Side 幼馴染
「え、ガイクス、将来は魔導技師になるの!?」
「そう!だって俺の父ちゃんもじいちゃんも魔導技師だからな」
「えー…地味」
「地味とか言うなよ。リリアの生活だって魔導具があるからできてるんだぞ」
頬を膨らませて言うと蜂蜜色の髪を揺らした彼女は少し考えるように上を見た。ガイクスのいじる魔導具には欠片も興味を持たない。
「わかった!じゃぁ、リリアがいい貴族の人を見つけたらガイクスが作った魔導具売り込んであげるよ」
「お前そんな事ができるほど器用じゃないだろう」
「できるよ!」
―――――――
「ガイクス!聞いてよ、私セレスティア学園に通うことになった!」
「は?なんで。お前は一般科の入学規定満たしてないはずだろう?」
「この前街でカルツが貴族の人を怒らせたって話したじゃない?」
「あいつが貴族にぶつかって、持ってた冷菓子を服につけたってやつ?」
「うん。そのときに貴族の人がカルツに魔法を打とうとしてね」
「待て。それは聞いてない」
テンションが高いリリアを一度止める。聞いてない。本当に聞いてない。周りからもリリア本人からも。
近所の子供であるカルツと貴族とのいざこざは小耳に挟んでいたが、まさかそんなことになっていたとは思いもしなかった。
「言ってなかった?まぁ、今話したってことで!それで」
「進めるのかよ」
「私がカルツをかばったら、その貴族の人の魔法が消えちゃったの」
「お前、平然と危ないことをするな」
さらに俺が聞いてもなかったことをリリアは口にした。お気楽と言うか、ずれているというか。
魔法を打たれたのに怖がってない。貴族の使う魔法は本人の修練具合によって強さが異なる。リリアに向けられた魔法が弱かったのかもしれない。中途半端だったのかもしれない。
無傷で良かったと思う。
「そうしたらこの前学園から人が来てね。私に特別な力があるから、学園で学びなさいって」
「特別な力?」
「うん。何のことかわからないけど、私も学校行けるよ。ガイクスも行くんだよね」
「あぁ…」
リリアは嬉しそうに笑う。その後しばらくして俺とリリア宛に学園から荷物が届いた。
制服と教科書一式、各自購入するもののリスト。
学園では寮生活になるため、ある程度私服を持ってくるようにとの通達もあった。
リリアの制服は白地に青いラインのもの。貴族科だった。
「どうして!?」
「リリアの力が貴族の目にとまったのかもしれない」
「リリアは俺と同じで平民だろ。お貴族様が受けているような教育なんて受けちゃいないんだ。それなのに貴族科なんて入ったらいじめの的だろ!」
「そうかもしれないが、学園が決めたことに平民が口を出すわけにはいかない」
親父もじいちゃんも首を振った。リリアだけはずっと笑顔だった。
貴族とつながりを作ることができたら、俺の家の魔導具を売り込めると本気で思っているのだろうか。
もちろん願ったりかなったりだ。だがそれは、リリアがほかの貴族にいじめられた結果できたつながりだとしたら、素直に喜ぶわけにはいかないだろう。
「あ、ガイクスー!私貴族科だって」
楽観視しているリリアはちゃんと貴族社会のことをわかっているのだろうか。不安だった。
そして、その不安はすぐに的中した。
「平民が貴族科に」
「殿下やシグルド先輩に声をかけているらしいわ」
「厚かましい…これだから平民は」
時折聞こえてくる貴族科の生徒の声が嫌でも耳につく。
リリアは一体何をしているんだ。勉強も苦手なのに、ついていけてるのか。
誰か助けてくれる相手はできたのか。
一般科と貴族科の壁は高い。
踏み込むわけにもいかなかった。助けることもできず、俺はただリリアの様子をほかの生徒の噂でしか知ることができなかった。ただ時折じいちゃんたちが技師の合間に運営している学園内の店の手伝いをしていると、リリアの姿を遠目に見ることができた。
リリアはいつも一人だった。
遠巻きに様子を見ることしかできない自分が嫌になる。声をかけようと思って動いてもその瞬間にほかの生徒に声をかけられる。対応している間にもうリリアの姿は消えている。
「話せなかったな…」
どうしているだろうか。元気だろうか。いじめられていないだろうか。幼いときから一緒にいることのほうが多かった彼女のことが心配になる。
貴族科に突撃してリリアに会いに行こうかと考えていたある日のことだった。店の手伝いで荷運びをしていたときに走ってきたリリアにぶつかった。学園に入ってから話せたのは久しぶりだった。
「…リリア…」
顔を上げたリリアは目を丸くして、それから笑う。だが、ふと違和感を覚えた。なにに違和感があったのかわからない。だが、ガイクス、と呼ぶ声は変わらない。
小さなしこりは俺のなかに残り続けた。
俺が知るリリアなら。
王族といようもんなら興奮してテンションがあがって落ち着かなくなる。
貴族とすぐに仲良くなれるはずもない。
誰かのために危険に向かおうとしない。
疲れたら甘える。
なのに、目の前のリリアはどれも違った。リリアのはずなのに、彼女とはどうしても重ならない。学園に入って変わったのだと言われればそれまでだ。だが、半年程度で変わるものだろうか。
どうしようもなく積み上がった、些細な違和感はやがて決壊した。
「お前は、誰だ」
リリアが驚いたように俺を見て、それから痛みをこらえるように顔を歪めた。




