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乙女ゲーのヒロインになったので推しの断罪フラグへし折ります  作者: しろがね瑞紀


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13/22

side 王子

平民の子が貴族科に入ってくる。そういわれた年度初め、私はただそうか、としか思わなかった。何の因果でやってくるのかは知らないが、平民が貴族の中に入ったとしても一か月ももたないだろうと予測がついたからだ。




「”(くう)”の魔力を持っている」


学園長がそう口にした。私と、同じ室内にいるユニフェ、シグルドの空気が変わった。


「…伝承では?」

「いや、確かに発現している。平民街で貴族連中が、気に入らないという理由だけで、平民の子供を魔法で打とうとしたときに庇ったらしい」

「貴族の風上にも置けないな」


武門の出で学園の騎士団を取りまとめているシグルドが低く呟いた。


「貴族は平民を守るべきですからね」


生徒会長のユニフェが告げる。そうだ、とうなずく学園長は言葉をつづけた。


「打たれた魔法がその少女の前で消滅した。平民たちも魔術を使うことはできるが、魔法を扱えるものは少ない。世界に干渉する術を知っているわけではないからだ。だが、その少女は魔法を消した。世界に干渉し、打たれた魔法そのものをなかったこととしたのだ」

「…まぐれでは?またはほかの誰かが」

「いいや。彼女以外は庇うことすらしなかった」

「それで、その貴族は」

「己の魔法によほど自信があったらしい。家に逃げ帰ってからは引きこもっているようだ」


シグルドが鼻で笑う気配がした。貴族ゆえに、平民の娘一人に自分の魔法が消されたことがよほどプライドを傷つけたらしい。くだらない。


「空の力は放っておくべきではない。当人のためにも、周りのためにも」

「ゆえに、学園でしばらく様子を見ると」

「そうだ。一般科に入れては我々の目が届かなくなる。だから貴族科に入れた」


学園長いわく、そのことを知るのはその平民の入るクラスの担当および養護教諭、私たち三人と極小数の教師だけだという。ほかの貴族科の生徒たちはおろか、平民である彼女がなぜ貴族科に入ることになったのか知らぬ教師のほうが圧倒的に数が多い。

だが、知られてはならぬ。知られれば騒ぎになる。情報は必要最小限にするという。


「たかが一学生に重荷背負わせすぎなんだよ、学園長」

「僕たちならやり切れると判断したのでしょうね。殿下やシグルド先輩は今年で卒業なんで、来年は僕一人ですけど」

「それは申し訳ない。でも、来年にはその平民の子も自分の力について理解して隠しているかもしれないからユニフェのその心配は不要かもしれないね」

「だといいんですけど」


息を吐いたユニフェは生徒会の仕事があるから、とすぐに別れた。シグルドは学園騎士団の訓練があるという。


「フェルディアーク」

「なんだ、シグルド」

「入れ込むなよ」

「…どういうことだ?」

「なんとなく。お前は」


シグルドは言葉を切った。続きを待ったが、まぁいい、と彼のほうから会話を切ってしまう。

訓練場に足を運ぶ後ろ姿を見送り、一人廊下を歩く。中庭を挟んだ反対側の通路で女子生徒が固まっていた。その中心にいるのは藤色の髪をもつ令嬢だ。

彼女はユズフィーナ、私の許嫁であり、この国でもっとも高貴な令嬢である。表情には笑みすら浮かばない。完璧と言われる彼女に、私は何の感情も持たなかった。それは彼女とて同じだろう。王家の婚姻に本人たちの意思などない。


「…恋人など、望めるわけもない」


ひとり呟く。

セレスティアただ一人の王子には国を守るという使命がある。たとえ自分が嫌がっても、父である王が退けばそのあとは自分がなるほかない。

国をなくすわけにはいかない。そして国を背負う以上、自分が好きになったから、という理由だけで付き合いができるわけではないことも理解している。運のいいことに両親は仲睦まじい。侍女頭曰く、かつてはそうではなかったというが、私が見る限り、王も王妃も互いを好きあって見える。


ならば、いつかユズフィーナともそうなれるのか、と自問はしたことがある。だが、想像など着くはずもなかった。恋などしたこともない。甘いしびれに心を震わせることも、どうしようもないほどの嫉妬に身を焦がすこともない。恋など理性的ではない。

そうは思っていたのだ。




「はじめまして、殿下!」



はちみつ色の髪をした少女は少し緊張した声ながら笑顔で口にした。

特異な魔力を持つ平民の少女は貴族科の制服に身を包み、私に一礼して見せた。膝折礼(カテーシー)としては少しぎくしゃくとした動きだが、付け焼刃であれば仕方ないだろう。

魔力を探り、彼女がそうなのか、と理解する。


「初めまして。あなたが、平民でありながら貴族科に入ることになったリリアさん」

「はい」

「私はフェルディアーク。この国の王子です。学園では一生徒として過ごしていますから、殿下と呼ばないで大丈夫ですよ」


初対面でそんな会話をした。




初対面?



ふと、自分の中にそんな疑問がわいた。

否、初対面のはずだ。平民街に行くことはめったにない。ましてや、王宮と学園を囲むようにして広がる平民街は広く、たとえ行ったとしても出会うなどないだろう。それに彼女から感じる魔力は特殊で、一度会えばいやでも覚えられる。

だが、彼女の魔力を感じたことは今このタイミングを除いて一度もない。私自身記憶力が悪いわけではない。多くの貴族たちの顔と名前を憶えてきているのだから、特異な魔力を覚えていられないはずはない。


「…フェルディアーク様?」

「…申し訳ありません、少し考え事をしていました」


学園を案内するという名目で二人並んで歩く。彼女と他愛ない会話をした。時折感じる既視感に眉を寄せる。

しかし考えても答えは出ない。口を閉ざした。彼女はきらきらとした目で学園を見ている。



前も同じだった。



ふと、そんなことを思った。

前?そんなことを思った自分がいる。前もこんな場面に立ち会った気がする。だが、その考えは霧散した。


「ありがとうございました!これからよろしくお願いします」


眼の前で笑う彼女に微笑み返す。うまく笑えただろうか。

彼女を学生寮まで送り届けてから踵を返して王宮に向かう。胸の奥に黒いモヤのようなものがある。それがなんなのか、私自身わかるはずもなく、それからしばらくして"彼女"と出会った。同じなのに、まるで印象がちがう、彼女に⋯

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