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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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side 生徒会長

「空の魔力というのは、神代にいた神々の中でも異質な神の力だそうです」

「ほかの神との違いは」

「無力化」

「無力…?」

「燃え盛る炎も消え、荒れ狂う嵐も鎮まる…そうした力のようです」

「ってことは、加護持ちの俺たちの力ですら消す?」

「おそらく」

「へぇ…」

「リリアさんが学園にくるきっかけというのも、貴族の魔法を消したから、だそうですし…ただ、それが本人の意思で使えるものかどうかは、また別の議論がいるかもしれません」


フェルディアーク殿下は目の前で足を組み替えた。手を口元に充てて少し考えこんでいる。令嬢たちが口を揃えて言う美貌を少しかげらせている。

壁際に立つシグルド先輩は面白そうに笑っていた。実際笑いごとではないのだが、この人にとっては退屈しのぎの一つでもあるのかもしれない。



生徒会室は私と殿下、先輩の三名しかいない。

話し合う事柄は新入生、リリアさんのことだ。平民である彼女に、あってはいけない力が見受けられた。ゆえに学園に連れてきて監視と力の制御について学ばせるのだという。



「そもそも今年は星辰祭(せいしんさい)もあるというのに、あれもこれも構っていられません」

「…そうだな」

「星辰祭…ユニフェは裏側がはじめてか」

「そうですね。昨年は生徒会にはいませんでしたから」

「気負うことは何もない。ユニフェならば問題なく更新できるはずだ」

「殿下はいいですね、王や王妃様とともに魔力を流すだけですし」


棘のある声音だが、フェルディアーク殿下は苦笑いだけで済ませた。実際そうなのだから仕方ない。一番苦労するのは私だ。



「ユニフェ、リリアの補習をやるらしいな」

「えぇ…さすがに留年、となっては事情を知る先生方も頭を抱えてまして。文字の読み書きができないわけではありませんが、何分魔力の使い方がなってないのと、平民育ち故に貴族が知る基礎を知らないのがいけないようです」

「そうか…」


殿下は考え込む。平民にも貴族と同等の教育を、なんて難しい。彼らは生きるのに必死だ。余計なことはできない。

だから平民育ちの彼女のための補習内容を考えた。私のノートをシグルド先輩が手にとって中身を見る。貴族の子弟であれば、学園に入学する前には終えている単元だった。

ぱらぱらとノートをめくりながら、先輩はふむ、とつぶやく。


「…これ普通に売れるな」

「売らないでください。ただでさえ激務の合間に作っているんですから」

「生徒会長って大変だな」

「学園の騎士団ほど肉体労働ではありませんけどね」


笑うシグルドはノートを返してきた。


「あいつ、面白いな。フェルディアークと教室行った時もそうだけど、貴族の子女なんかよりずっと面白い。普通王子がやってきて、声なんてかけた時にはぶっ倒れてもおかしくないだろうに」

「本当に。新鮮だった」


二人の先輩は笑う。元が平民ゆえに王子と顔を合わせることも少ないのだろう。

入学したての時入学式で遠目から彼女を見た。緊張に固まっていた姿が、現状どうだろう。流れてくる噂では、フェルディアークに色目を使っただの、シグルドに媚びただの、挙句私に対しても成績の優遇を頼んだ、というような根も葉もないどころか、一体発生源がどこなのだと聞きたいようなものばかりだった。


「…殿下」

「どうした、ユニフェ」

「ユズフィーナ様と彼女の噂は」

「知っている。ユズフィーナが、彼女に対して嫉妬しているとか。ありえない。比べようもないだろう」


殿下の許嫁であるユズフィーナ様は、モルガナ侯爵家の一人娘で生まれた時から殿下の許嫁となることが決まっていたという。フェルディアーク殿下がたとえリリアさんにご執心であろうとも、将来的に彼女が王妃になることなどない。

そもそもが平民と王族だ。身分の差はたやすく超えられるものではないことぐらい理解しているだろう。


「学園の平穏が乱されるようならば、ユニフェ」

「わかっています。侯爵令嬢であるユズフィーナ様の名に傷がつかないようにしますから」


殿下が一瞬動きを止めた。その顔の表情がわずかに変化した。


「…あぁ、そうしてほしい」

「殿下は、かの令嬢のことを大切にされているんですね」

「そう見えるか?」

「えぇ」


笑顔ではあるが、心から笑っているわけではない。

殿下の心がどこにあるかなど分かるはずもない。殿下とシグルド先輩はその後ほかの仕事があるからと出ていく。

一人残った室内で、リリアさんのための補習用ノートを見た。

初回を行わなければリリアさんの理解する速さが分からない。

私も文献でしか読んだことのない空の魔力とはどんなものなのだろうか。リリアさんの人柄も気になる。

平民でありながら貴族科に入ってしまったがゆえに肩身の狭い思いをしているかもしれない。助けることはできないが、少し手を差し出すぐらいは許されるだろう。


「…せめて今年一年平穏であればいいのですが」


小さな願いすらたやすく壊されてしまうなど、この時の私は微塵も考えていなかった。

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