巻きに見る同級生を見た。


「そうです、私は平民ですよ。ちゃんとした教育もできてないし、なぜかフェル様と仲良くなったところからはじまったけど、学業おろそかにするつもりはないんで!平民だからってバカにしてるような人達が貴族として上に立つなんて信じられないです」


言い切ればぷいっと顔を背ける。こんなことを口にしては友達などできないだろうと少し反省するが、ガイクスのことも思い出した。平民だが、貧民というわけではない。だが、貧民がまったくいない、というわけではないだろう。ゲームのなかでは見えなかったが、もしかしたら今は見えてしまうかもしれない。貴族と平民の対立は、身分差がある以上仕方ないことなのかもしれない。

だが、ヒロインならばそれもまた変えられるのかもしれない。でも、七海は彼らの意識改革をするためにここにいるのではない。七海の一番はユズフィーナだ。そこはブレない。


「ひとまずは補習だ!フェル様との街歩きはその後でまた悩もう。よし!」


七海の補習は図書館で行われるらしい。学園棟の隣に円形の研究棟がある。そのなかの三フロアが図書館扱いだった。入り口で杖を翳して入館、補習の場所も書かれていた。


「三階の個室…ふむふむ…二時間」


天井まで棚がある。ぎっしりと本が詰まっており、七海からしてみると目的の本を探すだけで一日使ってしまいそうだと思った。分類されてはいるのだろうが、タイトルからではどんなジャンルの本なのかさっぱりだった。

階段を二度上り、個室を探す。書架の間はずいぶんと広く取られ、手にした本を置けるスペースもある。

研究棟の中心部は吹き抜けになっている。奥の壁側に個室はあるようで、ドアが開く音とともに生徒が出てくることがあった。気配も音もしないため、歩みを進めた先の書架から突然出てくると悲鳴を上げそうになる。


「えっと…部屋がわからん」


補習の用紙を見つめた。部屋番号がない。不親切ではなかろうかと思ったが、ある書架のそばへきたときに手にしていた用紙が光る。用紙に、本日の補修部屋、と文字が浮かぶ。七海が足を止めると、左手側から鍵の開く音がした。顔を音がしたほうに向けるとドアが一つ、開いていた。七海は吸い寄せられるようにしてドアの前に行く。


「…こんにちはー…」


ドア越しに声をかけた。薄暗く思えた室内に光が灯る。個室は四人程度が入って余裕がある広さだった。テーブルに本が載っている。誰かの影も見えた。


「あの…」

「どうぞ、入ってください」


澄んだ声だった。七海は静かに室内に入る。テーブルに七海と同じく貴族科の制服を着た青年、というよりは少年が一人座っていた。彼は自分の前に置かれた本を三冊程度開いて読んでいたが顔を上げると七海をまっすぐに見つめた。

薄葉色の髪と赤紫色の瞳、七海よりも一つまたは二つ下と思わしきどこか幼い容貌…見たことある。だが、本来ならばまだ今の時点でヒロインであるリリアと出会うはずのない人間だ。


「ユニフェ=ハッシュヴァルト……生徒会長がなんで?!」

「なんで、と言われましても、先生方からあなたの教師役をしてくれないかと言われたからです。座ってください、七海=リリアさん。時間は有限ですから、手早く済ませましょう」

「は、はい」


七海は勢いに飲まれつつ彼の隣に腰を下ろす。セレンスティア学園で生徒会長を務めているユニフェ=ハッシュヴァルトは、リリアよりも二つ下であるが、学年では一つ上であり、飛び級で学園に入学したことが知られている。非常に頭がよく、魔術と魔法の才もある。新しい魔術理論を構築したと言われており、セレンスティア国にある魔法塔の次期塔主(マスター)に史上最年少でなるのではないかと言われている。七海よりはるかに頭がいい。


「ひとまず今日は基礎の魔法概論から行きます。わからないところは聞いてください。きちんと理解しなければその先へは進めませんから」

「はい…」


ユニフェがいったいどういう流れで七海の補習を引き受けることになったのか気になる。

ゲームの中のユニフェと出会えるのはストーリーが半ば近くなってからだった。もともと生徒会長ということで多忙な彼に会うために学園中を奔走し、いろいろ問題ごとを片付けたうえでようやく出会えたのだ。

ユニフェは七海がノートをとっていくのを見ながら一つずつ丁寧に項目を説明していく。


「…え、わかりやす…」


ぽつりとつぶやいた。教師の説明ではわからない部分が頭にスルスル入ってくる。飛び級も、最年少での塔主抜擢も口だけではないらしい。七海は瞳を輝かせてユニフェを見る。

赤紫の瞳も理知的な色に見えてくる。


「聞いてますか?」

「うん!すごい!わかりやすいよ」

「…」


ユニフェは黙る。七海は何か地雷でも踏んだかと身構える。だが、ユニフェは再び口を開いて説明を始めた。七海が簡単な問題を解く間にどうやら生徒会長としての仕事をしているらしい。横目でユニフェを見る。まつげが長いと感心した。考えるときに手を口元に持っていく。


「できましたか」

「うん!魔力って生命力とイコールになるんだね?」

「えぇ。なので、疲れ切っているときには使えないと思ってください。なんなら限界まで使うと死にます」

「生命力って年取ると減るよね?じゃあお年寄りのほうが弱くなるの?」

「必ずしもそうとは言えません。魔法も魔術もつかうたびに自分がどれだけの出力でどれだけの力を出せるか体が理解しだすからです。つまり」

「最小の力で最大の力を出せる?」

「はい」


おぉ、と七海はつぶやく。きらきらと輝く顔をユニフェは見つめた。素直なのか単にバカなのか、ユニフェには判断がつかない。

こほん、と小さく咳払いをしてからユニフェは次に取り掛かる。二時間は長いと思っていた七海だが、ユニフェの話が分かりやすかったせいかあっという間に過ぎてしまった。


「次は…二日後ですね」

「うん、またお願いします!」

「宿題を出しておくので、この本のここから、ここまでをちゃんと読んでいてください」


ユニフェは七海に本を差し出す。栞が二つ挟んであるが、その間のページはなかなかに多い。本を読むことは苦ではないが、中身が難しいならば話は別だ。

眉を寄せる七海だが、ただでさえ忙しい生徒会長に勉強を教えてもらっている手前、嫌だとは言えない。うなだれながら本を受け取り、かばんにしまい込んだ。


「次は、概論の続きで魔力要素についてお話ししますので」

「はぁい…」


宿題が、としょぼしょぼする。ユニフェは何も言わずに七海を見ていたが、自分の杖を出すと一振する。片付けられた机の上に茶器が出てきた。ポットからは湯気が立つ。


「これは」

「魔法と魔術の応用です。魔法は世界に干渉する力ですから、僕の私室から茶器を準備しました。茶器には茶葉をいれると自然とお湯が生まれ、沸騰するように魔術を組み込んでいます。なので僕の魔力を注ぐだけで準備ができます」

「ほへぇ…」


わかっていない様子の七海にため息をこぼしてからユニフェはカップを一つ取る。ポットから琥珀色の紅茶を出すと七海の前にソーサーとともに置いた。


「私に?」

「頭を使ったでしょう。砂糖をいれずとも甘い紅茶です。本当は食べるものもあったほうがいいのですが、一応、飲食はだめなので」

「紅茶…」

「紅茶だけは目溢しします。僕は生徒会長ですから…ご褒美があったほうがやる気もでるでしょう?」

「出る!うれしい!いただきます」


軽く息を吹きかけて冷ましてから飲む。口の中いっぱいに花の香が広がった。七海の顔がほころぶ。


「おいしー…生徒会長、なんでもできる…すごい」

「なんでも、というわけではありません。魔法も魔術も才能や術式理解が必須ですから」

「才能…じゃぁ、フェル様とかユズフィーナ様は才能ばりばりありそうだね」

「そうですね。あのお二方は天才的です。もはや感覚で魔法を使っていると言っていい。それに殿下には光属性の加護、ユズフィーナ様には水属性の加護もありますから、どちらも無詠唱でより強い魔法を打ち出します」

「加護って?」

「…次の授業にしましょう。終わらなくなると思うので」


ユニフェは七海の問いかけを静かに制止して紅茶を飲む。飲み終えるまでの間二人の会話はなかった。


「ごちそうさまでした!」

「それでは、僕はこれで」

「生徒会長、ありがとう。また次もお願いします」


部屋を出かけていたユニフェは足を止めて七海を振り向く。七海はにこにことしていた。


「…ユニフェ、でいいです。生徒会長は役職名であって名前ではありませんから」

「え、いい…の?」


ユニフェの周りに花が散る。好感度が上がった。なぜ、と思うまもなく、ユニフェは七海を部屋に残して出ていってしまった。好感度メーターはフェルディアークだけ。だから好感度が上がるとしたら彼だけのはずなのに、ユニフェに花が見えた。

七海は自分がゲームの中にいるのか、それともたしかに生きてる人間が存在する世界にいるのかわからなくなっていた。

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