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幼馴染補正つきの悪友

七海は魔法や異能力を使うような学校でも体育はあるのだろうかと思っていた。

いくつもある広い校庭は一般、特別クラスに関係なく利用できるらしく、種々様々な部活動にも利用されていた。

本日七海のクラスは高跳びをしていた。能力を扱うためにある程度身体能力も必要ということである。

乗馬とかでなくてよかった、と七海はほっとしていた。

インドア派であるためか運動系苦手と思われがちではあるが、体を動かすことは嫌いではない。

今日も軽々とクラスの中で一番の高さを飛んでいた。飛び終わった七海を出迎えたのはフェルディアークだった。


「ナナミ、すごいじゃないか。あんな高さの棒を軽々と飛んでしまうなんて…」

「…フェル様、学年違いますよね」

「窓の外を眺めていたら君が見えた。あまりにもきれいな飛び方だから窓から出てきた」

「窓…?」


ヒロインの二つ上、最高学年であるはずのフェルディアークの教室は校舎の最上階、七階ではなかったか。

七海は無言で校舎を見上げる。

七階の窓の内一か所から生徒たちが顔を覗かせていた。間違いなくフェルディアークの教室である。

何故だ。


「ケガはされてませんか」

「風を呼んだから大丈夫だ。問題などあるはずもないだろう?」


にこにことして他愛もなく彼は告げた。

上位の能力者であり様々な力を使えるフェルディアークには造作もない事だった。


「ナナミ、とてもかわいかったよ。飛んだ瞬間の足の曲がり具合と背中の反り具合がプロでも決まらないほどに完璧で美しかった」

「いや、はい、あの、フェル様、そろそろ授業に戻るべきでは」

「授業より君を見ていたい」


いや授業に出ろよ、と七海は心内でつぶやいた。

後ろから抱きしめられていては授業に集中できないし何より教師側も眉をひそめている。


「フェル様…」

「どうした、ナナミ」

「お願いですから授業受けさせてください」

「どうしても?」

「どうしても、です」


授業の評価もキャラクター好感度に反映される。

フェルディアークなどはそれが顕著だ。だからこんなところで授業の成績を下げるわけにはいかないのである。

ぐいぐいと押しのけていればフェルディアークは七海のつむじに口づけて離れた。少し目を丸くして見上げてみればニコニコとしていたがどこか寂し気な空気すらある。


「またどこかで時間が空いたら会いに行くのでおとなしく授業を受けてください」

「本当かい?うれしいな」

「本当です。だから」

「戻るよ、ナナミ。またあとでね」


ちゅ、と音がした。

周りからきゃーっと声が上がる。七海は少し魂が抜けた。呆然とした七海を置いてフェルディアークは再び風に乗って自分の教室へ窓から入っていく。

顔を抑えてしゃがみこんでしまった七海がそのあと同級生から注目の的になったのは言うまでもない。


「そもそもゲームの中でここまでされていたっけ?ストーリーにないから知らないだけ?フェル様との好感度すごく高い気がする…」


七海は授業の合間に一人ぶつぶつとつぶやきながら廊下を進んでいた。

ガイクスに会って話をしなければならない。今いる場所はどこだろうか。

ガイクスのルートに入らない場合大抵はいろいろ備品や食品を売っている売店にいるはずである。

売店とはいっても小ぢんまりしたものではなく、学園内にあるそれはショッピングモールと同じ程度の広さを持っている。

学園内でその大きさだが、寮内にも売店はある。しかしそちらのほうは何か所かに分かれており、コンビニと似た面積で展開している。


「ガイクス、いる?」


売店につけばまずはレジに向かう。品出しは終わっているであろう時間帯のためいると思われるのがそこだった。

しかしガイクスはいない。

おや?と首をかしげてから軽く売店の中を見て回る。

軽食や文具、魔法雑貨などが多々並んでいる。必要であれば制服や書籍の取り寄せなどもできるらしい。

通常も生徒でにぎわっているため様々なうわさ話が飛び込んでくる。ガイクスはそういったものをよく聞き覚えていた。


「あれ、ナナミじゃん。どうした。腹でも減ったか」

「違うわよ、ガイクス。あなたに会いに来たの」

「俺に?そんなこと言ったらお前にほの字のフェルディアーク様に襲われない?大丈夫?」


笑いながら告げられた言葉に七海はほほを染めた。おや、とガイクスは動きを止める。

フェルディアークに惚れられてから七海への気持ちに蓋をしていたがこれはもしかしたら脈ありなのかもしれない。

途中だった品出しのお菓子を適当なところに置けば七海の顔を下から覗き込んだ。


「って、やっぱり笑ってんじゃねぇか」

「当たり前でしょう。フェル様はそんなことしないし、ガイクスは私の大事な幼馴染じゃない」


幼馴染、という部分に強調が入った気がする。

ガイクスは大げさにため息をついてから棚に置いたお菓子を再び手にした。

言葉を発した七海当人はなぜガイクスがため息をつくのかはわかっていないようである。


「それで、買い物じゃなさそうだけど何の用事だ?」

「ユズフィーナ様の今の時点で得られる情報が欲しい」

「は?あの高慢ちきなご令嬢の情報?なんでそんなものを」

「ユズフィーナ様は確かに厳しい性格してるけど決して高慢ちきなんかじゃないのよ?!少し口がよくなくて自分の考えをまっすぐに話されて、その上見た目も少し高圧的だからみんな誤解してるだけなのよ」

「お前、わりとひどいことを言っているぞ?」


七海ははっとしてから咳払いし姿勢を正した。

ガイクスはその様子にまじめな話なのだと悟る。


「目の前でひどい目に合うってわかっている人がいるのに見て見ぬふりはできないよ。だってその人のこと、私大好きだもん」

「お前、そんなこと言う性格だったか?」


ガイクスは目を丸くする。

自分が知っていた彼女はおとなしく、まじめで努力家だった。だが、まかり間違っても誰かのために動くような性格はしていなかった。

この学園にきて文字通り人が変わったかのような彼女を見つめてガイクスは噴出した。


「仕方ないな。やってやるよ。惚れた弱みだ。何が知りたい」

「ユズフィーナ様の家柄、取り巻き、その取り巻きが私について流している悪い噂。ほかの人たちとの関係性」

「多いな」

「できない?」

「できるよ。お前のためだ、やってやる」


ガイクスの手が七海の頭に触れた。

くしゃっとかき乱され顔を上げた時にはもうガイクスはほかの生徒に声をかけていた。

ユズフィーナの情報を集めて対策を練らなければならない。このあと七海もといヒロインは彼女からいじめられだす。

実際いじめを行っていたのはユズフィーナではなく、彼女の取り巻きたちだった。しかしフェルディアークからヒロインへのいじめに関して弾劾されたとき彼女は否定をしなかった。

だからこそ彼女は国外追放となったのだ。

どうして自分ではないと言わなかったのかと考えてすぐに答えに行き当たる。

『誰にも信用されていなかった』からだ。

ヒロインをいじめるという存在であるだけで彼女は周囲に信頼されることなく学園生活を送ってきた。

取り巻きがいてもどれだけ寂しかっただろうかと七海は考える。彼女のことだから、気にしないわ、と言いそうであるが七海は何としても彼女を救いたかった。


「待っていてね、ユズフィーナ様!笑顔で卒業を迎えられるように頑張るから!」

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