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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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19/22

課外授業でドキドキパニック

「さて、本日は次回行われる課外授業についての全体説明になります。死ぬことはありませんが、怪我をする可能性は少なからずありますので、きちんと聞いてください」


壇上のユニフェが口にする。広い講義室には、貴族科、一般科の一年生たちが集まっている。話題はもちろん今度の課外授業だ。

貴族科の多くが先日の夜会でシグルドが行った騎士の誓いの話を知っている。それもあってなおのこと遠巻きにされているのだろう。


「リリアちゃん、一緒に行動できるグループになれるかな…」

「自分たちで決めるならなりたいね」


七海の隣に座る女子生徒が小さな声でささやく。七海はその言葉にうなずいた。食堂そばで彼女の魔法具を拾ってから友人となったのだ。彼女は七海の境遇を知ってもなお、大事なものを一緒に拾ってくれたからと、七海を遠巻きにすることはなく一緒に授業を受けている。


「課外授業は王都から出て郊外の森へ向かいます。低レベルの魔物が生息する場所ですが、各クラスの担任の先生方、生徒会、学園騎士団がともに行きます。貴族科は魔法、一般科は魔法具を扱って一人一体は魔物を倒してみましょう。そのために課外授業までの通常授業は手を抜くことなく、そして少しでも不明点があれば先生方に聞くようにしてください。分からないことが多くて当然ですので」

「わからないことばかりだよぉ」

「リリアちゃんはまだ苦手が多いんだね…魔法具は使えそう?」

「ペンが精いっぱい」

「そっか…あ、なら、私いい人知ってるよ。貴族科でも噂になってる人」

「一年生?」

「うん」


彼女は講義室の中を見回した。その姿を見つけたのか七海をつついて指を指した。


「あれ…?」

「そうそう」


見えたのは普通科の制服だった。貴族科の白い制服とは色が異なり、黒地に赤いラインが入っているものだった。指さされたのはガイクスを中心とした一団だった。


「さて…個々でお話もいいですが、この課外授業は貴族科と一般科の垣根を越えて班を作ります。人数は六名まで、それぞれの科が半数になるようにしてください。今のところ、偏りが出る人数ではありませんので、問題ないですね」


ユニフェはぺら、と紙をめくる。二つの科の生徒一覧だろう。ちらり、と七海の方に目をやる。先日の夜会のせいで七海が浮いてないかと少々心配はしていたが今のところ隣の女子生徒と話しているのが見受けられる。その女子生徒が誰であるかも把握はしていた。下級貴族の一人だ。


「…あとはもうひとり貴族科の生徒が必要ですが、果たして見つかるか…」


一般科はユニフェにも馴染みがなくいまいち関係性が分からないが、貴族科はそうではない。派閥があるのだ。ユニフェの声でグループができ始めている。だが、一般科と貴族科が交わる気配はない。

当たり前だが、貴族科には貴族科の、一般科には一般科のプライドがあるだろう。

ユニフェたち側で決めてしまうのが手っ取り早いとは思ったのだが、例年生徒たちの相性や得意魔法・魔術を見るためにあえて個人で決めさせている。

七海はどうしているのだろうかとユニフェは目をやった。七海は女子生徒と連れ立って一般科の生徒たちのほうへ行く。


「ガイクスー!」

「…貴族科が俺なんかに何の用だ」


姿を見つけたガイクスのもとに七海はやってくる。七海だけならまだしも、一緒にいるのは貴族科の生徒だ。ガイクスは眉を寄せて顔をしかめる。別にその生徒が何をしたというわけではないが、ガイクスにとって貴族たちとはなれ合うものではない。


「何って、課外授業のグループ一緒に組もうよって言いに来たの」

「は?」

「ガイクスなら顔見知りだし、器用だし、いろいろ助けてくれそうだなって思って」

「あのなぁ…お前、俺をいいように扱うなよ」

「えへへ」


七海とガイクスの会話に女子生徒は目を丸くする。七海の制服の袖を引っ張ると顔を寄せた。


「リリアちゃん、知り合い?」

「うん。ガイクスだよ。幼馴染なの」


七海は、ねっ!とガイクスに笑いかける。だがガイクスは難しい顔をして七海を見ていた。

ガイクスは貴族を嫌っている。平民で幼馴染のリリアが学園の貴族科に入ることになったのもそれに拍車をかけているのかもしれない。だが、リリアが貴族科に入ることになったのは特別な力ゆえであり、リリアが望んだわけではないことも確かだ。


「あのね、リリアちゃん…この人、魔法工学の成績が一年生の中で一番なんだよ」

「ガイクスが?本当?」

「うん。貴族科の生徒でも魔法工学って苦手な人多いのに、すごいと思う。魔法具の扱いもすごく上手なんだって」

「さすがガイクス!すごいね。私なんてペン使うのだけで精いっぱいなのに…今度、魔法具の扱い教えて!」


七海の言葉に何の駆け引きもないことはわかっている。素直にガイクスとグループを組みにきたのだ。ガイクスとしてもほかの名前も知らない貴族科の生徒と組むよりかは幼い時から知っているリリアと組んだほうがやりやすいと思っていた。ただ、貴族科の生徒のほうへ行くことができなかっただけだ。


「わかった…」

「ありがとう!そっちの二人はガイクスの友達?」


ガイクスの後ろで様子を見守っていた一般科の男子生徒二人と七海は目を合わせた。二人はぎょっとしつつもガイクスの顔を見る。ガイクスはうなずいた。


「そ。俺と同じクラス。眼鏡のほうがセージ、隣のそばかすがアスターっていうんだ」

「よろしくね!私、なな…じゃなくて、リリア!それから彼女はアイリスちゃん!」

「よろしくお願いします」


ぺこり、と七海の初めての友人であるアイリスが頭を下げる。セージと呼ばれた眼鏡の男子生徒は少しだけ不安げな色を浮かばせつつも小さな声でよろしく、とつぶやく。くりっとした丸い瞳にそばかす顔の男子生徒は七海とアイリスを交互に見てからぱっと顔を輝かせた。


「ガイクス、こんなかわいい子が幼馴染なんてどうして教えてくれなかったんだよ。時々貴族科のほうを見てたのはそういうことかー」

「アスター、どういう意味だ」

「またまたぁ。怖い顔しちゃって。そのリリアちゃんが好きなくせに」

「アスター!!!」


ガイクスの大きな声にびっくりするものの七海は笑った。七海はゲームの中でリリアと交流するとき以外のガイクスを全く知らない。魔法工学が得意だというのも、ファンブックなどには書いてあったが、実際ゲームの中では登場しないに等しかった。


「そうなるとあと一人、貴族科を探さないといけないのか」

「そうですよね」


七海は貴族科の生徒たちによく思われてはいない。アイリスやガイクスたちの迷惑になってしまう。

しゅん、としょげる七海を見たアイリスは貴族科で余っている生徒がいないかと見回す。

貴族科、一般科単位で分かれた状態でグループはできているが、まだ組んではいないらしい。先程ユニフェは偏りが出ないと口にしていた。アイリスと七海が組んだのだからどこかにあまりがいるはずだ。きょろきょろとしていれば顔なじみの子爵令息を見つけた。


「リリアちゃん、待っててね」

「アイリスちゃん?」


七海をその場に残したアイリスは人をかき分けて一人立ったままの子爵令息のもとに向かう。腕を掴めば驚いたように目を丸くする。


「ローリエ、私と組もう?」

「アイリスか…君が組んでいるのはあの平民だろう?」

「リリアちゃんは平民だけどいい子だよ。補習も頑張ってるし。余りでしょ?ほら、行くよ」


アイリスが令息を引きずって七海のもとに戻る。

七海も知らない顔だった。七海とアイリスは同じクラスだが、別の貴族科のクラスだろうか。


「ローリエです、子爵令息で私の知り合いなんです。リリアちゃん、一緒のグループでいい?」

「もちろん!はじめましてだよね、私リリア!あと私の幼馴染のガイクスと、ガイクスの友達のセージくんとアスターくん」


にこっと七海は笑う。ローリエと呼ばれた令息は気難しさを示すように眉間にしわを寄せていたが、顔を背けて小さく、よろしく、と口にする。

これで人数が揃った。壇上のユニフェを見ると、確認したのか七海に向かって頷く。

それを契機としたのか、恐る恐るといった様子で貴族科と一般科が組みを作り出す。


「さて…全員班分けは終わりましたね。詳細はあとでクラスごとにお渡しします。念押しですが、課外授業です。王都の守護結界から出ます。遊びではないことを肝に銘じてください」


ユニフェがそう言い残して課外授業の説明が終わる。

七海はガイクスたち一般科の生徒を向いた。


「ね、お昼一緒にどう?アイリスちゃんも、ローリエくんも、どうせ一緒に班だし、仲良くしたいじゃん」

「いいの?」

「俺達、貴族のマナーなんてわからないぞ」

「じゃあ、食堂でお弁当もらって外に行こうか。天気いいし」

「俺はいい」

「ローリエも行くの」


アイリスがローリエを引っ張る。その後ろをセージとアスターが追いかけた。ガイクスと七海は並んで歩く。


「いいのかリリア」

「なにが?」

「俺たちで」

「うん。だって、ガイクスな知ってる人だし…それに、たぶん今の私はアイリスちゃん以外に貴族科の友達もできそうにないし」

「それ、この前の夜会のこと?」


ガイクスの言葉に七海は彼を見た。あの場所にガイクスもいたのだろうか。魔法工学の分野で成績が優秀といえど、一科目だけで参加できるものではなかったかもしれない。

七海のわずかな疑問を感じたのかガイクスは少しだけいたずらな笑みを見せた。


「給仕に紛れ込んだ。だから知ってる……リリアのドレス姿も見た」

「見たの!?」

「遠目、だけどな……似合ってた」

「あ、ありがと……恥ずかしいね、見られてたなんて」

「そのあとのことも見た」


七海の足が止まる。シグルドの七海を見あげる顔を思い出した。広間の輝きを反射する群青の瞳や、必要最低限の装飾品で飾られた黒一色の騎士の服など、思い出すだけで顔に熱が集まる。


「…武の名門ヴァイルハルト家、現王の近衛騎士団団長をも務める当主の息子が、リリアが誓いをたてられたあの男だ。フェルディアーク殿下の側近で、小さい頃から一緒だったらしい」

「詳しいね、ガイクス」

「知らないやつはいないって…まだ正式なセレスティア騎士団の一人じゃないけど、時折騎士団について遠征も行ってるらしいし」

「遠征にも…危なくない?」

「危なくないわけがないって。遠征だぞ。他の国とぶちあたることもあるだろうし、魔物だって王都周辺どころじゃない」


七海の顔色がわずかに変わる。これはゲームだ、と自分に言い聞かせる。だが、揺らぐ。

ぽん、と七海の頭に手が乗った。ガイクスと目が合う。


「死ぬことはないと思うけどな」

「そ、だね…」

「…リリア、課外授業、怖いか」

「そりゃそうだよ、はじめてだもん」

「俺も。話は聞いてるけどな。滅多なことじゃ魔法を使えない平民がどうにかできるのが魔法具だし…安心しろ、お前のことは守るから」


七海はガイクスを見て、それから笑う。


「信じてる」

「……おう」


ガイクスははにかんだ。アイリスとアスターが食堂の空いている席を見つけたらしく二人に向けて手を振っている。七海は少し小走りにそちらへ向かった。ガイクスは七海の後ろ姿を見つめる。


「…お前は本当に”リリア”なのか…」


ガイクスの口から小さな疑問がこぼれた。いつか本人に問いかけたい。だが、直接聞くのも怖い気がした。

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