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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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課外授業でドキドキパニック 3

七海は鏡の前でくるりと回る。

スカートではなく、パンツスタイルの実習着姿だ。

ゲームでは見ることがない制服だったため、着替えてからずっと見ている。

貴族科の制服を基礎としており、襟元と両脇腹に青いラインがはいる。黒の合皮製の手袋には滑り止めもつき、普段杖を下げる腰には小物収納用のポーチがついている。ふくらはぎ下ほどまでのブーツはしっかりとしており、多少足場の悪いところを歩いたとしても問題ないように思えた。今回は使用することはないが、フード付きのマントも支給されており、軽量で悪天候時にも使える優れものだった。


「ゲームのデザイナーさんが考えたのかな…ゲームにも出してくれればいいのに…」


作りこまれた世界観、制服一つとっても丁寧に作られている。大好きなゲームだ。

それゆえにユズフィーナの笑顔のスチルとなったあの笑顔をどうしても見たかった。

そのためにはとにもかくにもまずは今日の課外授業だ。


「……課外授業って…フェル様のルートの中では話題にはあがったけど、フェル様が関与することがなかったよね。確かユニフェとかガイクスのルートだったはず。フェル様ルートなのは間違いないけど、ゲームで出てきたイベント一通りやるのかな」


鏡の中のリリアは眉を下げて不安げな様子を見せていた。今更ながらゲームの世界に転生したとして、本当に断罪を回避できるのかと思う。ゲームの流れを知っているだけで物語をたやすく変えられるとは思わない。

七海はコツンと鏡に額を当てた。


「怖い。できなかったら、どうなるの…ユズフィーナ様は…」


目をつぶる。怖がっていても仕方ないのはわかっている。ユズフィーナとの接点も少ない。フェルディアークのルートであれば、必然的に増えるものだと思っていた。

ため息をこぼした七海は自分の両頬をたたく。


「行こう、授業に。遅れちゃうし…」


杖を腰のポーチの脇につけると七海は部屋を出た。

同じ服装の女子生徒を幾人も見る。集合場所は学園の入口だ。そこにアイリスたちもいる。七海は自分の杖に触れる。ユニフェの補習は再開していない。自主練もできていないし、授業の実地訓練でもうまくいかない。魔法具も同様だ。

ヒロインであるリリアの魔力はよほど強いらしい。七海は自分の手の平を見つめながら歩く。握って開いてを繰り返していた。ばんばn魔法を使うのは楽しそうだなとは思っていたが、使うのがこれほどまでに大変とは予想していない。


「リリアの力だってどんなものか…消す力っていうことぐらいしかないしな。ていうか、ゲームの中でそんなに明かされてた…?ゲームの中では学生生活して、時折バイトみたいなことしてイベントしてって感じだから、リリアの魔力っていまいち何なのかわからないんだよね。続編とかで明かされることもあったのかな」


七海の疑問に答えるものはない。なるべく早めにユニフェにリリアの力について聞くことにして七海は学園に急ぐ。


「リリアちゃーん!」

「アイリスちゃん、間に合った?」

「十分間に合ったよ」


アイリスと合流する。すでにローリエが立っている。ガイクスたち一般科の生徒の姿が見えない。きょろきょろと探していれば、三人並んでやってくるのが見えた。七海が大きく手を振ると、アスターが大きく手を振る。セージはぺこりと頭を下げた。


「おはよう、ガイクス」

「あぁ」

「みんなも、今日迷惑かける気しかしないんだけどよろしくね」

「迷惑かける前提か」


ガイクスの言葉にメンバーが笑う。

集合の声がかかるとまとまって前を見た。七海たちと同じ服を着たユニフェが浮かんでいる。目が点になった七海にこそっとアイリスが声をかける。浮遊魔法だよ、と。

風属性の魔法の一つで、ものを浮かせるならともかく、自分に対して浮遊魔法を使うのは大変らしい。魔力の調整を間違えると飛んで行ってしまうらしい。しかもユニフェはその状態で話までしている。声が届きやすい。それもまた何か魔法を使っているのだろうか。


「さて、これから出発となりますが、貴族科のみなさんは王都外に出るのは初めてかと思います。一般科のみなさんはもしかしたらそれぞれの家族の事情によってでたことがある方もいると思います。いずれにしろ、これだけの人数が移動するのですから危険は増えます。あらためて言いますが、周囲の教員、生徒会員、学園騎士団の言うことには従ってください」


移動が始まる。授業先への森へは十分ほどらしい。

七海たちの班は比較的後ろの方にいた。学園騎士団はシグルドが団長を勤めているが、今日彼はいない。


「リリアさん、少しいいですか」

「あ、ユニフェ…先頭にいなくていいの?」

「教員がいますから」


ユニフェの声がかかると七海の足が止まる。

振り向けば、ユニフェがいた。

アイリスたちが驚いて同じように足を止める。ユニフェは七海の隣に来ると歩みを続けた。七海はその脇を歩く。


「あれから授業で魔法は使えましたか」

「ううん…やっぱり無理でね…」

「そうですか」

「だから、今日の授業も実は不安だったりする」

「…私がいます」


ユニフェの静かな声に七海を目を丸くする。だが、すぐに笑いかけた。ユニフェの力は知っている。それに前回の補習で暴走仕掛けた七海のことを止めてくれた。まだうっすらと傷跡が残るユニフェの顔を見つめる。


「知ってる。ユニフェを頼りにしてるから」

「ほかの生徒会メンバーも学園騎士団も、今回はあなたがいるので、もし問題が起きたとしても対応できる者を選びました。なので、今日の授業はしっかり受けてください」

「うん!あ、ユニフェ、それとね…」

「会長、いいですか」

「今行きます」


ユニフェは七海の言葉を遮る。またあとで、と言い残したユニフェはとん、と軽く地面を蹴ってまた空を飛んで、ユニフェを呼ぶ生徒会役員のもとに行ってしまった。話しておきたいことがあったのだが、仕方がない。

この課外授業はユニフェ、ガイクスの両ルートで出てきたもので間違いない。

ユニフェルートのときは、予想外にランクの高かった魔物を二人で倒すもの、ガイクスルートのときはおなじく予想されていたスライムよりも少しランクの高い魔物を魔法具を使って撃退するものだった。

ユニフェの能力が高いためか、ガイクスルートよりも少し魔物が手強かった覚えがある。

この課外授業が、二人のどちらかのルートを反映した結果出てきているものなのだとしたら、予期していたよりも強い魔物に混乱する現場が予想できた。


「でも、フェル様ルートに何で出てくるんだろう?」


七海の疑問は尽きない。考えても答えが出ることはないのだが、考えずにはいられない。七海は不安に顔を曇らせた。

大丈夫と言い聞かせる。これはゲームであって、何の不安ももつ必要はない。息を吸い、そして吐き出す。


「リリアちゃん、もうすぐでつくよ」

「うん」


アイリスに声をかけられた七海は頷いて気を引き締め直す。王都を出てから歩いた先は少し高い丘の上にある森だった。

背の高い木々が生い茂るその場所は日が当たりにくいのか薄暗い。

まさしく魔物が出そうな場所である。アイリスは七海のそばに近寄ってきてそっと服の端を握った。


「怖い?」

「少しだけ」

「大丈夫!このイベントは誰も傷つかなかったし、みんな無事に帰れるから」

「いべんと…?」

「そうそう。ユニフェとガイクスと親密度をあげるイベントで、ね…」

「俺がなんだって」


ガイクスの声が真後ろから聞こえた。ぱっと振り向けば少しだけ不機嫌そうなガイクスが立っている。その手には丸いボールが握られていた。


「あはは、ごめんね。なんでもないの。それより、ガイクスが持ってるボールはなに?」

「…魔法具。これにお前の魔力をちょっとでも流すと大きな音が鳴る。魔物は視力も聴覚も嗅覚もいいって聞くから、どれか一つでも潰せたら御の字だろう」

「サイレン…防犯ブザーみたいなものか…そんなに大きいの」

「本来は周辺の人間に危機を伝えるぐらいの音量だけど、少し改良加えたから、結構響く。それも高音で」

「魔物って高音だめなの?」

「人間もあまりに高い音聞くと頭痛くなるだろう」

「確かに」


七海はガイクスからボールを受け取った。まだ自分の魔力に不安があるのは確かだが、流す魔力が少量でいいのならば簡単かもしれない。

使うことがなければいいと七海は思う。ポーチにボールを入れて班のメンバーと森に入っていく。

各班で行動するように決まり、七海たちもそれに従って動く。教員や生徒会役員、騎士団は少し距離を置いて各グループを見守っているらしい。


「なんで平民と班分けされなきゃいけないんだ…」

「本当だよ。魔法具を使うしか能のない奴らのくせに」


ガイクスが舌打ちする。アスターやセージも眉をひそめている。ローリエが鼻を鳴らした。


「あぁいうやつらは魔法すらまともに使えないくせに」

「ローリエも苦手だもんね、魔法具」

「それでもあいつらよりは魔術工学は点数上だ。…そっちの平民よりは下だけど」


ローリエの視線の先にはガイクスがいる。


「…文句でも?」

「ない。魔法具は、魔法よりももっと繊細に魔力回路の構造を理解しないと作成することも、修理することもできないと聞いたから…少なくとも、工学の分野で成績がいいってことは、それだけ頭がいいってことだと、僕は思う…」

「ローリエくん、ガイクスのことをすごいって言ってるわけだね」

「そういうつもりじゃ…」

「でもローリエのいう通りだと思うな。私の家でも、魔法具会って、壊れたものを直そうとするとより壊しちゃったりするから…」


アイリスとローリエの会話に七海は小さく笑った。アイリスはともかくローリエのほうは友人と呼べるラインではないだろうが、七海の知らない貴族社会の一端を知ることができる。

貴族科の生徒の心無い言葉には反論はできない。七海は貴族科のいうことも一般科のいうことも、両方がそれぞれの視点から見た言葉であって、どちらが間違っていてどちらが正しいかなんてわからないからだ。


「こうしてみると、本当に普通の世界なんだよな…ゲームなんて要素、見当たらない」


七海たちはスライムを探して歩く。獣の声すらしない森の中は緊張に満ちていた。

そんな中で。


「あれ?」


七海の足が止まる。今一瞬何か見えなかったか。

薄暗い森の中で、何か動いた気がする。七海の考えているスライムはゼリーのような半透明で丸い目がついていて、ちょっと頭の先が尖ったものではあるが、そうしたものではないように思えた。

目を凝らした七海だが、藪の中からそれが出てくると目を点にした。


「…わんこ…」

「リリア?」

「…ね、ガイクス、あそこに見えるのわんこなんだよ。私にはハスキー犬に見えるけど…この世界、犬っていたっけ?」

「お前、何を言って……!」


ガイクスが七海と同じ方向に目をやって息をのむ。

グレーの瞳、黒い毛、尖った耳、七海からしてみるとそれは間違いなくハスキー犬なのだ。モフモフして、ピンク色の舌を出している。

だが、ガイクスは痛いと思うほどに七海の腕を引いて遠ざけた。気づいたアイリスたちが駆け寄ってくるも同じように彼らの顔は青ざめている。


「わんこだよ?怖くないじゃん」

「バカか!あいつは、ヴァルグ。群れ行動するB級の魔物だぞ」

「群れ行動ってことは…」


低いうなり声が周辺からする。七海たちがいる場所以外からもかすかな悲鳴が聞こえてきた。


「囲まれている…どうして」

「ここには、スライムぐらいしか出ないようになっているんじゃないの」


予期せぬ魔物が出た。それもかなり強いらしい。

ユニフェルートのイベントだ、と七海は思う。ガイクスは自分の魔法具を手にしている。アイリスは涙目で杖を握りしめる。

学園に入ったばかりの生徒が扱うような魔物ではないことだけは確かだ。


「…大丈夫…これはゲーム…だから、私が頑張れば、なんとかなる…」


七海も自分の杖に手を伸ばす。ガイクスとにらみ合っていたハスキー犬、もといヴァルグが牙をむきだして吠えた。

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